第23話 雪片の髪飾り
俺はジャンヌと二人、学校からさほど遠く離れていない氷の洞窟の中にある一室で対峙していた。
ジャンヌに誘われるがまま二人だけで来ているため、当然ながらだーれも俺がここに居る事など知りはしない。
つまりは、何があろうと助けなどはやって来ない。
アレが使えたとしても、救援が来た時には終わっている事だろう。
「貴様はおかしいと思わなかったのか?」
「何がだ?」
目の前に剣先を向けているジャンヌに対し、俺は涼しい顔で答える。
「お前の事を毛嫌いしている私の言う事を真に受け、今はこの洞窟の中で二人っきり」
「つまり、私の一存でお前を亡き者にすることも可能だという事だ」
「確かにな」
「だが、お前はそんな事が出来ないことを俺は良く知っている」
「ふん。知ったような口を」
「例えば、お前が俺を殺したとする」
「仮に不運な事故だったと皆に説明しても、俺が死んだとなればユウキは悲しむだろう」
「お前はそれに耐えられないはずだ」
「だから出来ない」
「……ふん…全く面白くない」
ジャンヌはそう言うと、剣を鞘に収めて床に座る。
「で、本当の用事は何なんだ?」
座ってあぐらをかく。
俺としては『二人きりで話したいことがある。ここだと恥ずかしいから近くの洞窟まで付いて来て欲しい』のとおり、告白プラスアルファを期待したかったのだが、まぁ、十中八九というより十違うだろう。
そんな俺の邪な考えを感じ取ったのか、ジャンヌは身震いを一度した後ゆっくりと口を開いた。
「ふん。どうせ気付いているのだろう?」
ジャンヌは何かを指すかのように
その先にあるモノは、何もない部屋の奥にたたずむ一体の氷像。
まぁ、氷像というか、どう見てもただの『雪だるま』そのものなのだが。
「あの雪だるまを倒す、とかじゃないだろうな」
「そのとおりだ」
「じゃあ、さっさと倒して帰ろうぜ」
そう言って気だるく立ち上がろうとした俺を、ジャンヌは止める。
「0時まで待て」
「その時間にならないと
俺は携帯している時計を見た。
「おいおい。まだ1時間もあるんだが……」
「仕方ないだろ。この部屋の扉は、奴が動き出す1時間前に閉まってしまうのだから」
「なんて迷惑な仕様なんだ……」
俺は仕方なく、再びあぐらをかいて座った。
それからどのくらい沈黙が続いたのだろう。
意外にもジャンヌの方から話を切り出してきた。
「お前は…ユウキの事をどう思っているんだ?」
「それは好きか嫌いか、を聞いているのか?」
「そうだ」
「普通に好きだが…まぁ、あれで……」
俺はジャンヌのある一点に視線を向ける。
邪な考えを察知したのか、ジャンヌは身震いをした。
「貴様…またイヤらしいことを考えたな!」
「訊いてきたのはお前の方だからな。俺は何も悪くない」
そんな俺の言い訳にジャンヌは溜息を吐く。
「ったく…貴様という奴は…だが、だったら何故ユウキの気持ちを汲んでやらんのだ?分かっているのだろ?」
「……あいつを見てると、どうにも前世で約束を交わしたっきりの子の事を思い出してしまってな」
「もやもや…と、してしまう」
そう言って俺は胸に手をやる。
「約束を交わしたっきり……という事は、それを果たせていないということか」
「だな……。まぁ、考えたところで今更どうしようもないんだがな」
俺は無機質な天井をぼんやりと眺めながら答える。
もう、俺は前世で彼に『緑子に会わせてあげる』と約束をしたその日の夜に再び倒れ、それっきり彼とは二度と会う事は無かったのだ。
「………安心しろ…
「元の世界?」
俺の視線は光の速さの如くジャンヌに向けられる。
「……あ…いや…元の世界というか…違うというか…元の世界なんだが…そうじゃないというか…」
「どっちなんだよ……」
「うっ……うるさい!」
「とにかく、この世界を
「脱出?…あぁ…あの時の『だっしゅ』ってそういう事だったのか」
俺はポンと手を叩いて納得する。
と同時にジャンヌの方に視線を移すと、彼女は顔面蒼白になっていた。
「あぁ……それ、俺に言ったらダメな奴だったんだな」
「だから、あの時ユウキの手刀がジャンヌの頭に落ちたのか」
「ん?てことは………まさかユウキはこの事を知って……いや、そもそも………」
もう一度彼女の顔に視線を移すと、ジャンヌは今にも泣き出しそうな顔になっていた。
「あー………俺は何も聞いてないし気付いてもいない」
俺はジャンヌの肩をポンと叩きながら言う。
「うぅ………見返りは何だ……私の身体か?」
「いや…見返りとか求めてないから……それはそれで勿体ないと思うが、俺はそんな鬼畜野郎ではないぞ?」
「そんな事より、そろそろ時間じゃないのか?」
腰にぶら下げていた懐中時計を見ながら言う。
「そ、そうだった」
こうして、俺とジャンヌの二人で大して強くもない雪だるまと戦い、アイテムを手に入れたのだった。
何のアイテムかだって?
タイトル見れば一目瞭然だろ?
そんなわけで、俺達は無事に学校へと帰還したのだった。
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