第7話 カレン登場

 『G』…史上最高のスナイパー、成功率98%、人種、年齢、等…不明の点多し、東洋系の血が混じっていることは明白。依頼金は最低百万ドル、裏切りを決して許さない。依頼主でさえ約束を違えると葬られる。戦後の世界史の闇の部分に必ず登場するモンスターだ。


 てなことを手短に説明したが、ジュリーにはピンとこない。

「そんなことはどうでもいいんだ。俺はどうすればいいんだよーーー、神様、仏様、今までの不信心申し訳ありませんでした。お賽銭を一円しか入れてこなかったことをお詫びします。どうかこの憐れな私めをGの魔の手からお守りください」

 渡辺は、また研究室の中を回り始めた

「一円だって、ぷっ」

 カレンが笑う。

「あのーー」

 ディックが口を開いた。

「なんだ、役に立たないのなら用はない。黙って帰れってんだ」

 渡辺はイラついている。

「いえ、ビチババが暗殺を依頼したのは一人だそうです。それは女性だという事は判明しております。という事はですね、渡辺教授はターゲットではないという事です。誤解の無いように」

「…………」

 しばらく沈黙があった。

 渡辺は、恐怖のあまり全身の血が凍りついていたのが、一気に解け始めていのを感じていた。身体全身に生気が蘇ってくる。

「早く言えよ。ちょっとばかりビビったぜ。Gが相手なら相手にとって不足はなかったんだがな。狙って来ないとならば相手する必要もないってことだしな…ハハハ…、残念だな。ディックも人が悪いぜ」

「ねぇねぇ、ちょっとちょっと、Gってなによ。なんか、私が狙われてるって訳? それどういうことよ?」

 さすがに、ジュリーも不安になって来た。

「そうです。ターゲットはジュリーのようです。奴に狙われたら逃げることはできません。遺書を書くなり、やり残したことを急いでするなり、身辺を整理することをお勧めします。では、私共はこれにて失礼します。これ以上関わると私共の生命も危険領域に入りますので。では悪しからず」

 そう言い残すと、ディックは女秘書とともに研究室を後にした。


「整形は完璧だな。だれも君の事を林香琳とは分かっていないようだ。とりあえずは安心していいようだ」

 駐車場まで歩きながら、ディックは腕をからめてくる女秘書に声をかけた。

「いえ、一人、分かっています。ばれてしまっているようです」

「まさか、それは誰だ?」

「カレンちゃんです。彼女の眼は誤魔化せてはいません。あの子は只者ではありません」

 女秘書、林香琳、現在の名はアンナ土山。アメリカ国籍の日系五世という事になっている。

「元工作員としての勘か?」

「いえ、彼女は私の顔を数秒間凝視すると、ニコッと笑ったのです。すべて見通しているような目でした」


「遺書を書いとけだの、身辺を整理しとけだのって、失礼極まりないわね。そのGって奴、そんなにすごいの?」

 ジュリーも周囲の雰囲気を察して来たか、落ち着きがなく、顔色も青ざめている。

「ふむふむ、なるほど、Gって奴、なかなかの者よ。ディックさんの言ってることも頷けるわね」

 カレンがパソコンを叩きながら言う。

 CIAのコンピュータに侵入して、Gに関するデータを閲覧しているのだ。

「しかし、それにしてもこのオヤジ、いくら職業とは言え、人、殺しすぎよ。月に二人のペースで殺しているわね。そろそろ、このカレン様が月に代わってお仕置きしてやらなくっちゃ」

 カレンが、パソコンの画面を見ながらブツブツ言っている。

「ママ、私に任しといて。大丈夫だから。このGって殺し屋もそろそろ引退時期だよ。私が引退させてやるから安心してて」

 カレンは自信満々だ。

「カレン、ママの事守ってくれるのね。嬉しいわ。本当にいい子に育って、ママ、なんか涙が出てきちゃった」

「まだまだ働いてもらわなくっちゃいけないしね。私の学費もこれから随分かかるのよ。此処でくたばってもらっちゃ私が困るもん」

「…………」

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