第3話 ダンジョン
「付き合ってるの!?」
「さーて、どうだかねー」
ついに教室まで腕組みは継続し、すでに席についていたクラスメイトが全員立ち上がるという物珍しい現象が出来上がった。
小杖は直ぐに女子の群れに攫われ、質問攻めを受けている。当の本人はのらりくらりとはぐらかしている様子。
ちらりと聞こえたけど、付き合ってるかどうかは、ちゃんと否定しておいたほうがいいんじゃないか?
「騒ぎになってる」
男子生徒は遠巻きに俺を恨めしそうに睨みつけ、その更に奥では教室の窓越しに他クラス、他学年の生徒がこちらを凝視している。
まるで動物園の檻の中だ。
改めて小杖の人気者っぷりがわかる。これだけ影響力を持った生徒も他にいない。
そんな小杖が味方になってくれたのは心強いけど、それと同じくらい不安になるのはいけないことだろうか?
「まぁ、なるようになるか」
そう一人諦めたようなことを呟いて、携帯端末に目を落とす。
メッセージが届いていた。小杖からだ。何人もの女子に囲まれていて、よくメッセージが打てたな。
内容は。
「午後の実技、ペア組もうね」
そうか、午後は丸々実技の授業か。
生徒同士でペアを組み、実際にダンジョンで魔物と戦うことになる。
俺と組みたがる物好きなんて今までいなかったから毎回先生と組んでいたけど、今回は友達と組めるのか。
ちょっと、ちょっとだけ、楽しみかも。
§
午前の座学を終えて、校門からバスが出発する。それに揺られることしばらく。俺たち生徒はダンジョンに到着した。
無数の岩や石に埋もれるように建つ、古ぼけた遺跡。舗装された道を辿ると、苔生した出入り口がぽっかりと口を開けている。
そして、着いて早々、また小杖は女子の群れに攫われていた。
「止めときなよ、あんなのとペアなんて!」
「いざって時、どうするの!?」
「あんなスキルじゃ役に立たないよ!」
「危なくなったら一人で逃げるかも!」
酷い言われようだった。
弱いと言われるならまだしも、人格否定までされている。俺の何を知っているんだと言いたいところだけど我慢しよう。
こういうのには慣れてる。
「そんなこと言わない。大丈夫だって。ほら、先生戻って来るよ。ほらほら」
「小杖ー、真面目に聞きなってー」
「聞いてる聞いてる。行った行った」
俺たちの代わりに手続きをしてくれた先生が戻り、この場にいる生徒全員にダンジョンへ入る許可が降りた。
「頑張ろうね」
「足を引っ張らないように気をつけるよ」
先生の指示で順番にペアがダンジョンに入っていく。俺たちの番もすぐに回り、友達と初めて一緒にダンジョンへ踏み込んだ。
石畳の地面と壁、浮かぶ燭台に尽きない蝋燭。見慣れたダンジョンの内装も、どこか新鮮に映るのは友達と一緒だから?
なんてことを考えていると。
「見慣れてるのになんか新鮮に感じちゃうね。颯也と一緒だからかな?」
小杖も同じことを考えている。
そのことが少し可笑しくて隠れて笑った。
「かもな」
表情を引き締めてダンジョンの奥へ。
魔物を警戒しつつ通路を渡る。
「討伐目標はホーン・ウルフか」
角の生えた狼の魔物。
肉食で獰猛な性格で牙爪共に鋭くて頑丈。油断すると喉元を噛み千切られることもある。
基本的に群れで行動し、集団で獲物を狩る習性を持つ。
群れは完全な縦社会で、たまに下剋上が起きてリーダーが変わることもあるのだとか。
魔物の情報を思い出していると、ふと女子たちの言葉が脳裏を過る。
「不安じゃない?」
「なにが?」
「俺とペアを組んで」
よせばいいのに、聞いてしまった。
「あ……もしかして聞こえてた?」
「ばっちり」
「ごめん!」
「小杖が謝ることじゃない」
「でも、ごめん」
「わかった。許すよ」
「……いいの?」
「小杖が謝ってくれたから、いいよ」
照れ臭い台詞だけど本心だ。
友達だしな。
「……ありがとね」
「ごめんの次はありがとう?」
「あはは! なんか可笑しいね」
二人して笑って、声が通路に反響する。
冒険者としてあまり褒められた行為じゃなかった。笑い声に反応した人ならざるものを呼び寄せてしまう。
魔物が、通路の奥から現れた。
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