#柊晶(ひいらぎ あきら)の独白

 冬の終わりを告げるかのような凍てつく空気が部屋に満ちていた。

 私はその窓辺で深いため息をつきながら愁いを帯びた眼差しで世界を観察する。

 一人の男性としてこの世に肉体を与えられ、しかしながら内なる心は女性であるという現実を、今の私は黙して受容せざるを得ないのだ。

 私の拳は、しばしば力無く自らの肉体に抗い、叫ぶ。

 だがそれもまた、内に秘めた微細なる女性の心の声がやんわりとそれを静める。

 この肉体は、何と無機的でありながらも重厚な、ある種の不可解な悲壮感を私にもたらす。

 何となく枯れた枝に目をやる。

 それは春を待ち侘びているが如く、自分の中の女性らしさもまた、窒息するほどに孤独を抱えているように思えた。

 日常は続く。

 一人の男性としての役割を果たしながらも、私の心は女性の微細な感覚、繊細な感情を噛み締めている。

 友人たちとの肩を並べる中でさえも、私はしばしば果たさなければならない自己演出に疲れ果てることがある。

 しかしこの小さな部屋に戻れば、私は休息を得る。

 女性の魂が自由を得て、私の中で踊りはじめる。

 それは私にとっての真実のひとときであり、そしてまた、宿命のようなものでもある。

 独り、鏡の前に立ち、自らの女性らしい心の動きを確認する。

 この部屋では、私は無造作に着られたドレスに思いを馳せ、内なる自己に誠実であり続ける。

 世界は私に二つの顔を要求する。

 男性として堅固なる外面を装いながら、私はもう一人の自分――女性の精神――と密やかに対峙する。

 この狭間での生、複雑に絡み合う感情、文字でしか表現できぬ真実を抱えて生きている。

 時には、女性の繊細さを秘めた視線で世界を見つめ、他人の悲哀や喜びを根深く感じ取る。

 そして静かに、内に秘めた女性の心が疼く。

 だがそれは同時に、深い静寂の中でのせつない調べともなる。

 この二重の存在、男性として肉体を持ちながら女性の心を持つという生をどう受け入れるか。

 ふたりの自分はそれぞれ、自身の中に抗いがたい流れを抱えながら、自らの居場所を模索する。

 そしてそれは、遠い昔から続く人間の探求――自己の理解という名の星座を、夜空に探し求める旅に他ならない。

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