『蒼月華』篇

第46話 高い場所って高所恐怖症じゃなくても怖いよね? そうだよね?

「みんな元気かい!」


 ミラン先輩の元気な声がいつものように発せられる。


「ミラン先輩が1番元気そうですね。」


 と、結衣は言う。


「いやいや、ボクは君たちよりも歳をとってるから、君たちの方が元気なんじゃないかい?」


「そんな事ないんですけどね。」


 ある日の風紀委員。

 今日は、風紀委員活動室ではなく、別の場所に集合している。

 その場所とは、旧図書館だった。


「さぁ、今日の仕事を説明するよ。」


「早く説明するのだ!」


 今日は珍しく信長が興味を示しているので、結衣は一安心していた。


「この旧図書館にある本を全て新図書館に移動させるのが今回の仕事さ!」


「随分と大変そうですね。」


 結衣は、仕事量の多さに驚く。


「そうだね。」


 ターボン学園の旧図書館には、大量の本がある。

 民家の2階建てくらいの高さがある本棚にビッシリと本が敷き詰められている。

 それが、何列もあるので今回の仕事はとても大変そうだった。


「やりたくないな。」


「今から弱音を吐くんじゃないよ、結衣くん。」


「はぁい。」


「まぁ、ボクは転移魔法を応用して全部新図書館に送れるんだけど、君たちはそんな魔法持ってないだろうから1つ1つ運んでね。」


「先輩だけで十分じゃないですか?」


「そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。」


「は、はい。」


 パン! と、ミラン先輩が手を叩く。


「さぁ、始めるよ!」


 


――――――――――




「絶対にィ、絶対にちゃんと抑えててよォ!」


「めちゃくちゃ抑えてるよ!」


「すっごくゥ、揺れてるよォ!」


 まずは本棚の上にある本を取り出すために、イリスがハシゴを使って本を出している。

 しかし、とてもハシゴが揺れてしまうので、下で結衣が抑えているが、全くの意味を為していない。


 一方その頃、信長は何をしているのか。


「すっ、スゴすぎる。」


 とても目が輝いていた。


「今までのフライが全部揃っているではないか!!」


 仕事はそっちのけで、週刊少年フライを読んでいた。


「信長は使い物にならないな。」


 と、結衣は思った。


 その時、少し風が吹いた。

 そのため、ハシゴが大きく揺れた。


「あああああ!」


「落ち着いてイリス!」


「じゃあァ、結衣が登りなさいよォ!」


「ジャンケンで私が勝ったんだから、文句なしでしょー?」


「そうだけどォ!」


 心無しか、イリスの声が泣いているように聞こえる。


 結衣とイリスが騒いでいる間にも、ミラン先輩は淡々と本を転移させていた。


「ずるいなぁ、ミラン先輩。」


「そんな事言ってる場合ィ!? って、わッ!!」


 その時だった。

 イリスがバランスを崩してしまった。


「落ちるゥゥゥゥ!」


「本棚に掴まりな!」


「たしかにィ!」


 イリスは、本棚に掴まった。

 だが、掴み方が悪かったのか、なぜか本棚も一緒に傾いていく。


「嘘でしょォォォォォォォォォォォォ!」


 本棚に掴まったままのイリスごと、本棚が倒れていく。

 そして、本棚は隣の本棚へと。

 まるで、ドミノのように本棚が倒れたいく。


 ドン、ドン、ドン、ととても大きな音が旧図書館内に響き渡る。


 そして、本棚の崩れがある程度収まった。


「い、イリス! 大丈夫!?」


「イリスくん、今、助けるよ!」


 しかし、どこからもイリスの声はしなかった。


「ちょ、信長! 信長も一緒に探して!!」


「わ、分かっておる!」


 イリスの大捜索が始まった。


 そして、


「見つけたぞ! ここだ!!」


 信長が本棚と本棚の間からイリスを見つけた。


「大丈夫!? イリス!!」


「大丈夫に見えるゥ?」


 本棚と本棚の間からイリスを出そうとするもどうやら本棚がイリスの足の上に落ちてしまったらしく、抜け出せなかった。


 ミラン先輩が魔法で本棚を転移させ、邪魔なものをどかし、ようやくイリスを救出。


「生きてる!?」


「生きてるけどォ、多分骨が折れてるわァ。」


「え、」


「身体が動かないのよォ。」


「は、早く病院に行こう!」


 結衣はイリスの肩を持ちながら、旧図書館を出た。


「ボクの転移魔法でイリスくんを送るよ!!」


「ありがとうございます、先輩!」




――――――――――




 そして、イリス以外の3人は風紀委員活動室へと帰ってきた。


「さっき病院から連絡があったんだけど、それほど酷い怪我じゃないらしいよ。」


 と、ミラン先輩が言う。

 続けて、


「右腕が折れてるのと、左足が折れてるだけだって。」


「それ、かなり酷いじゃないですか。」


「そうだね。」


 はぁ、とミラン先輩は大きめなため息をついた。


「しばらくイリスくんは、風紀委員の仕事は自粛だね。」


「そうですね。」


「まぁその分、信長くんに働いてもらうだけだけどね。」


 それを聞いた信長は、読んでいたフライをその場に落とした。


「え!?」


「オマエはもっと働ケ。」


 と、カメノスケに言われながら。

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