第3話 医学部新設

 ポールAが、大学の周辺をうろつき回っていたこと、学長の丹下と談笑していたことの詳細は、すぐに分かった。ポールが正直に白状した。ポールAは、ポールの代役として事前交渉をしていたのだ。

 何の事前交渉か?

 な・な・なんと、大学に医学部が新設されることになったのだ。その下準備をポールAは任され、ポールが来日するまでのつなぎをしていたのだ。ポールの父親、ラッキースター7世が理事長を務めるラッキースター財団から2兆円の新設資金とプラス5000億円の運営資金が寄付されることが決定された。

 笑ったことがないと言われ、笑わん殿下と揶揄されている学長の丹下のにこやかな笑顔にも納得がいった。

丹下は、この大学を理科系の総合大学にすることを悲願にしていた。それには医学部の新設がどうしても必要となる。だが、医学部の新設には莫大な費用と運営資金がいる。諦めかけていたところに降って沸いたような美味しい話が舞い込んできたのだ。

「これだけの資金があれば、日本一の医学部ができる」

 丹下は、独り言を言うと、ほくそ笑んだ。


 新設される医学部は、医学科、看護学科、介護学科、人間工学科の四学科からなり、ポールは人間工学科の主任教授に就くことになっているらしい。


「主任教授だと…、俺より上じゃねぇか、畜生、あの若造め、金に物を言わせやがって」


 渡辺は面白くない。

 だが、

「看護学科、介護学科か、フフフ…… 高校卒業したばかりのピチピチギャルがたくさん入ってくるんだろうな……」

 と思った瞬間、次の行動に移っていた。

「なあ、ポール、看護学科の一般教養課程に基礎科学なんてカリキュラムあったら俺に担当させてくれないか。若いのに基礎科学の大切さを教えてやろうと思ってるんだ」

 ポールに相談を持ちかけた。

「ああ、ありますよ。願ってもない事です。お願いしますよ」

 という返事だった。

 

《ヒッヒッヒ……、言ってみるもんだな。今から楽しみじゃ……ムフフフ》

 

渡辺の視線は、すでに三年後とされる医学部看護学科の開設と入学してくるピチピチギャルに跳んでしまっている。


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