第12話 化学の実験には身の危険がつねに付きまとうものだ。

 織田信長たちがターボン学園に入学してから約1週間ほどが経過した。

 すでに授業もたくさんやってきているのだが、信長が授業に出た回数の方が少ない。

 完全にサボっていた。

 理由はつまらないからだ。

 しかし、今日の授業は少し違った。


 今日の授業というのは、魔法を使うためのエネルギー源である魔力を存分に吸い込ませた物質『魔物質』というものに、属性を付与させ、魔物質と魔物質を混ぜ合わせて新たな物質を作るという化学の実験だ。


 信長は自分の見たことのないものに興味を示すという好奇心旺盛な性格だ。

 そのため、今日の化学の授業には楽しそうに出席していた。


「ホントに気分屋だよね。」


「そうねェ。」


 そんな信長の様子を眺めながら、結衣とイリスはそう話していた。


 そんな中ついに実験は始まった。

 信長たちに渡されたのは2つの魔物質だ。

 1つは水属性の魔物質。もう1つは不明だ。

 だが、この2つの魔物質を適正量混ぜ合わせるだけで、水の魔物質が一気に凍るらしい。

 これは、現実世界にもある『過冷却』という現象を用いたものらしいが、その現象を無理やり魔力に合わせてしまったため、現時点での解明はできていない。(←作者がこの現象を理解できていないため説明できないだけ。)


 ただわかっていることは、この魔物質は水が凝固し氷になる温度である『凝固点』を強制的に高くし、室内温度と等しくすることによって、水が一瞬で凍るようだ。

 難しい解説を受けたが、そんなことはどうでもいい。

 信長としては一刻も早く『魔物質』というものを見てみたいのだ。


「さて、それではいよいよ実験を始めす。先生の言った通りの量の魔物質を使ってくださいね。」


「それでは始めよう!」


 信長は先生に言われた通りのやり方で氷を作った。


「これは……! す、すごい!!」


 信長は感動した。

 そして様々なことを勝手に試してみた。

 例えば、魔物質の量を増やしたり。

 例えば、魔物質の形を変形させたり。

 様々な試行錯誤をし、たどり着いたのが、氷で作られた等身大の織田信長。


「ふーん!」


 謎のドヤ顔でクラスの人達に見せる。


「信長くん、確かにすごいけど勝手なことはしないでね。」


「……。」


 しっかりと説教を受けた信長。

 それと同時に、一生懸命作った等身大の織田信長が溶かされてしまった。

 信長はその様子に言葉を失ってしまった。


 しばらくすると授業も終わり、昼の時間になった。


「さて、昼ご飯にでもしようか。」


 と、結衣が言う。


「そうねェ。信長、今日は学食ゥ? それとも弁当ォ?」


 と、イリス。

 しかし、信長からの返答はなかった。

 悩んでいるのかな?

 と、思った結衣は信長の顔を覗き込む。


「結衣よ、緊急事態だ。」


 しかし、意外にも信長は真面目な表情をしていた。


「どうしたの?」


 結衣が聞いてみると、信長はどこか指を指した。


「あれを見よ。」


「ん?」


 結衣は信長の指の先を見た。

 そこには、


「……お願い、たすけて……。」


 魔物質の暴走により自分自身が凍り始めてしまっている女の子がいた。


「ッ!?」


 結衣は素早く近づく。

 それに気づいたイリスも結衣の後ろをついて行く。

 更にその後ろをゆっくり信長がついて行った。


「ど、どうしよ! このままだと、この子が!」


 結衣が慌てた様子で信長とイリスに言った。


「先生を呼んだ方がいいのかしらァ?」


「ダメだ、それでは間に合わない。先生を呼んでいる間に、この女子おなごが完全に凍ってしまう。」


 と、イリスと信長は比較的冷静に観察していた。 


「じゃあ、どうすればいいのよ!」


「結衣よ。【火球ファイヤーボール】で氷を溶かすんだ。」


「はッ? そんなことして、女の子が怪我したらどうするのよ!」


「そんなこと言っている場合ではない。早くやらなければ、この女子おなごが完全に凍ってしまうぞ。」


「無理だよ! 怖いもん! 傷つけたくないもん!」


「いいからはやく――」


 信長と結衣の口論がまだまだ続くのではないかと思っていたその時だった。


「早く、たすけて。」


 女の子はその言葉を最後に、完全に凍ってしまった。


「あ。」


「あァ。」


「あ。」



 3人の間に、ほんの一瞬だけ沈黙が訪れる。


「あああああああ!! だから、早く【火球ファイヤーボール】を打てって言ったのだ!!」


「ああああああもう! 分かったよ!!」


 結衣は急いで魔力を放出する。


「【蓄積チャージ】」


 結衣が詠唱を行うと、手のひらにテニスボールくらいの大きさの【火球ファイヤーボール】が作られる。


「【発射ショット】!」


 そう唱えた瞬間、手のひらの【火球ファイヤーボール】がゆっくりと氷にぶつかる。

 そして、小さなめの爆発を起こした。


 この実験により作られた氷とは『凝固点』を強制的に高くするとこで作られた氷。

 『凝固点』は室温と同じになっている。

 なのであれば、急激に室温を上げることによって氷は簡単に溶ける。


 結衣の作った【火球ファイヤーボール】による爆発が、室温を僅かに高くした。

 そして、女の子を捕らえている氷の温度はその『凝固点』を突破した。

 それにより、女の子の氷が少しずつ溶けていった。


「あ……あ……」


 女の子は震えていた。

 そして、女の子の体が膝から崩れ落ちていった。

 その体を信長が支えた。


「お、おい、大丈夫か?」


 信長がそう尋ねる。

 すると、女の子の目から大量の涙が溢れた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁァァァんんんんん!!! 怖かったよォぉぉぉぉ!!」


 女の子は大号泣をした。


「え、ちょ。お主。」


 ついでに、女の子の鼻水が信長の制服に垂れる。


「え、えぇ。」


「あの子、モノカっていう名前の子よねェ。」


 結衣とイリスはその様子に少し引いている。


「あなたは……私の命の……恩人ですゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!」


 さらに鼻水が発射。


「いや我ではなく、あの女子おなごに......。」


 と、信長が言うと結衣の方を指さした。


「いや、気づいたのは信長でしょ?」


 と、結衣は言うとイリスと共に教室を出ていってしまった。


「信長という名前なのですね!! これからは、信長様と呼ばせてもらいますゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


 さらに鼻水が発射。


「だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ! 誰か、助けてくれェェエェエェェェェェェェェエェエエェェェェェェェェェ!!」


 結衣たちが次に信長を見かけた時、それはそれは酷い姿だったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る