第23話 お客様は神様ですか。

「さて、信長くんたちよ。今日は1つ大事な仕事があるのだ。」


 週刊少年フライを読んでいた信長だったが、そのフライを閉じて、珍しく話を聞いた。


「大事な仕事とはなんだ?」


 と、信長が言う。


「今日はね。依頼人が直接ここに来るらしいんだ。」


「!?」


 ミラン先輩の言葉に反応したのは結衣だった。


「それはまずいですよ! また先輩がこの部屋を汚くし始めたから、掃除をしないといけないじゃないですか!」


「そんなに汚いか?」


「汚すぎます! 早く、掃除しますよ!!」


 イリスも手伝って! と叫びながら結衣は周りの人に指示を出す。

 信長はそんな3人の様子を見ながら、もう一度週刊少年フライを読み始めた。


 15分ほどが経過した。

 部屋はだいぶ片付いた。

 あとは、お客様を迎え入れる用意をするだけだ。


「信長! お客様に出すお茶菓子を買ってきて!」


 と、結衣が叫ぶ。


「その心配はないぞ。この前食べようと思っていた金平糖があるからな。」


 と、信長は言う。

 そして、信長はソファの下から金平糖の入っている袋を取りだした。


「......信長、なぜソファの下から?」


「いや、それは知らないが、この下に入っていたのを見つけたのだ。」


「そっか。」


 と、その様子を見ていたミラン先輩が不自然に目を逸らした。


――その金平糖、賞味期限がきれてるんだけどなぁ。


 こうして、信長たちはお客様を迎える用意ができたのだった。


「さぁ、これでいつ来ても大丈夫だね!」


 と、ミラン先輩が言った時、活動部屋の扉を誰かが開けた。


「し、失礼します。」


 中から出てきたのは、1人の老人。


「君がボクたちに依頼を送った人だね?」


「はい。」


「じゃあ、ここに座りたまえ!」


 信長たちは老人と向かい合うように座った。


「それで、今回の依頼ってなんだい?」


 と、ミラン先輩が言う。


「ワシたちの村を救ってほしいのじゃ。」


「......救う?」


「ワシたちの村、キブカ村は毎年、鮮度の良い作物が大量に収穫できる村で有名なんじゃ。だが、数年前に村で異変が起き始めた。村の作物が荒らされ始めたのじゃ。それだけではない。村の男や女が1人ずつ、無作為に拐われてしまうのじゃ。この収穫の時期に。毎年ワシたちは、今年は自分なのではないかと怯えながら過ごす日々。どうか、ワシたちを救ってはくれないか?」


 と、老人は経緯とともに、依頼の詳しい内容を教えてくれる。

 つまり、村を救って欲しいというのは作物を荒らし、そして村の人を拐う人を見つけ出して欲しいということだろう。


「なるほどね。それは災難だったね。」


「やはり、ダメでしょうか......」


「安心したまえ! ボク達ならそんなこと、朝飯前で解決できるよ!」


「本当ですか!」


「あぁ、任せたまえ!」


 こうして、風紀委員の新たな仕事が決まった。


「さぁ、そうと決まれば早速村に行こうか!」


「え!?」


「ほら、明日は授業休みでしょ?」


「確かに......」


「それとも、結衣くん。もしかして、明日予定でもあるの?」


「いや、ないですけど。なんか、突然ですね。」


「そうかな? まぁ、このまま行かないといけないからね。」


「ん? このまま?」


「そうだよ。」


「学園外出届とかいらないんですか?」


「非公式のボクたちに、そんな物が通るわけないでしょ。だから、こっそり出るんだよ。」


「そうなんですね......」


 ミラン先輩は老人に先に行ってていいよ、と伝える。

 そして、ミラン先輩は地面に魔力を流し始めた。


「何をするんですか?」


 と、結衣が言う。


「転移魔法さ!」


「え? 先輩、転移魔法が使えるんですか?」


「まぁね。ボクは攻撃系魔法は使えないんだけど、支援系魔法はたくさん使えるのさ!」


「へ、へぇ〜。」


 結衣は少し感心した。

 今思えば、先輩が魔法を使うところを初めて見るかもしれない。


「さぁ、準備ができたよ!」


「じゃあ、早速!」


「そうだね! さぁ、みんなボクに近づいて!」


 信長たちがミラン先輩に近づく。


「じゃあ、行くよー!」


 ミラン先輩がそう言うと、辺りが一気に光り始めた。

 あまりにも眩しいので、目の前が見えなくなる。


「ま、眩しッ!」


 と、結衣がつぶやく。

 だが、しばらくするとその光が消え始め、だんだんと視界が確保されてくる。


「こ、ここは......」


 先程まで、活動部屋にいたはずだ。

 だが今、目の前に広がっているのは草原だ。


「ターボン学園の外さ。」


「え!?」


「まぁ、ボクはキブカ村を知らないから、あの老人に案内してもらわないといけないでしょ? 多分、この辺りにあの老人がいるはずだよ!」


 信長は周りを見渡す。

 だが、あの老人の姿は見当たらない。


「ミランよ、老人はどこにもいないぞ。」


「すまんの、ここじゃ。」


 いないと思ったその時、信長たちの足元から老人の声がした。


「あなた達に踏まれているのじゃが。」



「「......あ。」」

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