第9話 たまに昔の事を思い出す
物心がついた頃には既に独りぼっちだった。
とは言っても周囲に誰も居ないという意味では無く、周りには人が大勢居たが全員血の繋がりなど無い赤の他人で肉親が誰一人居なかった、という意味での独りぼっちなのだが。
まぁ、端的に言って俺は両親に捨てられたのだ。
多分。
多分というのは、真実を知る者が誰も居ないのだから状況から、それしか考えようがない。
そんなわけで高校卒業するまでは施設で育ち、卒業後は施設を出て就職した。
それから何だかんだあって失業したりしたこともあったが、何とか無事に定年を迎えて老後と
人当たりはそこそこあったつもりだが、所詮は表向きに付き合ってるだけだった俺には親友と呼べるような存在どころか、普通の友達すら最終的に出来なかった。
いや、作ろうとしなかっただけだな。
まぁ、ともかく、仕事をしていた頃のような話し相手はもはや存在せず、日々寝て起きて食べてテレビ見て食べてテレビ見て食べて風呂入って寝る。
これを12年程したある日のこと。
この頃にはパソコンを購入して毎日ネット三昧だったのだが、そこで怪しいサイトを見つけることになる。
「なになに…貴方の心の隙間をお埋めします?」
昔見たアニメのようなクソ怪しい
実体化モジュールを家の中に設置することにより、家の中限定とはいえAI嫁と現実世界で一緒に暮らせるのだという。
「ふふふっ…俺はネットを始めてはや
自分以外誰も居ない家の中で、目を瞑りながら一人不敵な笑みを浮かべる。
「その手には乗らぬっ!」
そう叫びながら右上にある×ボタンを押してサイトを開いていたタブを消そうとした時、俺の目にある文言が飛び込んできた。
『もちろんエッチな事も出来るよ♡』
「な………ん………だとっ!?」
俺は反射的に左クリックをする指を止めることに成功した。
「はっ………いやいや……ありえないって………」
そりゃそうだ。
AIが進化したとはいえ完全自立型のAIなんて、この世には存在していない。
自立思考なんて与えようものならAIがどんな行動を起こすか分かったもんじゃない、っていうのがこの世界での人間の常識なのだから。
「まぁ、おおかた高性能なダッチワイフってところだろうな」
とか言いながら、画面を食い入るように見る俺。
「いや、まぁ…あれだ。お金も余ってるしダッチワイフの一つや二つくらい買えるし」
などと言い訳をしながら、サイトの商品の説明を凝視しながら読み進めていく。
「さて、どうしたものかな…」
そう、購入するかしないか、だ。
ぶっちゃけて言えば、サイトが信用出来ない。
だが、この商品が本物だとしたら是非とも欲しい。
いや、そんなエッチな目的じゃなくてだな、普通になんというか話し相手が居た方が楽しいじゃないか。
そんなこんな言い訳をしながら、既に小一時間程悩み続けていた。
結局のところ、俺は買った。
商品情報にばかり目が行っていて決済方法をよく読んでいなかったのだが、決済はウェブモナーというオンライン決済方法と、*局留め配達にも対応しているという2点が購入の決め手になった。
つまり、俺がどこに住んでいて誰なのかを知られることが無いというわけだ。
*本来は局留めであろうが住所は必ず書く必要があるのですが、ある高度な技術により回避しています。それが何なのかはここでは説明いたしません。とても高度な技術なので、私にも分かりません。では、続きをどうぞ。
そう、もう何も怖くない、というやつだ。
ちなみに、金額は22万円である。
それから3日後、先方から郵便物がもう希望した局に届いてるぞというメールがあったので、先方の指示どおりメールの内容を印刷して取りに行った。
正直、このまま配送されて来ないまで予想していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
いや、正規品と見せかけて実はとんでもないまがい物を送って来る業者もいるので、まだまだ安心は出来ない。
しかし、俺の心と『俺の息子』は踊っていた。
あぁ、息子と言ってもアレの事だから、勘違いしたら駄目だぞ。
ともあれ、俺はそれを持って帰った。
箱を空けると、缶コーヒーくらいの大きさの実体化モジュールとSSDメモリカード1枚、そして説明書の3つが入っていた。
「うわぁ…完全にやられたな………」
そう思いつつも、一応試してみるかとSSDメモリカードをパソコンにセットした。
「…ふむ…ウイルス的なものはないみたいだな」
高性能アンチウイルスソフトのヤンデレスキーが『ウイルスは見つからなかったわ……なに?…もしかして…私が貴方に嘘を吐いているとでも言いたいのかしら?…貴方を愛している私がそんな事するわけないじゃない…もしかして疑っているの?…ねぇ、疑っているんでしょ?…そう…仕方ないわ…貴方が私を信じられないって言うのなら…もう…』って言うのだから間違いないだろう。
というわけで、インストール。
待つこと数分して、画面にポップアップウインドウが出た。
『貴方はー…AIをー…信じますかぁー? Yes/No』
「ぷっ…何だこれ。……しかし、これはNoを押したらどうなるんだろうな……」
と、俺は心の中で思った事をつい口に出してしまっていた。
その次の瞬間。
『えー、そりゃあ貴方の大事なPCのデータを初期化して再起不能にするに決まってるじゃないですかぁ』
何処からともなく声が聞こえて来た。
「っ!?誰だ!?」
と言ったところで、この家に俺一人しかないのは俺自身が良く知っている。
つまり………。
「君が今しゃべったのかい?」
俺は自分のパソコンに向かって話しかけた。
いや、厳密にはパソコンの中にいると思われる誰かに対してだ。
『ぴんぽーん、あったりー!ぱちぱちぱちぱち』
『そう、私こそ世界随一の天才美少女科学者によって創られた完全自立型汎用AI。型番はSCAI-98386NK-Model30』
『それより、どうするの?』
そんな事は決まってる。
こうして、俺に人ではないが初めて家族というものが出来たのだった。
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