第24話 クリスマスツリーとサンタクロースのような何か

12月23日。


俺達一行は、クリスマスツリーを獲り・・に学校から少しばかり北にある『聖夜の森』にやって来ていた。

ちなみに、その森の手前に前回の洞窟があったりする。


そして、俺はクリスマスツリーを追いかけていた。

雪の上を器用にでかき分けながら逃げるクリスマスツリーを。


「この時期のクリスマスツリーは捕まるまいと逃げ足が速くなる」

「私や拇拇ももでも追いつけない」


ユウキの説明のとおり人の足では追いつくことが出来ないことから、各自役割を振って対応している。

俺とユウキは捕獲を担当しているジャンヌの方に誘導するのが仕事だ。


「そっちに行ったぞ」


その俺の言葉と同時に、俺から逃げていたクリスマスツリーの目の前に白銀の鎧をまとった女騎士ジャンヌが突如姿を現し、見事ツリーを掴まえたのだった。

ちなみに、ジャンヌは雪の上に寝転がって姿を隠し、俺の合図と共に起き上がったのである。


掴まった直後こそ、手足枝根をバタバタとさせていたクリスマスツリーであったが、程なく大人しくなる。


「グッジョブ」


そんなジャンヌに対し、俺と一緒にツリーを追いかけていたユウキは親指を立てて称える。


「よっこいしょっと…」


ジャンヌは、おっさんのような掛け声と共に、ツリーを馬車に載せた。

あぁ、ちなみに言っておくがクリスマスツリーは死んでないぜ。

どういう仕組みか分からないが、こうして捕獲したツリーはクリスマスイベントが終了するまでは大人しくツリーとしての役目を果たし、それが終わると勝手に自分から元の場所に帰って行くらしい。


「ひぃふぅみぃ……5体か…」


俺が数えている間に、千里・拇拇もも熊猫ぱんだ燒梅しゅうまいの二人と一頭も、ツリーと共に帰って来た。


「ウァ」


燒梅はそう言うと、馬車の荷台に居たジャンヌにツリーを手渡す。


「あぁ、済まない」

「これで6体目だな…よいしょっと…」


再びおっさんくさい掛け声と共に、ジャンヌはツリーを載せた。


「それにしても結構早ぅ終わったなぁ」


千里は言う。


実のところ、俺達の組が6本のうち4本掴まえている。


「ジャンヌと蒼治良の息がピッタリだったおかげ」


そう言ったのはユウキ。


「ちょっと前から何か二人の距離が近付いたような感じしとったけど、どうやらほんまらしいなぁ」


「そうだにゃ。前は蒼治良と目も合わせようとしてなかったのに、何日か前からは蒼治良を気にするように見てるにゃ」


「ほほぅ、これはもしかして略奪愛とかいうやつですかねぇ」


千里と拇拇と千里のおっぱい風呂に入っているリョクは互いに顔を向け合って、ひそひそと話をしている。

と言っても、普通に聞こえるのだが。


いや、単にジャンヌは俺が秘密を知ってしまった事を皆に話すかもしれないと、気が気でないだけだぞ。

そんな事を思っていると、服の裾を引っ張る感じがした。


くぃくぃ。


俺は引っ張られた方に目をやる。

すると、ユウキがジッとこちらを見つめていた。


「浮気?」


「違う。というか、そもそもお前と付き合ってすらいない」


「でも大丈夫。私は姉妹丼でもオーケーオーケーOK牧場」


相変わらず人のいう事を聞く耳持たず俺の言葉を完全スルーしたユウキは、デアボラさんみたいな事を言って親指を立てた。


ん?今、姉妹とか言ったか?

俺は二人を交互に観察する。

ちなみにその間、ジャンヌは顔を赤らめながら胸のところを隠すような仕草をしていた。


「まぁ…最初から似ているとは思ってはいたが、お前ら姉妹だったのか」


「そう。私はたちは双子の姉妹のようなもの」


「ようなもの…ってどっちだよ」


「双子のようで双子ではないが、限りなく双子のような何か」


「……まぁ、いいや」

「ともかく、どっちが姉なんだ?」

「確か…お前211歳……とかだったよな」

「あぁ……双子だから同い年か…」


「私は64歳だ」


俺の問いにそう答えたのはジャンヌ。


「双子じゃねーじゃん」


「そう、双子のような何かの姉妹のような何か」


「だから、どっちなんだよ……ってか『姉妹のような何か』って何だよ……はぁ……もういいや」


俺は考えることを止めた。


「ともかく、次の場所に行きましょうか」


気を取り直して、俺達のやり取りを終始苦笑いしながら眺めていた千里に言う。


「せやな。飾りつけも手に入れなあかんしな」


こうして、今居るところから少し東の方へと移動を開始した。


ちなみに、その真逆の西の方では綾香・葉月・侃三郎かんざぶろうけいの4人がボスモンスターである聖誕老公サンタクロースと戦っているのだが、いつものように割愛する。


東の方にやって来た俺達一行が何をするのかと言えば、聖誕老公サンタクロースもどき・・・との戦闘である。


本物の聖誕老公サンタクロースはクリスマスプレゼントを落すのだが、こいつはクリスマスツリーの飾りつけを落す‥‥というか、サンタもどきの持っているサンタ袋を奪う必要がある。

