第48話 急展開すぎて僕も追いつけていません。
病院で見たイリスの姿。
それはとても酷いものだった。
「イリ……ス。」
結衣はその場で泣き崩れた。
「それで、犯人は分かったんですか?」
いつもは元気のミラン先輩も今日は元気がなかった。
だが、誰よりも冷静に警備隊と話をしていた。
そして、信長も。
病院に入るまでは、いつものようにフライを読んでいたが、病室でイリスの姿を見た信長は、フライをその場に落とした。
そのフライは、今もその場で落ちたままだ。
「確証はないのですが……、」
と、警備隊が口を開いた。
「先日、キブカ村で事件を起こしたラワという男が脱獄したというニュースがありました。風紀委員の皆さんは、ラワと関わりがありましたけど、厳重な警備のターボン学園に侵入して、生徒を襲うことが可能とは思えません。」
「でも、可能性はあるってことだね。」
警備隊の話を聞いたミラン先輩はそう言った。
「ボクがイリスくんの傷口から魔力を逆探知してみることは可能かい?」
「えぇ、ですがそれは警備隊が既に行っています。」
「ボクも一応確認してみるね。」
ミラン先輩は、イリスの傷口に手を当てた。
そして、何かを呟いたかと思うと、首を横に振った。
「不思議な魔力だ。誰だかを特定できないように対策されてる。」
「そうなんです。そして、もう1つ。」
「なんだい?」
「先日、世界博物館から『蒼月華』の盗難事件があったそうです。」
「『蒼月華』が関係あるのかい?」
「いえ、分かりませんが、蒼月華には魔力が込められていますが、不気味な魔力となっていて、イリスさんの傷口から検出される魔力ととても酷似しているそうなんです。」
「つまり、ラワと蒼月華の事件、そして今回のイリスくんの襲撃事件は1つに繋がる可能性があるってことか。」
「その通りです。」
ミラン先輩と警備隊の会話を聞いていた結衣は、手を挙げた。
「蒼月華ってなんですか?」
「蒼月華とは、100年前、当時の鍛治職人が作り上げた世界最高傑作の刀のことだよ。その刀の色は、まるで蒼い月のようであり、その蒼月華が作り出す影は花のような形をしているらしい。それだけじゃなく、その刀自体に自我があるかのように、蒼月華単体で動くこともできるらしい。とても不思議な刀のことだよ。」
「そうなんですね。」
ミラン先輩の説明に警備隊が補足する。
「そして、蒼月華は他人の血を吸うことで更に強くなる効果があるらしいんです。きっとイリスさんのその傷跡も蒼月華に血を吸われたのだと思います。」
「そう、ですか。」
警備隊の人は時間を確認する。
「それじゃあ、私はここで。この事件について更に調べてまいります。」
と言った。
ミラン先輩は、よろしくお願いします、とだけ言う。
「結衣くん、大丈夫かい?」
「少し、外の風に当たってきます。」
結衣はそう言うと、病室を後にした。
――――――――――
異世界に来て、かなりの時間が経っているが、信長と出会うまでは1人で生きてきた。
いや、アーシに魔法を教わってた時もあるから常に1人だった訳では無いが。
それでも、ほぼ1人だった。
でも、信長をあの洞窟で見つけて、ターボン学園に来て、そして初めて異世界で出来た友達がイリスだった。
そんなイリスがボロボロの状態で病院で寝ている。
辛かった。悲しかった。
もっと、自分に出来ることがあったはずだと、自分自身を責めた。
でも、そんなことをしていてもイリスの傷が治ることはない。
「確証はない、か。」
結衣は警備隊の言葉を思い返す。
なら、確証にさせないと。
本当にイリスを襲ったのがラワなら、恐らくだがイリスを襲った理由がキブカ村での1件だと思う。
ただの復讐のためだろう。
ならば、次に襲われるのは信長かミラン先輩か私の誰かだと思う。
なら、あえてラワを誘き出して、確証に変えればいい。
犯人がラワなら、私たちが戦う意味にもなる。
「決めた。」
結衣は、病室に戻った。
「お、結衣くん。大丈夫かい?」
「はい。大丈夫です。」
「なら、良かった。」
「それよりも、大事な話があるんです。信長もちゃんと聞いてて。」
戦おう。
仲間がやられたんだ。
仲間の仇は必ずとってやる。
私を怒らせた事、後悔するがいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます