第15話 人の男は絶対にとってはいけない。

(信長、どうするのよ!)


(そんなこと我に聞かれても困るだけだ!)


(でも信長がやったことじゃない!)


(まさか、こんなことになるとは思わないし!)


 2人はコソコソと何かを話していた。


「あ、あのー。どうかしました?」


 そんな2人の様子を見て不思議に思った女の子は声をかける。

 とっさに結衣は反応をした。


「べ、べ、別に大丈夫だよ! 別にこの男を知ってるとか、この男の"玉"をアレしちゃったとか、別にそんなことは! そんな、やましいことは何も、してない……」


「ェェェェェェェェェェ!? 今、お主すごいこと言ってるよ! 動揺で、すごいこと言っちゃってたよ!!」


 この時、結衣はあまりにも動揺しすぎてしまい、嘘がつけなかったのだ。


「ねぇ今、なんか言ったね。」


 女の子のトーンが一気に暗くなった。

 その様子の変化に、信長と結衣が恐怖を覚えた。


「……。」


「今、ハエナくんの"玉"がなんとかって言ってたよね。」


「……。」


「ねぇ……。どういう事。」


「あの……ですね。」


「私、まだハエナくんの"玉"を掴んだことすらないのに。」


 不穏な空気。

 それを察知した信長はすぐにその場から逃げ出した。

 しかし、不穏な空気に遅れて気がついた結衣はすでに逃げ場を失ってしまった。


「私の名前はタチワ。覚悟はできてるよね? 結衣。」


「覚悟も何も、私は何もしてないっていうかぁ。」


「黙って! この淫乱女。人の男を誘惑して、私の彼氏を誘惑して、勝手に奪って、」


 タチワと名乗るその女の子は呟きながら魔力を放出させる。


「絶対に! 許さない!!」


 タチワがそう叫んだ。

 次の瞬間、タチワは地面に落ちていた石を自分に向かって投げた。


(え、嘘。自分を傷つけるの!? それはダメでしょ!!)


 結衣はそう思った。

 しかし、瞬きをした次の光景にはなぜかタチワが投げた石が自分の目の前にあった。


「え、何で?」


 結衣は寸前で避けた。


「チッ。」


「『チッ。』じゃないよ! 私を殺す気なの?」


「殺しはしないよ。いい感じに痛めつけるくらいだよ。」


「それが1番怖いよ。」


 結衣は魔力を放出させる。

 そして、その魔力を一気に手のひらに蓄積させる。


「【蓄積:柔軟チャージ-フレキシブル】」


 手のひらに出来上がったの1つの【水球ウォーターボール】。

 一方、タチワは結衣へと走っていく。


(一気に距離を詰めるつもりね。だけど、そうは、させないよ!!)


 結衣はそう考えると、手のひらにつくりあげた【水球ウォーターボール】をタチワに向けた。


「【発射ショット】!」


 結衣は柔らかい【水球ウォーターボール】をタチワへ放った。

 これでタチワの動きを止めることができる。


 はずだった。

 次の瞬間、なぜか自分の放った【水球ウォーターボール】を自分が受けていた。


「ッッ!?」


 よって柔らかい【水球ウォーターボール】に体の制御を奪われ、その場で一瞬だけだが、動きを止められた。


 しかし、ここは戦場。

 一瞬でも動きを制御されてしまえば、相手に隙を与えることとなる。


「これで終わりよ。淫乱女!!」


 タチワの手には鉄の棒があった。

 タチワは、その棒を投げる。

 次の瞬間、タチワの投げた鉄の棒はなぜか結衣の頭上から落ちてきていた。

 そして、タチワの手には1匹の鳥。


(あぁ、なるほど。)


 この光景を見て、結衣は全てがわかった。


「君、物と物を交換する魔法が使えるんだね。」


――ガシャン!!


 鉄が物体にぶつかる音が響いた。


「やったのか……。」


 タチワは結衣の状態を確認するために、ゆっくりと近づく。

 だが、鉄の落下地点辺りから足音が聞こえた。


「……ッ!?」


「この程度で私を倒せるとでも思った? 甘いッ!!」


 結衣は鉄の棒を【土球アースボール】で防いでいたのだった。


「あなたには少し、私の本気を見せないといけないようね。」


 結衣の体から大量の魔力が放出された。

 その魔力が周囲に影響を起こし、強い風を作り出していた。


「【蓄積チャージ-柔軟フレキシブル】」


 結衣がそう唱えると、結衣の指の先に【火球ファイヤーボール】が作られた。


「ちょっとだけ眠ってな。」


 と結衣が囁いた。

 しかしその時、誰かが結衣の肩を掴んだ。


「誰!?」


「我だ。信長だ。それよりも、ここまでにしておこう。」


「なんでよ!」


 信長は結衣の言葉を無視し、ゆっくりタチワに近づく。

 まずいと思った信長はすぐにその場で土下座をした。


「悪かった、我が悪かった!」


「どういうこと。」


 怖い表情をしたタチワが低い声で呟いた。


「あの女子おなごは関係ない。我とお主の男で遊んでいた時に、我が男の玉を蹴ってしまっただけだ。そこに偶然、あの女子おなごもいただけだ。勘違いさせてしまうようなことで、すまない!!」


 信長は全力でタチワに説明した。


「なんだ、そういう事だったんだ。」


 タチワの声が元に戻った。


「てっきり、寝とられたのかと。」


「まぁ、我はNTR物は嫌いじゃないぞ。むしろ好きなくらいだ。」


 信長がそう言った時、硬い何かが信長の頭を殴った。

 信長の意識はそこで消えた。

 殴ったのは結衣だった。


「下ネタ暴走の予感がしたから、1度止めといたよ。」


「ェェェェェェェェェェェ!?」


 その様子を見たタチワは苦笑いしながら叫んだらしい。

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