ちるらむ ちるらむ

喜島 塔

 ―― ちるらむ ちるらむ


 嗚呼、また、あの声だ。


 私は、その声を無視して眠りに就こうと試みたが、声はどんどん大きくなり、少しずつ近づいてくる気配すらする。とうとう、声は、私の耳元にまで到達した。堪らず目を覚ますと、私の視界には、此処彼処を虫に食われたような模様の天井が飛び込んできた。思わず、ギャッと声を上げると、病棟を巡視中の夜勤の看護師さんが薄緑色の間仕切りカーテンの中に入ってきて、


彩織いおりちゃん、大丈夫? 痛いときは我慢しないで言ってね」

 と尋いてきたので、私は、

「いえ……大丈夫です。痛みはないです……ただ、変な声が聴こえてきて眠れないんです。お薬の副作用なんでしょうか?」

 と尋いてみた。

「うーん。彩織ちゃんが服用しているお薬の中に、幻聴の副作用が出るものはない筈なんだけど……」

 看護師さんは処置ワゴンの上に置かれたノートパソコンで私の個人情報を見ながら答えた。

「明日、岩淵いわぶち先生がいらっしゃったら、確認してみますね」

 そう言って、看護師さんは優しく微笑んだ。もしも私に大人になる将来があるのなら……看護師になるのもいいな、と思った。

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