やっぱり木だけでは味気ないし、是非とも飾りつけが欲しい。


そんなわけで戦闘開始である。


バフ係の千里の守備をジャンヌに任せると、俺・ユウキ・拇拇もも熊猫パンダ燒梅しゅうまいの三人と一頭はサンタもどきを取り囲むように展開し、一気にその距離を詰めた。


「んにゃにゃにゃっ!速いにゃっ!」


「速い」


拇拇とユウキの言葉どおり、サンタもどきはめっちゃ速かった。

俺達のように雪をかき分けながら進むのではなく、どういう理屈か雪の上に足を乗っけているのだ。

そして、滑るように自由に縦横無尽に移動する。

まさにモ○ルスーツのMS-○9を彷彿とさせるものであった。


しかし、こいつの厄介さはこれだけではない。


「にゃっ!!!」


「すれ違いざまにお尻触られた」


そう、サンタもどきはとんでもないセクハラ爺だったのだ。

くそっ!俺ですらまだまともに触った事ないのに。


あぁ、ちなみにケモナーではないらしく熊猫パンダ燒梅しゅうまいには興味がないようであった。

燒梅がメスだったら、もしかしたら違っていたのかも知れないが。


それはともかく、俺はサンタもどきがユウキと拇拇にセクハラをしている隙を付いて背後から攻撃を仕掛けた。


「ググググ」


俺の動きを察知していたサンタもどきは、すぐさま反応して俺に振り向きサンタ袋を盾代わりに向ける。


「くっ!」


すんでのところで俺は精霊剣を引っ込めると、後ろに飛び退いた。


「グゲゲゲゲゲゲゲゲ」


そんな俺を馬鹿にするかのように、サンタもどきは空を見上げて高らかに笑う。


「こいつ…ムカつくっ!」


あぁ、ちなみにサンタ袋を攻撃して破いてしまうと、戦利品のツリーの飾り光の粒となって消え失せ手に入らなくなる仕様だ。


「どうすればいいんだ」


途方に暮れる俺に、どこからともなく声が聞こえて来た。


「そんな蒼治良さんに朗報です」


そう言って俺の目の前に現れたのは、いつの間にかサンタコスをしていたリョクだった。


「なんだ。また局地的にしか使えない精霊魔法でも教えてくれるのか?」


「やだなぁ、今回は違いますよ」

「というか、そんな事思ってたんですか?失礼ですね。ぷんぷん」

「そんなことはともかく。サンタもどきは幼少のころからボッチで友達と遊んだことないんですよ」


「なにその悲しい設定。というか、俺にも刺さるんだけど…」


「その悲しみがサンタもどきをセクハラに走らせるのです」


「意味が分からんが、とりあえず説明を続けてくれ」


「つまりですね。やつを童心に帰らせてその隙にサンタ袋を奪うんですよ」

「名付けて『囲め囲め作戦』ですっ!」


リョクは人差し指を立ててドヤ顔を決める。


「……まぁ、ともかくやってみるか」


俺はそう言うと、全員に念話を送った。

あ、ちなみに、いきなり出て来た念話のスキルだが、互いに信頼が高いと通じるんだぜ。

というか、ジャンヌの俺に対する信頼って結構高かったんだな。


というわけで、作戦開始である。

後方に居たジャンヌと千里も集まって、皆で輪を作って遊び始めた。


「○~ごめ~○~ご~め~………」


ちなみに『○』で伏字にしているのは著作権云々で訴えられたら嫌だからだぞ。

みんなも注意しようぜ。


そんな俺達を遠目で見ていたサンタもどきであったが、次第にその輪に入りたそうな目をし始めた。


(上手くかかった)


そう確信した俺は、隣のユウキと繋いでいた手を放して二人で手招きをした。

するとどうでしょう。

サンタもどきは自分から輪の中に入って行くではありませんか。


そして。


「……うし○のしょ○めん、だ~○れ~?」


「グゲゴゴグギガゲ」


何言ってるのか分からんが、そう言ってサンタもどきは目を覆っていた両手を離して後ろを振り返り、そして驚愕した。


「サンタ袋ゲッ○だぜっ!」


俺がサンタもどきから奪い取ったサンタ袋を高らかに上げる姿を見てしまったからだ。


「くぁwせdrftgyふじこlpっ!!!!」


その言葉を最後に、サンタもどきは光の粒となって消えたのだった。


「俺…なんか可哀想な事をした気分になって来た」


「ウァ」


サンタもどきに哀愁を感じた俺と燒梅しゅうまいであったが、そんな俺達にリョクを除く女性陣から非難の言葉を浴びせられたのは言うまでもない。


あ、ちなみに俺とリョクが会話している最中、千里とジャンヌもサンタもどきの被害に遭ってたらしい。

くそっ、なんてうらやまけしからん奴だったんだ。

可哀想だと思った俺が馬鹿だった。


そんなこんなで、無事にクリスマスツリーの装飾もゲットして綾香達と合流した俺達は学校へと帰還したのであった。

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