第2話「ハヤトとの出会い」

「ああ! お外は気持ちいいなあ!」


ポカポカの春がやってきた。

ママさんは、ぼくの鳥かごをベランダに出して、日光浴をさせてくれるようになったよ。

お日様の光を浴びると、からだにとっても良いんだって!

ぼくもお外に出るの大好き! ぽかぽかとした温かいぬくもりが、ぼくを優しく包んでくれるんだ。


ママさんが、お洗濯物を干している間に、ぼくとは違う種類の鳥さんがやって来て、

ぼくに話しかけてきたんだ。


「おれは、燕のハヤトっていうんだ。君の名前は?」


ハヤトは、藍黒色のつやつやした色のヤツで、長い翼とスラッとした細身のからだがとってもカッコよく見えた。


「ぼくの名前は、ピースケ。中村ピースケ! セキセイインコって鳥さ。君はどこのお家で飼われているの?」


「俺か? 俺は“渡り鳥”なんだ。色んな世界を旅してて、この時期になるとここに来て巣作りやら子育てやらをするのさ。少し前までフィリピンっていう国で旅をしていたのさ」


「えっ? じゃあ、ハヤトにはお家がないのかい? ゴハンとかはどうしているのさ?」


「家はないけど、この家の近くの商店の軒下に巣を作ったぜ! この前子どもたちも生まれてさ、今、嫁さん子育てで忙しいから、俺がミミズとかのエサを調達してるのさっ!」


(ふぃりぴん? たび? みみず?)

ハヤトの話は、ぼくにとっては未知の世界の話だった。


(それって、幸せなんだろうか?)


ぼくは、思い切って、ハヤトにきいてみることにした。


「君は、ずいぶんと大変そうな暮らしをしているようだけど、それって、とっても不便だし、可哀想だね」


ハヤトは、ちょっと、ムッとした表情をした。


「可哀想なもんか! 俺から見たら、君のほうがよっぽど可哀想に見えるよ! こんなちっぽけな鳥かごの中で独りぼっちなんて……俺だったら気がおかしくなっちまうよ!」


「ぼくが可哀想? 君、おかしなことを言うね。ぼくにはぼくを愛してくれるパパさんとママさんがいるんだ! 毎日お水やゴハンをもらえて、鳥かごの中もいつもきれいにお掃除してもらってるし、お天気がいい日は、こうして日光浴もさせてもらってる! 何ひとつ不自由のない平和な毎日を送っているんだ! そんなぼくのどこが可哀想なんだい?」


「ふうん……君がそれを幸せだと思っているのなら否定するつもりはないけど、かごの外の世界は君が思っている以上に広いんだぜ! そりゃあ、エサが捕れなくて餓死しそうになったり、おっかない鷹に襲われたり……安心して過ごせる時間なんてないけど……その分、美しい景色を見たり、素敵な出逢いがあったり……まあ、平和ボケしている君に言ってもわかってもらえないか……」


そう言って、ハヤトはぼくの元を飛び立って行った。

その姿は凛としていて、悔しいけど、とても格好良かった。


「ぼくは、なんてちっぽけな存在なんだろう……」


ぼくは、ハヤトのことを心底羨ましく思った。


ハヤトとの出会いから、ぼくは、今まで一度たりとも疑うことのなかった平穏な暮らし、それこそが最高の幸せだと思い込んでいた自分の暮らしに疑問を持つようになった。

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