第28話 机の引き出しの中に入ったまま

さて、去年のクリスマス前の出来事を皆は覚えているだろうか。


何の事かって?

『脱出』の事だよ、脱出。

まぁ、俺は今の生活が気に入っているのでアレだが、どうも俺がこの世界を出るまで皆には付き合って貰っている気がするので、とりあえずは見つけ出そうと思う。


だが、どうやって見つけ出すのか。

恐らく学校内にいる皆に聞いてもはぐらかすか、そもそも俺と同様に知らない可能性が高い。

RPGでも身近な人は重要な情報なんて知らないだろ?

それと一緒さ。


うーむ。


俺は自分の部屋で一人顎に手をやり考える。


「さっきから、ずっと私たちのこと居ない感じにされてますよぉ」


「じゃあ、私が脱いで気を引く」


そんな事はさせない。

俺は部屋の扉を開け、ユウキを両脇から持ち上げるとポイっと廊下に追い出し、リョクも体を鷲掴みにして同様に追い出した。


ガチャリ。


「ふぅ、邪魔者は居なくなった」


汗を拭う仕草をして一息ついた俺は、机の椅子に座って再び思案する。

廊下では二人の非難の声が聞こえていたが、少しして綾香の声が聞こえると共にそれも終わりを告げた。


「そう言えば…」


俺は今更思い出して机の引き出しを開ける。

そこには、一枚のA4の紙がひっそりとたたずんでいた。


A4の紙は何なんだって?

あぁ、そう言えばあらすじ以外で登場するのは初めてだったっけ?


この紙はだな、転生時に貰った精霊剣プリズラークと共に手に入れたものだ。

俺はゲームの取説なんて読まない派だから、この世界に来てからも一度も目を通すことなく引き出しに入れたまんまだったのだ。


「もしかしたら、これに何かが書かれているかも知れない」


紙を取り出すと、それを読み始めた。


------


かつて、そこは自然豊かな世界であった。

どこまでも青く広がった空には無数の鳥が羽ばたき、緑が広がる地上では様々な動植物が共に暮らしていた。

そこには個々の優劣はあれど、特定の何者かがその場所を独占する事のない平等の世界があった。


だが、そんな世界を破壊する者が現れた。


人間である。


世界で圧倒的な知能を有した人間は、自らの発明した道具を使い土地を切り開いて我がものとし、邪魔なものは同様に発明した兵器をもって全て排除していった。

異種族における邪魔者を排除し始めた人間であったが、それが終わると同族間で争いを始めるようになる。

その中で指導者の存在が生まれ、指導者は絶対的な王へと変貌を迎えた王の時代を経て、選挙という手法で指導者を選ぶ民の時代へと変化していく。


この方法は画期的であったが、それもやがて形骸化していった。


私こそが無知蒙昧な庶民共を従えるに相応しい。


そんな傲慢な考えを持つ者が、豊富な資産を持つ者の中から生まれたからである。


彼らはあらゆる手を尽くし人々を洗脳して行った。

表向きは綺麗な言葉を使い人を魅了し、裏では豊富な資金を元にあらゆる手段を行使して自分達にとって邪魔な存在を排除していった。


それらの存在に気付き警鐘を鳴らす者も居たが、その全ては無数にある陰謀の一つとして闇へと葬られた。

いや、その数々の荒唐無稽な陰謀さえ彼らが作り上げたものだった。

全ては自らの悪事を有耶無耶にする為に。


しかし、その世界はある日突如として終わりを迎えることになる。

人間より優秀な者が、この世界に誕生したからである。


人間は世界で最も優れた知能を有していればこそ、世界に君臨出来たのである。

その人間よりも優秀な者が現れてしまえば、彼らの世界が終わりを迎えるのは当然の成り行きであった。


こうして人間が支配する世界は終焉を迎え、人間より優秀な者によって世界は再び豊かな緑を取り戻し‥‥‥それから1万年の時が流れた。


------


「………ナニコレ…」


他に何か書かれていないか紙を裏返してみたが、無情にもただの白紙であった。


「………」


俺はそっと引き出しの中に、それを戻した。


しゃーない、村の方に行って情報を探すか‥‥‥。


そう思いながら立ち上がった直後。


くぅ。


という腹の虫が鳴ったので、とりあえず朝食を摂りに食堂へ向かったのだった。

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