第8話 かぽーん

お月見が終わり、ススキたちが丘に帰ってから1週間足らずの間に肌寒さも増してきた今日この頃。

そんなわけで俺達は今、村から北に結構行った先にあるアーリマン温泉へとやって来ている。


かぽーん かぽーん かぽーん


湯舟には、俺をはじめとして侃三郎かんざぶろうけい先生セヴァスティアン熊猫パンダ燒梅しゅうまいの4人と1匹がだだっ広い温泉の一角で輪を作るように並び、頭の上には丁寧に折りたたんだタオルを乗せながら浸かっていた。


勿論、湯舟に入る前に体は隅々までちゃんと洗っているぞ。

燒梅を見てくれ、いつもなら薄汚れのある毛も真っ白になっているだろ?


かぽーん かぽーん かぽーん


さっきから『かぽーん』とか音が木霊こだましているが、他の誰かが体を洗っていたりしているわけでもなく、どこからともなく音が聞こえてきているだけだ。

前世なら怖すぎてさっさと風呂から上がるのだろうが、ここは異世界マルスなのだから前世の常識などお構いなしである。

いや、むしろ、前世がおかしかったのだ。


え?そんな事はどうでもいい、お前ら男のお風呂シーンなんぞいらないって?

俺かって好き好んでやっているわけじゃあない。

仕方ないじゃないか。

俺はお●ん●ん付きなのだから男風呂しか紹介出来ないんだよ。


それとも何か?女風呂を覗けとでもいうのかい?


そんな事をしてみろ、ジャンヌによって俺の人生は終わりを迎えてしまうだろが。

じゃあ、主人公をユウキと交代しろだと?

冗談きついぜ兄弟………って、嘘だろ?マジで!?

俺たち友達じゃなかったって言うのか?

別にいいだろ?女風呂じゃなく男風呂だけでも………。


「侃三郎殿。蒼治良そうじろう殿は、先程から誰と話をされているんでしょうな」


「先生。蒼治良殿はたまにあんな感じになります」


「ですね。温かい目で見守りましょう」


「ウァ」


『というわけで、私が引き継ぐ』


いや、ちょっ!主人公の特権である俺の唯一の存在意義を奪わないでくれ………。


『りすたーと』


かぽーん かぽーん かぽーん


温泉と言えば、この音。

誰が始めたのか今となっては分からないが、お風呂場と言えばこの音である。

前の世界・・・・においては、誰かが使用した桶と床との調和音として知られた音も、異世界マルスにおいては無人のお風呂場でも絶えることなく鳴り続ける。

これは仕様であり、これを変えるためには世界管理者である神の承認が必要である。


そんな無人だった風呂場でガラガラガラと扉の開く音がした。


「うっわぁ!ひっろーいっ!!!」


村唯一の10代前半の少女丸毛小春まるもこはるは初めての温泉に感嘆の声を上げる。

ここでは何がとは言及しないが既にふっくら出始めている個所もあって、正直、私よりも出るとこが出ている。

ぺちぺちと手のひらで自分の胸の感触を確かめながら、そんな事を思う。


「どんまいやで」


私の考えを読み取る異能力を持つ千里は、私の肩に手を置いて言う。

転生特典なのであろう、たぶん。


「マスター、それ誰でも分かりますよぉ」


珍しく、おっぱい風呂に入っていないリョクが耳元で囁いた。


「いやぁ、それにしても大きいのやら小さいのやら、均整のとれたものやら色々ですなぁ」

「超ド級おっぱいジャンヌ、超級千里、美乳の綾香に美乳貧乳の葉月、そしてちっぱいの拇拇、マスター、小春ちゃん」

「どのおっぱいもサイコーっ!!!」


私の肩の上でリョクは大きく両手を上げて歓喜の声を上げる。


「ちょっ!リョクさんっ!?大声で止めて下さいましっ!」

「誰かに聞かれていたらどうするんですの?」


タオルで胸を隠しながら男湯の方に視線を向ける綾香。

綾香は誰かって言うけど、その対象は一人の男の人にだけ向けられている。

私は200歳越えの大人の女性なので、空気を読んで言わない事にした。


ちなみに、同じく声は上げないものの葉月も同様にタオルで胸を隠して恥じらいの表情を浮かべていた。

タオルで胸を隠しているというのに、それはそれでえっちに見える不思議。


「ユウキは、おっちゃんみたいなこと言うにゃあ」


最後に風呂場に入って来た、私とどっこいどっこいの拇拇ももはカラカラと笑いながら言う。


それはともかくとして、温泉に浸かる前には体をしっかりと洗う必要がある。

つまりは洗いっこだ。


「ちょっ……ユウキ……そんなに……揉んだら………だ…め…」


そんなにここがええのんか?と千里っぽく心の中で思いながらジャンヌの巨大なマシュマロを堪能する。


「ユウキ、何か誤解があるようやけど。うち、そんな事思ったりしてへんで」


千里がまた私の心を読みながら、小春と洗いっこをしていた。


「きゃははは、くすぐったいよぉ。千里お姉ちゃん」


脇のあたりを洗われている小春は言う。

成程、小春は脇のあたりが弱いっと。

脳内に保存をしながら、私は引き続きジャンヌの身体を楽しむ。


「だからっ!……だめ…だって………ひゃあっ!!!」


もみもみ楽しんでいると、急にジャンヌは一際大きな悲鳴を上げた。


「ぷはぁっ!超っぱいさいっこーーーっ!!!」


そう、リョクが参戦してジャンヌの谷間にダイブして、ごそごそと谷間を堪能した後に顔を上げた時の言葉である。

今の彼女のおっぱい圧は、非常に気持ちが良いらしい。

服を着ている時のジャンヌの胸の圧はそれはもう凄まじいらしく、リョク曰く。


『その時のおっぱいに入り込んだら、最悪おっぱい死する』


とのことで、お風呂場での解放されたジャンヌの胸に興奮しまくっていた。

そんな私達を他所に、綾香と葉月は端の方で静かに慎ましく洗っていた。

蒼治良じゃないけど、あの二人には何かそういう事をしたり想像してはいけないような何かを感じる。

アレが蒼治良が前に口にしていた上級国民というやつなのだろう。


もっとも。


「ちょっと、リョクさんっ!?そっ……ん………なっ………止めて下さ…い……まし…」


「おっほー♡ええ乳してますなぁ。綾香ちゃんや」


「リョクさん、お止めになさって……って!きゃっ!」


「こっちも、控えめながらええ乳しとるんやんけぇ」


「ほれ、ここがええのんかぁ?」


という感じで、最終的には空気を全く読まないリョクに良いようにされていたけど。


そんな中、拇拇は私達の饗宴を他所に一人だけいつの間にか体を洗って先に温泉に浸かって若気にやけ顔でとろけていたのだった。

そんなこんなで温泉をしっかりと楽しんだ後の風呂上がりに牛乳やら、コーヒー牛乳やらフルーツ牛乳やらをそれぞれ楽しんでお開きとなったのである。


………。


「蒼治良殿はまだ上がらんのか?」


「侃三郎さんこそ」


「わしは…まぁ…まだ、もうちょっと…な。珪はどうだ?」


「僕も、もうちょっと浸かってようかな…と思っています…」


「ほっほっほ…皆さん…頑張られますなぁ…」


てな感じで、顔を真っ赤にしながら俺達は引き続き温泉を楽しんで?いる。

ちなみに、燒梅だけはそんな事知ったこっちゃねー、みたいに『ウァ』という声と共に立ち上がると先に上がってるぜ、みたいな満足顔を浮かべながら俺達を残し風呂場を後にしたのであった。

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