第6話 二度目の涙

「悪いな、小杖。助かった」


 折れた先を拾い上げる。

 その刃は痩せた元の姿に戻っていた。


「いいの。切醒も本望だったと思う」


 折れた先と残った刀身を手渡し、それが鞘を通る。


「颯也のお陰で最期まで剣としてあれたから……でも、やっぱり……」


 小杖は瞳から零れ落ちる涙を隠すように、俺の胸に顔を埋めた。

 俺に出来ること言えば、小杖が泣き止むまで胸を貸してやることくらい。

 小杖の気が済むまでこうしていることに決め、魔物が現れないかだけ警戒することしばらく経って。


「ごめん、戦闘服汚しちゃった」

「戦闘服は汚れるもんだよ。それよりもういいのか?」

「うん。いっぱい泣いてすっきりした。ありがとね、胸を貸してくれて」

「俺で良ければいつでも。友達だろ?」

「あはは、そうだね。じゃあ、颯也が泣きたくなったら言ってよね。あたしの胸を貸したげるから!」

「それはどうかと思うけど、相談するよ」


 最後に討伐の証に角をミノタウロスから切り取り、光影も忘れずに回収して帰路につく。

 ダンジョンから無事に帰還すると、何やら大人たちが騒がしく行き交っていた。


「早く! ミノタウロスだぞ! 学生がいつまで持つかわからない!」

「今から行って間に合うのか!?」

「間に合わせるんだよ、 急げ!」


 会話の内容からして。


「もしかして救助隊かな? あたしたちの」

「たぶん」


 先に一人で勝手に逃げたあの男子生徒が報告したんだろう。最低限のことはしてくれていたみたいだ。

 だからと言って許すつもりはないけど。

 結果的にミノタウロスの相手をなすり付けられたし。


「じゃあ、俺たちは無事ですっていいに行くか」

「うん、そうしよっか。颯也がミノタウロスを倒したって聞いたらみんなびっくりするよ!」

「倒せたのは俺一人の力じゃないけどな」


 小杖、光影、そして切醒。

 みんなの力があってこそ、ミノタウロスと言う強敵に勝てた。

 感謝しないとな。


§


「ミノタウロスを倒したってマジなの? あの鶴木が? 嘘でしょ」

「俺たちでも無理だぞ。絶対嘘だわ。一緒にいた万丈になんとかしてもらったに決まってる」

「いや、その万丈本人が言ってんだぜ? 鶴木が倒したって。その上自分は殆ど役に立たなかったとまで」

「マジ? 鶴木ってそんなに強いの? 想像つかねー」


 教室中が昨日の話題で持ち切りだった。

 ミノタウロスはダンジョンの半ばほどにいる強力な魔物。本来なら学生が束になっても勝てない相手だった。

 俺も実力で勝ったとは思ってない。

 勝てたのは小杖と二振りの剣のお陰だ。

 とはいえ、そんな事情をクラスメイトは知らない訳で。生徒間であらゆる憶測が飛び交っていた。

 実力を隠していた説。

 小杖の手柄を横取りした説。

 運が良かった説。

 ミノタウロスが手負い、または弱い個体説。

 そもそも戦ってない説などなど。

 中には荒唐無稽な説もあるけど、多種多様に囁かれている。


「なぁおい、お前が救助呼んだんだろ?」

「お前、万丈と鶴木おいて逃げたのか?」

「うるせぇな! 黙ってろ!」


 あの男子生徒も俺や小杖ほどではないけど、話題になっているみたいだ。

 彼にとっては幸運なことだけど、ミノタウロスを俺たちになすり付けた話はまだ出回っていない。

 俺も小杖も、もちろん彼も、その話をしていないから当然だ。

 すれば彼は学園に居られなくなる。

 それは流石に憚られた。せいぜい、いつバレやしないかとビクビクしていてもらおう。

 それが彼の罰だ。


「席につけー、実技の成績を発表するぞ。出席番号順に取りに来ーい」


 先生が教室に入り、静かになる教室。

 順番に成績表を受け取り、俺の手元にもやってくる。席について目を落とすと成績表にはこう書かれていた。

 討伐数、ホーン・ウルフ三体、ミノタウロス一体。

 実技評価、一位。



――――――――――



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