第49話 誰だってみんな人生の主人公。

「私たちを囮にラワって男を誘き出して、倒しましょう。」


「何を言っているのか分からないよ結衣くん。」


「だから、イリスの仇をとるんです!」


「なぜ、ボクたちでやるんだい?」


「それは、イリスが仲間だからですよ!」


 するとミラン先輩が机を思いっきり叩いた。


「無理に決まってるだろ!」


「……!?」


 珍しくミラン先輩が怒った。

 いや、初めてかもしれない。


「君は蒼月華がどんなに恐ろしいのかを知らなすぎる。」


「知らないですよ、でも悔しいんです!」


「悔しいとかそんな理由で君は、戦うのか!? 君は知らないかもしれないが、蒼月華は国1つを簡単に滅ぼすほどの破壊力があるんだぞ! この事件は、ボクたち生徒だけで解決出来る問題じゃないんだ。警備隊に任せよう。警備隊なら、"極点"と連携出来る。"極点"がいれば蒼月華の事も解決できる。」


 結衣は、何も言えなくなる。

 結衣は、改めて信長の方を向いた。


「信長は、一緒に戦ってくれるよね!」


「我は……、我は絶対に嫌だぞ! 戦いたくないぞ!」


「なんで! 悔しくないの!?」


「友がやられたのは、悲しいものだ。でも、更に友がやられるのは見たくない! それなら、これ以上の被害を出さないようにするのが得策なのではないか?」


「そん、な。」


 結衣は、その場にストン、と座り込んでしまう。


「結衣くん、信長くん。」


 そんな時、ミラン先輩が口を開いた。


「ボクは今回の事件について生徒会に報告しないといけないから、ここで失礼させてもらうよ。もしかしたら、外は危険かもしれない。帰る時は、ボクを呼んで。転移魔法で君たちを寮まで送るから。呼ぶ時はこれを使ってね。」


 そう言うと、ミラン先輩は石のようなものを手渡した。


「そこにある小さいスイッチを押すと、ボクに合図が送られるから。」


 そして、ミラン先輩は病室を出て行った。


「ねぇ、信長。」


「なんだ?」


「少し、1人にさせて欲しい。」


「分かった。」


 信長も病室を出て行った。




――――――――――




 異世界召喚。

 私は、何年か前に異世界召喚されてこの世界にやって来た。

 異世界召喚なんて、普通の人には有り得ない事だから、最初は戸惑ってたけど、だんだんと私は主人公なんだって思うようになった。


 魔力が無かった私は、一瞬だけ主人公から遠ざかった気がしたけど、その時"極点"と呼ばれるアーシさんと出会って、魔力を分けてくれて、魔法の勉強をして、全ての属性の魔法を使えるようになった。


 普通、全ての属性を操るのは難しい事らしい。

 だから、私は本当に主人公なんだ、って錯覚してしまってた。

 私は強い、私に叶う奴は誰もいない。

 まるで、ラノベの主人公なんだと。


 でも、違かった。


 ターボン学園に来て分かった。

 上には上がいた。

 いや、上しかいなかった。

 私は、弱かった。

 主人公にもなれなかった。


 私は、中途半端なんだ。何もかもが。強さも、決意も。だから、友達を無くすんだ。




――――――――――




 誰もいなくなった病室で、結衣は黙ってイリスの姿を見ていた。


「イリス……、私はどうするべきだろう。」


 心の中で思っていた事が、思わず口に出てしまった。

 その時だった。


「私……はァ、大丈夫……だよォ。」


「イリス!」


 イリスが目を覚ました。


「だからァ、結衣は……結衣自身……の心配を……しなよォ。」


「うん、ありがとう。」


「結衣の……やりたい事……をやるべきだよォ。」


「うん、そうするよ。」


「風紀委員の……みんなを……守るんだ……よォ。」


「うん。」


 じゃあ、と結衣は言うと立ち上がった。


「私は帰るね。目が覚めた事はみんなに伝えておくよ。」


「あり……がとォ。」


 結衣は病室を出た。

 そして、ミラン先輩に貰った石を病室の入口に置いた。


 ミラン先輩は言っていた。

 "極点"がいれば事件を解決できると。

 幸いなことに、私には心強い"極点"がいる。


「イリス、私が風紀委員を守るよ。私のやりたいことをやらせてもらうよ。」


 結衣はそう言いながら、病院を出た。

 そして、その場で詠唱を行う。


「【蓄積チャージ】」


 すると足元には大量の【風球ウィンドボール】が発生した。


「【発射ショット】」


 瞬間、結衣は空高く飛んでいき、ターボン学園の外へと出て行った。




――――――――――




 次の日のターボン学園男子寮。


「よく寝た!」


 "尾張の大うつけ"織田信長は、昨日のことは忘れ、今日の予定を組み立てていた。


「今日はフライの発売日だからな。まずは、それを買ってくるとして……、」


 あ、と信長は何かに気づいたように手を叩く。


「1人で出歩くのは危険を言っていたからな、まずは結衣を連れていくために、女子寮に行かなくては。」


 その時、信長の部屋の窓を誰かが勢いよく叩いた。


「誰だ、こんな朝から。」


 信長は、窓を開けた。

 するとそこには、ミラン先輩がいた。


「信長くん、緊急事態が発生した!」

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