第16話 ドアを通るとどこにでも行けるあの道具が欲しいィィィ。

「さて、どうしたらいいのかな。」


 結衣は目の前の状況に頭を悩ませていた。

 信長がつぶしてしまった青年、ハエナ。

 恐らく、彼は今も教室でぶっ倒れている可能性が高い。


「ひとまず、我らの教室に戻ってみないか?」


 と、いつの間にか目を覚ましていた信長の提案が結衣たちの耳に入る。


「ハエナと最後に会っていたのは我らだ。ハエナを最後に確認できた場所から辿っていけば、いずれかは巡り合えるかもしれない。」


「そうね。行ってみましょう。」


 ということで、信長たちはD組に来た。

 しかし、教室には誰もいなかった。

 それどころか、学園内で生徒を1人も見なかった。


「さて、ここからどこに行ったのかしらね。」


 と、結衣が呟く。


「このクラスの担任の先生に会いたいです。もしかしたら、ハエナがどの寮で住んでいるのかがわかるかもしれない。」


 とタチワ。

 先ほどの戦闘の時とは比べ物にならないくらい冷静だ。


「え、寮まで行くのか!?」


 と、驚いたのは信長だった。


「当たり前ですよ、私は今すぐにでも会いたいんですから。」


「そ、そうか。」


 信長たちは担任の先生である、バージン先生のいる教員室へと向かった。


「なるほどねー。流石に個人情報だから教えられないけどー、ハエナくんが放課後どこに行くのかは教えられるよー。」


 信長たちがバージン先生を見つけ、事情を話すと、あっさりとハエナについての情報をくれた。

 どうやら、ハエナは放課後、図書室にいるらしい。


 信長たちはハエナがいるであろう図書室へと向かった。

 その途中だった。


「なんだ? なんか金平糖が落ちてるぞ!」


 信長が道に落ちていた金平糖を見つけた。

 実は織田信長は異世界に召喚される前から金平糖が好物であった。

 どのくらい好きなのかというと、我を失うくらいに好きなのだ。

 


「それ、食べないでよ。汚いし。」


「は? もう食べちゃったのだが。」


「……は?」


 結衣はそんな信長に若干引いていたが、やがて3人は図書室にたどり着いた。


「先生の話によるとこの図書室にいるはずなんだけど。」


 と、結衣が呟く。

 そんな結衣の後ろから信長が震えるような声で話しかける。


「な、なぁ。我、トイレに行ってきてもいいか? 腹が、腹が痛いんだ。」


「はぁ? 道に落ちてる金平糖食べるからでしょ。」


「と、取りあえず行ってくるぞ!」


 信長はそう言うと、早足でトイレへと向かっていた。

 しかし、1時間が経過しても信長がトイレから戻ってくることはなかった。

 気がつけば、結衣は単行本サイズの本を1冊読み終えていた。


「信長遅くない?」


「そ、そうですね。」


 信長の帰りを待つ2人。

 そんな2人の前に、1人の女が立つ。


「あらァ? 結衣じゃないィ。」


「あ、イリス。」


「何してるのォ?」


 結衣はイリスにこれまでの事を話した。


「それって、信長が1時間もトイレにこもってるってことよねェ。少し様子を見てきた方がいいんじゃないィ?」


「まぁ、そうなんだけど。なんで私が?」


「でもォ、信長がずっとこもってるのは他の人の迷惑になるでしょォ? だから結衣が様子を見てきた方がいいんじゃないってことォ。」


「私の質問の答えになってないんだけど……。」


 結衣は少し悩んだあと、結局トイレの様子を見てくることにした。

 トイレの前に立った結衣たちはそこで驚くべき事実を知る。


 ターボン学園の図書室のトイレは1つしかなかった。

 そして、その唯一のトイレの鍵はなぜか開いている。

 つまり、信長は今このトイレに居ない。


「どういう事かしらァ。」


「ちょっと信長? いるなら返事しなさいよ!」


 結衣はトイレの扉を叩く。

 しかし、扉の奥から返事が帰ってくることは無かった。


「はぁ、仕方ないな。」


 と、結衣が言うとトイレの扉を思いっきり開けた。

 そして、その扉の先に広がっていた光景は……。





 結衣、イリス、タチワの3人は多くの生き物と目を合わせた。

 その多くの生き物とは全身が緑色の生き物。

 手には棍棒を持っている。

 そう、ゴブリンだ。


 それも、1匹や2匹どころではない。

 恐らく10匹以上はいる。

 トイレの奥に広がっていた光景を見た3人は引き返そうとした。

 だが、すでに3人が入ってきた扉が消えている。


「転移魔法といったとこかしらァ。もしくは魔法による『自己世界』の形成......?」


 と、イリス。

 魔法の中には『自己世界』の形成という能力があったりもする。

 それは、魔法により周囲の状況を変え、使用者に優位な世界を作り上げるというもの。

 もちろん、『自己世界』を形成するには莫大な魔力を消費する。


 恐らく、信長もこの『自己世界』に巻き込まれている。

 つまり、本当に『自己世界』であれば、1時間以上もの間それを維持することができる魔力量を持つ者がいることになる。

 そんなことができるのは『極点』か極点クラスの強さを持つ者だ。


「そうかもしれないけど。転移魔法というより、どこでもドアみたいね。」


 と、結衣が言う。

 この空間が『自己世界』ではないと判断してのセリフだ。

 つまり、これは『転移魔法』によって、トイレとは別のどこかに連れて込まれたということ。

 そもそも、ターボン学園内は厳重なセキュリティで守られているため、無許可で『自己世界』は形成できない。

 ということで、結衣は相手を同等以下と判断した。

 格上でないなら勝機は十分にある。


 結衣たちが様子を伺っていると、ゴブリンたちが一斉に飛びかかってきた。

 結衣とイリスはすぐにタチワの前に飛び出しタチワを守った。


 その隙に、イリスは魔力を放出させ体中に電撃を走らせる。

 一方、結衣も同じように魔力を放出させ手のひらに蓄積させる。


「【雷剣サンダーソード】」


「【蓄積チャージ】!」


 2人の魔力がぶつかり合う。

 その結果、辺りに衝撃波が生まれた。


「「私たちから離れないでね!」」


 結衣とイリスはタチワにそう伝えた。

 そして戦闘が始まった。

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