第13話 G確保

「Gのおじちゃん、居心地はいかが?」

 カレンがGに呼びかける。声をワープさせて飛ばしているのだ。

「此処は何処だ。お前は誰だ?」

 Gは、自分がすでに虜になっていることを認識している。

「私はカレン、武蔵山小学校六年花組一七番、サッカー部と歴史研究部所属、趣味はピアノ、おじちゃんをワープさせて時空の狭間に閉じ込めたの。ごめんなさいね。でも、おじちゃんが私のママを殺そうとしたのがいけないのよ」

「ジュリー・ワシントンの娘か」

「そういうこと」

 小学生の女の子に完敗するとは……、Gはショックの色を隠せない。これがホントのGショック(スンマヘン)。

「私をどうする気だ?」

「どうもしないわよ。一生その世界に居たらいいんじゃないの。孤独を愛するんでしょ。それとも出てきたい?」

「出してもらえるのか?」

「そうね、出してあげてもいいけど、条件があるわ」

「条件を聞かせてもらおう」

 カレンの出した条件は、ジュリーの狙撃をあきらめること、殺し屋稼業から引退することだった。

「ジュリーの狙撃はもうない。一度失敗した仕事はしない主義だ」

「引退はしないの。しないと言っても、そこに居たんじゃ引退したも同然だしね」

 完全におちょくられている。だが、反論の余地はない。今まで脱出不可能と言われた監獄から何度も脱出を成功させてきた。しかし、今度ばかりは脱出不可能であることは明らかだ。だが、長年続けてきたことをやめるというのは、それなりに思い切りがいるものでもある。

「Gのおじちゃん、もう80歳超えてるんでしょ。いい歳して殺し屋なんて、恥ずかしくないの?」

 カレンの言葉は、容赦なく心を突き刺してくる。自分なりにうすうすは思っていたことなのでなおさらだ。

「カレンちゃん、あ・そ・ぼ・」

 子供達の声が聞こえた。

「Gのおじちゃん、友達が遊びに来たからちょっと出てくるね。ゆっくり考えてて」

「ちょっと待ってく……」

 Gは何かを言おうとしたが、カレンは、何処かへ遊びに出かけたようだ。

 Gは、ポケットから煙草を出して火を付けた。


 《引退か、この稼業始めてそろそろ半世紀、最後の最後に小学校六年生の女の子    に完敗するとは。そろそろ潮時かもしれんな》


 煙草の煙を吐いてそんなことを思った時だった。肛門に激痛が走った。肛門周辺にできた数か所の痔核が一斉に破裂をしたのだ。肛門から脳天まで串刺しをされたような激痛だ。立っていることさえできず、街路樹にもたれ掛った。あまりの痛さに意識が遠のいて行く。ずるずると崩れ落ち、そのまま道端に横たわってしまった。 


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