第5話 アンドロイド渡辺a

 数週間、渡辺aはジュリーに使われた。渡辺にバレたのは、資源ゴミの日の朝、ゴミ集積場でばったり会ったのだ。

「おい、お前は俺か?」

 自分そっくりの男に渡辺は声をかけた。

「はい、アンドロイド渡辺aでございます」

「なんで、資源ゴミなんて出してやがるんだ。俺も出しているけど」

「ジュリー様のご命令ですので」

「…………」


「おい、相当酷使しやがったそうだな。どういうことだ」

 渡辺は、ジュリーに抗議する。

「あら、あんたに渡す前に、躾をしておいてあげたのよ。ありがたく思って頂戴」

「お前には、ジュリーaがいるじゃないか。なんで渡辺aにやらせるんだ」

「当たり前でしょ、いくらアンドロイドとは言え、ジュリー様が家政婦になって酷使されている姿なんか見るに忍びないわ」

 そう言うと、ジュリーは高らかに笑った。

「くくくくっそー、この女め………」


 ジュリーaを手に入れたジュリー、渡辺aを手に入れた渡辺、やることは同じだった。大学の講義、要するに自分たちの仕事をアンドロイドにやらせ始めたのだ。最初は、たまにだったが、そのうち回数が増えてきて、今ではほとんどがアンドロイドの代行になっている。ジュリーに渡辺、互いに悪口を言い合ってはいるが、その行動パターンは悲しいほどに似通っている。


「ジュリー先生の講義、最近キレが良くて分かり易くなったって、学生たちの間でもっぱらの評判ですよ」

 理学部部長の高篠教授にジュリーは褒められた。

「あら、そうですか。それはそれは嬉しいですわ」

 と、返事はしたが、全然嬉しくない。褒められて嬉しくない訳はないなどと世間ではよく言われるところだが、この場合、褒められて嬉しいことなど全然ない。

「ジュリーaの奴め、いい気になるなよ」

 一人つぶやいた。

 この女、自分のアンドロイドに嫉妬しているのだ。もしかして、ただの「アホ」なのかもしれない。

 

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