第37話 喧嘩してる友達に会うのって気まずいよね。

 信長の目の前に立っている男がいた。


「ようやく会えましたね。」


 信長はその聞き覚えのある声と、見慣れたその容姿に反応し、急いで刀を握った。


「おや、私とやり合うつもりですか?」


「違う、そういうつもりでは無い。」


「そうですよね。あなたは、刀を抜けませんからね。」


 信長はゆっくりとその男から離れていく。


「わ、我になんの用がある。」


「先に地獄で待っているらしいので、私も地獄へとやって来ただけですよ。」


「なら、その必要は無い。我の前から居なくなっては貰えないか。」


 信長はその男を真っ直ぐ見つめた。


「明智光秀。」


 異世界に召喚された織田信長。

 そんな信長は、異世界に召喚される直前まで本能寺にて光秀と対峙していた。


「我を殺しに来たのか。」


「えぇ、その通りです。」


 焦る信長に対し、光秀はとても冷静だった。


「私は、あなたを許しませんから。」


 この異世界で徳川家康に出会ったことはある。

 そして、今日。明智光秀にも出会った。

 どうやら、信長が過ごしていた時代の者たちがこの異世界に召喚されていると考えて良いのだろう。


「お主以外にもこの世界にやって来た者はいるのか。」


「いえ、私は知りませんね。」


「そうか。」


 信長はもう一度、光秀の足元から頭まで良く観察した。


「ん?」


「どうしたのですか、信長様。」


「お主......」


 そこで信長は、とある事に気がついた。


「お主、ターボン学園の生徒なのか?」


「えぇ、そうですけど。私は、ターボン学園の生徒会役員ですよ。」


「せ、せいとかい!?」


 信長は、生徒会という単語を何度か聞いたことがある。それは、ミラン先輩が良く話していたからだ。

 ただ、ミラン先輩が話す生徒会の話には、とても良いイメージが無い。


「つまり、我らの敵なのか。」


「何を言っているのですか。」


 まぁいい、と光秀は言うと、左でに持っていた刀を抜いた。


「さぁ、ここで終わりです。"第六天魔王"。」


 その時だ。

 信長のすぐ目の前に魔法陣が描かれた。

 また、光秀が懐に持っていた通知用魔法グッズが鳴り出した。


「信長くーん!」


 魔法陣から現れたのは、ミラン先輩だ。


「ど、どうしたのだ?」


「すぐに活動室に戻ってきて欲しいんだ!」


「え!?」


 信長はミラン先輩に腕を掴まれると、魔法陣の中へと引きづりこまれた。


「さぁ、行くよ!」


 ミラン先輩がそう言うと、魔法陣から眩い光が発生し、その光の中に2人は消えていった。


「光秀くん、ちょっといいかな? この後、風紀委員の活動室へと行くんだけど、一緒にどうかな?」


「なるほど。」


 光秀は通知用魔法グッズを使い、誰かと連絡を取り合う。


「今すぐに戻ります。私も、御一緒させてください。」




――――――――――




「あァァァァァァァァァァァァ!」


 風紀委員活動室に召喚された信長は、いきなり叫び出した。


「な、なんだい!? 信長くん!!」


「我、金平糖を置いてきてしまったァァァァァァ!」


「ま、また後で買ってきてね、信長くん。」


 ミラン先輩は信長をソファに座らせる。


「それよりも信長くん。ボクたちはとある事件に巻き込まれてしまったのだよ。」


「事件、だと。」


 その時、信長は目の前に誰かが座っている事に気がついた。


「この者たちは何者だ?」


「生徒会だよ。」


「生徒会?」


 ターボン学園の生徒会。

 それは、学園全体を仕切っている委員会だ。

 学園の校則から学園の治安維持まで。ありとあらゆる仕事を行っている。

 しかも、エリートの集まりだ。


「それで、そんな生徒会様たちが我らになんの用なのだ?」


 信長は、活動室に訪れている生徒会役員たちの中でも1番偉そうな見た目をしている生徒問う。


「最近、風紀委員の活動に怪しいモノがありましてね。」


「怪しいもの。」


「えぇ、窓ガラスを割って回ったり、運動部の邪魔をしたり、研究棟の研究の邪魔をしたり、僕の邪魔をしたり......。」


「待て待て、我らはそんな事していないぞ!」


 信長は、すぐに異議を唱えた。


「そうなんだよ、ボクたちは何もやっていない。でも、その事を信じてもらえないんだ。」


 と、ミラン先輩は言う。


「そうだ! 結衣とかイリスは?」


「どこにも見当たらない。こういう時に限っていないんだから!」


 2人で話していると、生徒会役員の偉そうな人がいきなり立ち上がった。


「本当に嘘をついていないと言うのであれば、その事を証明していただく必要がありますね。」


「しょう、めい?」


 ミラン先輩は首を傾げた。


「どうやって、証明をすると言うのだい?」


「あれを持ってこい。」


 証明方法を聞かれた生徒会役員は、隣に座っていた人に指示を出した。

 すると、


「了解しました、会長様。」


 と、言い部屋から出ていった。

 そして、しばらく時間が経過した後、指示を出された人が戻ってきたが、その人は何やら大きな物を持ってきていた。


「こ、これはなんなんだい?」


 まるで、人を拘束するようなもの。

 両手両足を固定する物が設置されている。まるで、拷問器具だ。


「これは、ただの嘘発見器だ。」


「う、嘘発見器?」


「そうさ、君がもし、嘘をついていないのであれば、この器具に固定されていても何もされない。」


「ちょ、ちょっと待ってェェェェェ!? もし、嘘をついていたら何かされると言うのかい?」


「大したことはされない。着ている服を脱がされるだけさ。」


「ッ!?」


 ミラン先輩は、会長と呼ばれるその男からの言葉を聞くと、真っ先に会長の顔面を殴り飛ばした。


「グホヘッッッ!?」


「ただの変態じゃないかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


「「会長様ァァァァァァ!?」」


 そんな様子を見ていた信長は、自分には関係ないことを悟り、読み終えていなかった今週の週刊少年フライを読み始めたのだった。

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