第27話 ぷにぷに

ぷにぷにぷに。


正月も2週間ほど過ぎると、すっかりただの日常の生活へと戻っている。


ぷにぷにぷに。


今日は何をしているのかと言えば、結構ご無沙汰多になっているカレーの材料を取りに来ているのさ。

最初の頃と違って、俺はすっかりこの作業にも慣れてしまっている。

話し的には1話以来の気がするが、当然だがそれ以降もカレーの日はあったぜ?


ぷにぷにぷに。


さっきから何か聞こえるような気がするって?


その正体はだな‥‥‥。


「はぁ………」


たった今、溜息を吐いたのはくっころ系女騎士のジャンヌだ。

とはいえ、最初の頃のような俺に辛辣な対応は既になく、普通に会話くらいは出来る状態になっているので、その言い回しはちょっとアレな感じになっている。


じー。


俺の熱い眼差しに気付いたのか一瞬身震いをした後、ジャンヌは俺の方を振り返った。


「な…なんだ。何か用か?」


「そんなにお腹の脂肪が気になるのか?」


その次の瞬間、彼女は脱兎の如き素早さをみせて俺の口を塞いできた。


「貴様っ!誰かに聞かれたらどうする!?」


俺に聞こえるように小声で言うが、それは無駄だ。


何故なら。


ぷにぷにぷに。


「ひゃあっ!?」


ジャンヌは自分の腹のお肉を触られて素っ頓狂な声を上げる。


つんつんつん、つーーー。


「あっひゃあっ!?」


今度は背中のお肉を触られて再び素っ頓狂な声を上げた。


まぁ、誰がやったかなんて言わずとも分かるだろ?

え?この話から読み始めたから分からんって?

おいおい、マジかよ。

仕方が無いな、教えてやるとしよう。


「おなかぷにぷに」


これは最初にお腹の肉を触ったユウキの発言。


「心地よい弾力ですねぇ」


これは背中の肉を触ったリョクの発言である。


ともかく、ジャンヌが素っ頓狂な声を上げたもんだから、近くに居た千里、拇拇もも熊猫パンダ燒梅しゅうまいも集まって来た。


「どないしたんや?」


------


「成程なぁ」


「どうりで今日は鎧を着てないわけだにゃ」


「ウァ」


俺の説明に二人と一頭は、ジャンヌがセーラー服姿で来ていることに納得した。

いや、燒梅が本当に納得したのかは分からんのだが。

ありていに言うと、ジャンヌは正月にモチを食い過ぎたのだ。


「せやったら、ここはやっぱり体を動かすことやな」


「そうにゃ。激しい運動してカロリーをどんどん消費すればいいにゃ」


千里と拇拇はもっともなこと言う。


「体を動かして、激しい運動………ぽっ」


ん?ジャンヌの頬がちょっと朱色にそまってないか?

ナニを考えた!?


「ナニも、そんなイヤらしい事など考えてない!」


ジャンヌは俺に向かって言う。

だから、俺の心を読むなよ。

そんな事を思いながら、俺はジャンヌの胸に目をやった次の瞬間。


「うおっ!!!あっぶねーっ!!!」


俺に目つぶし攻撃を仕掛けて来た者が現れた。

言うまでもないが、ユウキである。


「何すんだっ!目が潰れたらどうする!?」


動悸が激しくなった胸を掴みながら、俺はユウキを非難した。


蒼治良そうじろうが避けられるくらいには加減した。実際に避けた」

「問題ない」


そう言って、ユウキは親指を立てた。


「いや…問題ありすぎだろ……まぁ、それはともかくとして…」

「どうやってカロリーを消費するか、だな」


「せやなぁ、とりあえず綾香さん達のとこ行ってみよか」


という千里の提案であったが、その発言とほぼ時を同じくして、さながら主人公のように颯爽と綾香をはじめとする4人は姿を現した。


「あら?どうしたんですの、みなさん」


俺達が一カ所に集まって話し合っているのを見て、少し首を傾げながら綾香は言う。


「遅かった」


ユウキは、ミノタウロス肉を肩に担ぎ帰って来た侃三郎かんざぶろうけいに指を差す。


「ん?何が遅かったんじゃ?」


「さぁ」


------


「あっひゃあぁっ!!!」

「ら……らめぇ……しょんな…とこ…りょおぉぉっ!!!」

「お゛っ!お゛っ!お゛っほお゛ぉぉぉぉっ!!!!」


学校に戻って来てから2時間後、保健室のベッドの上でジャンヌは喘ぎ声を上げていた。


2時間の間、何をしていたのかって?

それは、先生セヴァスティアンによる稽古だ。


あぁ、言っておくが文字通りの稽古だから、邪な考えをしても無駄だぞ?


で、風呂で汗を流した後、ベッドで同じく先生セヴァスティアンによるマッサージを受けているのだ。


うーん、うらやましい。

言っておくが、俺は声を聴いているだけで決してジャンヌの方を向いていないぞ。

だって、そっちを向いてみろ。

ユウキの容赦のない攻撃が俺を襲うじゃないか。


ちなみに侃三郎と珪については、この部屋にすら居ないぜ。

俺同様に、嫉妬に狂った二人の女性陣が怖いからな。


「蒼治良さん、何か言いまして?」


「まぁまぁ、綾香様落ち着いて下さい。蒼治良さんにも思うところはあるのでしょう」


だから何で俺の思っていることがみんな分かるんだよ。

おかしいだろ、この世界。


とまぁ、そんな事はともかく。

こうして1週間後、ジャンヌは再びいつもの鎧が着られるようになったのである。

俺としては、セーラー服のままで良かったんだが。

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