第4話 アンドロイドの貞操

 アンドロイドは、当初、ポールaの一体だけだったが、その後、ジュリーa、次いで、渡辺aが造られた。


「女盛りの永遠の美を残しておきたいわ」


 というジュリーの希望だった。

 御目出度いおばはんである。

 ジュリーaは、ポールaをはるかにしのぐ出来であった。渡辺にも最初はなかなか判別ができないほどだった。

 渡辺は、ポールから受け取ったジュリーaを連れて研究室まで帰った。そこで一計を案じる。ちょうど都合のいいことに、今週中はジュリーは出張でいない。アンドロイドは人間の命令に忠実だということをポールから聞いている。渡辺の目が怪しく光った。

「ヒッヒッヒ、ジュリーa、私の命令には従うのだろうな」

「はい、従います」

「じゃあ、ここで服を脱いでもらおうか」

「できません」

「何故だ、何でも従うのではないのか」

「裸になることは、本人の許可がない限りできません」

「…………」

 スケベな目論見は、もろくも崩れた。

「足を舐めるなんてのはどうだ」

「それも本人の許可が必要です」

「…………」

 結局、肩と腰をマッサージさせることが限界だった。それでも、とりあえずは満足している。至極丁寧で上手なマッサージだ。

「ジュリーa、お前のマッサージはうまいのう。予は満足じゃ」

「ありがとうございます。御満足されて私も嬉しゅうございます」

 てな具合で、渡辺の気分は上々だ。なにせ、あのジュリーをかしづかせ、マッサージをさせているのだ。マッサージも気持ちいいが、それだけでは得られない心地よさがある。

 だが、出張を早めに切り上げて帰って来たジュリーに、マッサージの現場を目撃された。

 知らぬ間に、マーサージ師が本人に代わり、腰のツボを思い切り押し潰された。

「ギャーーーー」

 渡辺は悲鳴を上げてのたうち回った。

「なんてことしやがる」

 渡辺が叫ぶと同時にジュリーの言葉が響いた。

「なんてこと? それはこっちの台詞よ」

 ジュリーは、ジュリーaを連れて帰って行った。 


 あくる日、ジュリーは、ポールに訊いた。気になっていたことがあったのだ。それは、ジュリーaの貞操についてであった。

「まさか、ジュリーaの処女が渡辺の野郎に奪われているなんてことはないでしょうね?」

「安心してください。アンドロイドには生殖機能は必要ありませんので、生殖に関するパーツは装着していません」

 ポールは答えた。

 ジュリーはひとまず安心をした。

「ポール、言っとくけど、私は、身も心も竜一さんのものなんだからね。あんな下種な野郎に指一本触れさすことはできないの。アンドロイドだって同じよ。分かってるでしょうね」

「…………」

 まだ一度も抱かれたこともないのに、勝手に山岡竜一の女になっている。男にとって迷惑この上ないタイプだ。


 今度は、渡辺aをジュリーが受け取った。これも出来栄えは抜群である。ジュリーも気味が悪くなるほどだった。

「渡辺、部屋の掃除をしておいて頂戴」

「渡辺、晩御飯造っておいてね」

「渡辺、スーパーのタイムサービス行けないから、代わりに買っておいてね」

「渡辺、腰を揉んで頂戴」

「渡辺、洗濯お願いね」

 てな具合で、家政婦代わりに酷使している。

 人使い、否、アンドロイド使いが荒い。

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