第9話 学園一の美男子
持ち主となった者の悉くがダンジョンで命を落とした曰くつきの妖刀、紅桜。
酷く悲しげな声が放っておけなくて、譲り受けることにしたんだけど。
「ねぇ、本当に大丈夫? お腹とか痛くなってない?」
「体調に変化はないよ。大丈夫だって」
「そうは言ってもさぁ、心配だなぁ」
「それに今までの持ち主はみんなダンジョンで命を落としてる。つまり日常生活に支障はないってこと」
「でも今日、実技の授業あるよ?」
「……忘れてた」
「えぇ!?」
すっかり記憶から抜け落ちていた。
そうか、今日は実技の授業があるのか。
「不味いな。まだ紅桜と対話が出来てないんだ」
「スキルで声が聞こえるんじゃ?」
「剣によるんだよ。個性と言うか性格というか。直ぐに対話に応じてくれる時もあるし、うんともすんとも言わない時もある」
中々心を開いてくれない剣には時間を掛けるしかない。話しかけ、手入れをしてやり、実戦で使う。
そうして信頼関係を築いていけばいずれ対話にと応じてくれるようになる。
「へぇー、なんか生き物みたいだね」
「そう、千差万別なんだ」
「で、紅桜は手強いと」
「全然、返事をしてくれない……悲しい感情だけは伝わるんだけどな」
わかるのは本当にそれくらい。
他には情報を少しも渡してくれず、ただ泣いているだけ。
よくよく涙に縁がある。
「座学の授業までになんとか……」
「なる?」
「ならないかも」
「あ、あたしが颯也を守らなきゃ!」
なんとかして紅桜が悲しんでいる原因を突き止めなければ。涙の理由を知らないと。
§
学園一の美少女が万丈小杖なら、その双璧をなす学園一の美男子は
恵まれたルックスと身体能力を持ち、成績優秀。実家が裕福なこともあって取り巻きも多く、月に何度も女子生徒から告白を受けているとか。
そんな江藤が昼休みに小杖を訪ねてきた。
「万丈さん、いる? 話があるんだけど」
「あたし? なに?」
「ここではちょっとね。一緒に来てくれる?」
「ふーん、わかった。じゃ、ちょっと行ってくるねー」
「あぁ」
ふと江藤と目が合う。
一瞬、その口角が釣り上がったのを見逃さなかった。見せ付けられたのかも知れない。
笑われたな、いま確実に。
「キャー! 万丈さんと江藤くんが!?」
「マジかよ、今まで接点なかったのに!」
「似合いすぎ! 絶対くっついてほしい!」
「ビッグカップル誕生か?」
「鶴木ざまぁないな」
好き勝手言うクラスメイトは置いておいて、小杖はどうするつもりだろう?
江藤と付き合うことになっても俺と友達でいてくれるだろうか?
なんか、胸がもやもやするな。
と、そんなことを考えていると、直ぐに小杖が戻ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
「でね? 話の続きだけど」
「う、うん」
何事もなかったかのように。
「あれー? どこまで話したっけ? えっと、あぁ! そうそう! 実はその時――」
周囲の視線が俺に刺さる。
どうなったか聞けと、暗に要求されていた。
俺としてはこうして話してくれている以上、友達関係は継続されているので、別に江藤と小杖がどうなったかはさほど問題じゃない。
気にならないと言えば嘘になるけど。
「待ってくれ、万丈さん! どうしてダメなんだ!?」
教室に大声が響き、クラスメイトの視線が一点集中する。人目も憚らずに獣のように叫んだのは江藤だった。
「えー、さっきも言ったじゃん。あたし颯也と一緒に実技の授業受けるの」
「そんな奴と天秤に掛けられて
あぁ、いま気付いたけど、あの時の笑みは勝利の確信だったのか。小杖は自分を選ぶはずだと信じて疑わなかった。
結果は違ったわけだけど。
「劣る劣らないじゃなくてさ、あたしが颯也と一緒に居たいの」
俺が紅桜に殺されないように。
「わかった?」
「そ、そんな馬鹿な……」
その場にへたり込んだ江藤は、灰になってしまった。
小杖を誘えなかったこと、というより江藤を差し置いて俺のほうを優先したことが、余程ショックだったみたいだ。
江藤のプライドが粉々になった音がした。
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