第15話 オロチナミンH軟鋼

これは、俺達がゴブリン退治に向かった直後の事。


「おぅ、また来たかや」


ギルド長ロリーナ・コドモンが出迎えたのは、ゴブリン退治と聞いて一瞬のうちに姿を消した四人、豪渓寺侃三郎ごうけいじかんざぶろう、同けい百合小路綾香ゆりがこうじあやか、同葉月であった。


「全く…ひと言蒼治良そうじろうさんに事情を説明すればよろしかったですのに」


両手を腰に当てがいながら、綾香は不満げに言う。


「きっと、あの方なら分かって頂けましたわ」


続けて言う。

あれ?俺って、なんでこんなに綾香から評価高いの?


「なんじゃ、えらく蒼治良殿の肩を持つではないか」

「そんなに言うなら一緒に行けば良かったであろう」


「あら、ではそう致しましょうか」


「ふん、好きにすれば良い」


そんな二人をいつもなだめるのは珪と葉月の役割だった。

どうやら、この四人、前世から因縁があるらしい。


「そろそろ痴話げんかは終わったかの?」


「痴話げんかではありません!」

「痴話げんかでは無い!」


ロリーナの一言に、ハモるように綾香と侃三郎は言った。


「で、本題に入ってええかの?」


その言葉に、なぜ自分達が残ったのかを思い出したのか、渋々二人は並んでロリーナの話に耳を傾ける。


「わしがあるつて…まぁ鍛冶屋のイワノフなんじゃが、彼奴きゃつを通じて手に入れた情報によるとじゃな」


そう言って、ロリーナはテーブルに地図を広げた。


「分かっておると思うが一応説明すると、ここが現在地」

「そこから北に行った先に月見ヶ丘4丁目があるわけじゃが、その更に北にずーっと行った先にギローブの村があってじゃな、更にそこを北へと行った先にチュシャ山があるんじゃ」

「その山の主オロチナミンがお主たちの探している物…オロチナミンH軟鋼をドロップするそうじゃ」


「随分と遠いですのね」


「そうじゃな、そこに行くまでに…馬車で2~3日は掛かるかのぉ」


「まぁ、仕方ないのぅ。では、早速行くとするか」


「ですわね。ロリーナさん、くれぐれもこの事は内密にお願いします」

「恐らく心配されるでしょうし」


「うむ。あい分かった。気を付けるのじゃぞ」


「なんじゃ、やけに蒼治良殿をえらく買っておるではないか」

「もしや、気でもあるんかいのぅ…って!ぐうおぉーーーーーーっ!!!」


綾香に思いっきり足を踏みつけられた侃三郎は、たいそう悶えた。


「葉月、珪さん。行きますわよ」


「いや…流石に今の発言は駄目だよ、侃ちゃん」


「ですね、私も擁護出来ないです…」


一人ぽつんとギルド内に残された侃三郎は、ひぃひぃ言いながら立ち上がって外に出ようと歩き出したところで、ロリーナによって呼び止められる。


「まぁ、この世界で死んでしもうても終わりではない・・・・・・・のじゃが、分かっておるの?」


「大丈夫です。流石に****であろうと死なせはしませんよ」


侃三郎はいつもの口調とは全く違う話し方で答える。


「よう言うた。では、行ってくるが良い」


こうして、俺の知らない中、四人は旅立って行った。

なお、オロチナミンH軟鋼が何に使われたのかは、クリスマスに知る事となる。


そんな事情も露ほども知らず、俺達はギルドに戻って来た。


「おぅ、ボン。どうじゃった?」


「全く、えらい目に遭いましたよ…」


俺達は、それぞれありのままを報告書に記載して、ロリーナさんに手渡した。


「うむ。では待っておるが良い」


そう言って奥の事務室に消えたのだが、直ぐに戻ってきた。


「間違いなかったぞ。では、これが報酬じゃ」


こうして、俺達は報酬をゲットしたのであった。

俺は手に入れた自分の報酬の中から半額を取り出し、皆へと配る。


「別にええんやで、でもくれるんなら貰うけど」


「臨時報酬にゃ」


「まぁ、貰っておこう」


「夫が初めて家にお金を入れてくれた」


一人何かおかしいことを言っているが、スルーする事にした。

あと、特に何もしていないがリョクと熊猫パンダ燒梅しゅうまいにも1000エルずつ配った。


「何もしてないだけ余計ですよ、ぷんぷん」


だから、いつも俺の心の中を読むんじゃない。


「それでは、これにて失礼いたします」


そう言ってギルドを出ようとしたところで、ロリーナさんに呼び止められた。


「ボン。お主、そろそろミノタウロスを倒してみたいとは思わんかや?」


「やだなぁ、俺の能力ご存じでしょう?」


「能力を底上げ出来るとしたらどうじゃ?」


「詳しく教えて下さい」


俺は、光の速さのつもりでロリーナさんの目の前まで行くと、両手で彼女の手を握った。

傍から見たら幼女に迫るロリコンの図に見えているに違いない。

そんな事はともかく、そりゃあ俺だって強くなって俺ツエーしたいよ。

せっかく異世界に来たんだし。


「うむ。ではとっておきの情報じゃ」

「実はのぅ、お主の学校の地下に『時空の訓練部屋』と呼ばれる場所に通じる扉があるんじゃ」


あれ?なんか聞いたことのある言葉が出て来たぞ?


「その部屋はとても暗く、そして重力がここの10倍あるんじゃ」


あれ?その設定前世で見た事あるんだけど、そんな設定出しちゃっていいの?


「更には、お主の強さに合わせたモンスターが随時ポップする」


おぉっ!それは便利だ…ってあれ?それじゃあ、俺いつまでも休めなくね?


「それは大丈夫ですよ。ちゃんとキャンプを張れば魔物はポップしませんからね」


既に再び千里のおっぱい風呂を堪能し始めていたリョクが言う。

なるほど…って、だから俺の心の中を読むなよ。

しかし、そういう事なら大丈夫かもしれないな。


「ありがとうございます。早速、行ってみます」


「うむ。お主が強うなって帰ってくると信じておるぞ」


こうして俺はワクワクしながら学校へと帰って行き、先生セヴァスティアンに事情を説明して地下へとやって来た。

ちなみに、この時に侃三郎ら四人が結構な遠出をして温泉旅行に行っていることを聞いたのである。

まぁ、後で嘘だと知ることになるのだが。

そして今、噂の扉が目の前にあった。


どう見ても、ど●●もドアにしか見えないんだが本当に大丈夫なのか、この作品。

そんな事を俺が考えたところで、決定権のない俺にはどうしようもないのだが。


「ともかく、それでは行って来ます」


「ご武運をお祈りいたしますぞ」


「いてらー」


「ご武運を~。ぷはぁ」


「いってらーにゃ」


「ウァウァ」


「ふん、せいぜい気を付けることだ」


「夫の帰りをいつまでも待ち続ける妻になるフラグ」


締まらないなぁ…そんな事を思いながら俺は扉を開け、装備の出来ない精霊剣プリズラーク、ロングソード+0、およびキャンプ道具一式を背負って中へと足を踏み入れたのであった。

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