第29話 村一番の年長者

食堂へとやって来た俺は、ユウキとリョクの非難の声を全て聞き流しながら朝食を摂り、この世界を脱出するための情報を入手すべく学校を後にした。


「って、なんでお前らが付いて来るんだよ」


右隣で一緒に歩くユウキと、彼女の肩に乗っかっているリョクに対して言う。

そんな問いに無表情な得意顔ドヤがおを決めたユウキはこう答えた。


「浮気しないか監視するため」


「その割に、堂々と隣に居るよな」


「デートも兼ねてる」


「ですよねぇ。後ろから監視してたら奢って貰えませんもんねぇ」


俺が何か奢るの確定なの?

てか、お前の方が稼ぎ多いのに、何でいつも俺が奢ってんの?

今更だけど。


あぁ、そういや物語の中では数えるくらいしか出て来てないと思うが、実は村に繰り出すたび俺はユウキ達に何かを奢ってるんだぜ。


「それが夫の甲斐性だから仕方がない」


ユウキは真顔で当然とばかりに主張する。

だが、そんなものに負ける俺ではない。


「だが、今は恋人だから割り勘な」


その返答に、リョクが参戦する。


「恋人なら、なおさら男が奢るところじゃないんですかねぇ」


こうして、俺は負けた。

何で中途半端なところだけ昭和のノリなんだよ。


そんな事はともかく、とりあえず教会という名の花屋に足を運んだ。


「おぉ、三日ぶりですね。神を信じない蒼治良そうじろうさん」

「まぁ、私も信じてないんですが」


片手で持てるほどの大きさの植木鉢を持って出迎えてくれたシスター姿のデアボラさんは続けて言う。


「今日は何かご入用ですか?」


俺はプルンプルンとはじける彼女の胸から出来るだけ視線を外しつつ訊いた。

だって、ユウキが胸に隠し持っているクナイに手を掛けてるんだもん。


「デアボラさんは、地球・・という星をご存知ですか?」


その問いに、デアボラさんが一瞬目線をユウキに向けたのを俺は見逃さなかった。


「Oh! ナンノコトカ ワタシ ワカラナイ デース」

「チキュー ソレ イヤラシイ ヤツ デスネー」


それ地球じゃなくて『恥丘』でしょ。

俺『地球という星』って言ったよね?

というか、何でカタコトになってんの?


「Oh! ソーデシタ ソーデシタ」

「ヤハリ ニホンゴ・・・・ ムズカシイ ネー……あっ………」


自分で自爆して『日本語』という言葉を口にしてしまうデアボラさんであった。

結局、彼女は自白したのだが、この世界を脱出する方法自体は知らないのだという。


「私は結構この世界気に入ってるので何時でもいいですよー」


こうしてデアボラさんと別れた俺達は村へと足を運んだ。

最初に寄るのは鍛冶屋だ。


「おぅ、どうした。また魔剣が壊れちまったのか?」


イワノフは鍛冶に使用する槌を肩にかけ、むわっとした湯気を筋肉から出しながら言う。


「いえ、ちょっとお訊きしたいことがありまして」


俺は率直に元の世界に戻る方法を訊いてみた。

この手の人には下手な言い方は、むしろ逆効果だからな。


「ふむ……元の世界に戻る方法かぁ……彼奴きゃつなら知ってるかもしれんな」


「それは誰なんですか?」


「ギルドのロリーナだよ。ああ見えて、この村で一番の年長者だからな」

「おっと、今のは内緒で頼むぜ」


俺達はお礼を言うと鍛冶屋を後にしてギルドへと向かった。


「おぉ、ボン。今日は何の用かや?」


相変わらず自分の身長より長いほうきで室内を掃除していたロリーナであったが、俺に気付くやいなやパタパタと可愛らしい足音を立てながら傍までやって来た。


この見た目で村一番の年長者かぁ‥‥‥でも、アリだな。


ちなみに、イヤラシイ目で見たわけでは無いので、ユウキは俺の隣で静かにたたずんでいるだけだ。


「実はですね………」


「………あぁ……もうそれを知ってしまったのか」

「意外と早かったのぅ」

「最悪、永久に気付かんと思っとったのじゃが、誰かが失言でもしたかの」


ロリーナはユウキの方に目をやりながら言う。

ユウキは自分ではない、という風に首を横に振った。


「では、この世界から元の世界に戻る方法をご存じなんですね」


「まぁの。でも良いのかや?元の世界に戻ったら、こちらの世界には二度と戻れんやも知れぬぞ?」


小悪魔の如き笑みでロリーナは言う。


「恐らく、それは大丈夫だと思っています」


俺はジャンヌの発言内容から、この世界と元の世界は行き来が可能だと判断している。

それも自由に。


だが、ある時を境にそれは変わった。

俺がこの世界にやって来たからだ。


何故そんな仕様に変わってしまったのかは全く分からんが。


「ふむ…では答えるとするかの」


ロリーナさんの話によるとキーアイテムが必要で、一つは『雪片の髪飾り』で、もう一つは『雪精霊の指輪』なのだという。

そして、その二つを『一業寺神社』に持って行き『儀式』を行う事で元の世界への扉が開かれるのだという。


簡単に説明するとそういう事である。


「なるほど。では、その『雪精霊の指輪』はどうすれば手に入るのでしょうか」


「今はそれは無理じゃな」

「期間限定アイテムでな。時期は3月13日の深夜、氷の洞窟でのイベント戦闘でのみ手に入れることが出来る仕様となっておる」


また氷の洞窟かよ。


「つまりは、それまではこの世界を堪能しておればよい。以上」


ロリーナさんは、そう言って仁王立ちしながらカラカラと笑った。


俺はロリーナさんにお礼を言うと、ギルドを後にした。


「んじゃあ、用事も済んだし学校に戻るかな」


そう言って歩こうとしたところで、服の背中が引っ張られる感触がした。

言うまでも無い事だがユウキである。


「デートは?」


「そうですよ、蒼治良さん。そういうところが駄目なんですよ」


ちっ、しれっと帰宅して誤魔化そうと思ったのに。

仕方なく、俺達は『まりも食堂』でお茶をした後『ボッタクル商店』でお買い物を楽しんだのだが、結局二人分のお金は俺が全て出したのは言うまでもない。

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