【短編小説】魂の交響曲(コンツェルト)、本当の「私」になるために
藍埜佑(あいのたすく)
#葵樹(あおい いつき)の独白
柔らかな桜色の光の中で、私は堅く閉じられた部屋の窓辺に佇立ち、外界へと思いを馳せた。
私の魂は一筋の光に導かれるように、肉体という外殻へと吸い寄せられた。
それは女性の体でありながら、心は一人の男性としての悲哀と苦悩を抱えていた。
春の気配がすることのない、この部屋は私の心象風景のようなもの。
壁には古い写真が貼られ、私の過去を静かに語りかける。
私は時に、自分の存在を疑わしめるような、この矛盾した自己の立場に身を置くことの意味を、深く深く思索した。
私は毎朝、鏡の中の自分を見つめ、女性としての肉体の線を辿りながら、内に秘めたる男性の魂と対話をする。
この悪魔が着せた忌まわしい鎧を、私は脱ぐことができるのだろうか。
まるで、二つの世界が一つの形に閉じ込められたかのように感じられた。
心と体の永遠の謎は、私の存在そのものを揺らがせ、不確かなものにしていた。
しかし、時折、私の内なる男性の心は、力強くその存在を主張する。
筆をとり、男性としての思いを文字にしてみせるのだ。
紙面に刻まれる言葉は、女性の肉体を持ちながら男性の心を持つ私の、唯一無二の真実となる。
そうして私は覆面作家としてそれなりの地位と名声を得ていた。
しかし私の魂が本当に満たされることは、おそらく永遠にない。
外出するときも、私はどこか漂うように歩く。
女性としての服を着ることには未だに慣れない。
心の片隅では男性としての私を追い求めている。
自分がどちらか一方に絶対的な帰属を感じることはなく、世間の目から逃れるように、そっと微笑んでみせる。
友人たちとの会話の中でさえ、私の核となる心は時に隠れてしまう。
彼らは何も疑わず、私を一人の女性として扱うが、私の心に秘めた男性としての声は、さまざまな形でその存在を表す。
そして、その声は私の心の奥深くに響き渡る。
私が直面するのは、最終的に自己との和解である。
肉体と心が異なる性を有しているという事実をどのように受け入れ、どのように世界と向き合っていくのか。
これは単なる葛藤ではなく、私の存在意義を探求する旅なのだ。
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