弐
私が余命宣告をされたのは半年前のことだ。一年……もってあと一年半。主治医にそう言われた時、母は号泣し、父は沈痛な面持ちで必死に涙を堪えている様子だった。それなのに、私は、桎梏から逃れ自由の身になれるような気がして、心の奥底で安堵していた。
私は、三年前、十二歳の時に遭遇した不幸な事故により、前後一年ほどの記憶が抜け落ちている。目前に迫っている「死」よりも怖ろしいと感じる何かが、失われた記憶の中に潜んでいる。私は、その正体と、「ちるらむ ちるらむ」という声との間に因果関係があると確信していた。まだ動くことができるうちに真実を突き止めたい、という強い思いが私を駆り立てた。
私が衰弱していく一方で、「ちるらむ ちるらむ」の声は日に日に激しさを増し、昼夜問わず、私に耳にべったりとへばりついた。あまりのしつこさに苛立った私が、声の主の気配を払いのけると、赤黒い血が指先に絡みついた。恐怖で失神した私が目を覚ますと、枕元に、
―― マチハズレ ハイビル ハナビタイカイ コンヤ キテネ
という、血文字のメモが置かれていた。私がメモを読み終えると、そのメモは紙吹雪が掃除機に吸い込まれるように消えていった。右手に付着した筈の赤黒い血液も綺麗に消えていた。
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