第14話 Gは痔でGエンド
一方、その数十分前、ジュリーは、車で街中を走っていた。気分は爽快だ。昨晩、ガレージに戻って一晩泣き明かし、そして、絶対に竜一の妻になって一生添い遂げるのだと決意したのだ。結論が出ると心が軽くなった。窓から見える白い霞がかっているような風景が春らしさを増している。ふと見上げると、電気保安要員が鉄塔を登っている。
「朝早くから大変ね」
独り言をつぶやいた。
ガレージに戻ると早い昼食を食べた。昼食と言ってもカレンが持たせてくれたサンドイッチとおにぎりだ。賞味期限は一日過ぎている。腹ごしらえが終わると、またドライブに出かけた。ハンドルを持つのが楽しくてたまらない。命が狙われているというのにノー天気な女である。
大学正門前の並木道を走っていた時だった。倒れている男がいた。この男は他の通行人とは違い輪郭がしっかりしている。色も白みがかってはいない。気になって車を止め、側まで駆け寄った。
「どうしたのよ。大丈夫?」
声をかけたが返事がない。「声は聞こえなかったんだったわ」と思いつつも、体に触ってみた。感触がある。現世の人間ではない、この世界に送り込まれた人間のようだ。気を失っていて返事ができないのだ。ふと見ると、トレンチコートの尻の部分が赤く染まっている。
「血だわ。生理? な訳ないし」
ジュリーは男の身体を揺すってみた。
「ウーン、痛い」
揺すったことでまた激痛が走り、男は少し気を取り戻したようだ。
ただ一言、
「新宿四丁目の穴吹肛門科の穴吹菊次郎先生に………」
と言って、また気を失いかけている。
ジュリーは、何とか励ましながら車の後部座席に男を押し込んだ。
カレンは、遊びから戻ってきて、パソコンの前に座った。
「そろそろママを戻さないと」
パソコンを開くと、
「あれ、ガレージに居ないじゃん。何処へ行ったのかな。まぁいっか、ロックオンしてるし何処に居ても戻せるわ。それにしても落ち着きのない女ね」
カレンは、パソコンのキーを叩いた。
ガレージに再び現れるように設定している。
「お出迎えしましょうか」
ポールaが言う。
皆で出迎えをしようとガレージまで行った。ちょうどスバルサンバーが緑のプラズマに包まれているところだった。プラズマが薄くなって車体が見えてきている。運転席のジュリーの姿もだんだんはっきりしてきた。
「ママ、お帰りなさい」
カレンが運転席に駆け寄った。
「ただいま」
ジュリーは、ドアを開けて降りてきた。そして、後部座席を指さすと、
「行き倒れのお年寄り一人拾ったのよ。どうも病気みたい」
とカレンに告げた。
「…………どういうこと?」
カレンは腑に落ちない。とりあえず後部座席のドアを開けた。そこには男が一人横たわっている。顔はよく見えない。
「Gです。間違いありません」
ジュリーaは、淡々と告げる。アンドロイドの物体識別能力は半端ではない。一度視界に入った物体を間違えることはないのだ。
数秒間の沈黙の後、
「ヒーーーーーーーー」
渡辺が叫び声をあげた。
「キャーーーーーーー」
さすがのカレンも悲鳴をあげた。
「オー・マイ・ガー」
ポールは腰を抜かしている。
Gが目を開いた。
渡辺もポールもカレンも後ずさりをする。アンドロイドたちは、すでにGの攻撃に備えている。
Gが口を開けた。
「カレン、俺の負けだ。条件をすべて飲む。それよりも、早く、早く、新宿の穴吹肛門科の穴吹菊次郎先生に…頼む…」
遠ざかってゆく意識の中、
「爺のGは痔でジエンドか…、シャレにもならんな」
Gは、ニヒルな笑みを浮かべ、また目を閉じた。
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