第11話 この学園のことは正直、踏み台としか思ってないです。

「では今日は魔法の起源について学ぼう。魔法の始まりは人類最初の勇者であるリエルという人物から始まっている。」


 今日の授業は魔法の始まりについてだった。

 そのことについても当然知っている。

 なので必要のない知識だ。


「それにしても、今日も信長はいないんだね。」


「そうみたいだねェ。」


 今日も信長は授業に出ていない。

 というか、学園での生活が始まってから、信長が1日中出席していた日は未だにない。


「はぁ。」


 結衣は深いため息をついた。

 やがて授業は終わり、昼食の時間となった。

 その昼食の時間に信長はやって来た。


「やぁ、チミ達。」


 変な挨拶と一緒に信長は教室の扉から入ってきた。


「あっ、今日は普通に入ってきた。」


 結衣は今日も変な登場をするのではないかと、少し期待している部分があった。


「だってお主に壊されたからな、アレ(前回のお話参照)。」


 信長は未だに根に持っているようだった。


「そんなことよりも! 今日は大事な話がある。」


 と、信長が腕を曲げてガッツポーズみたいな体制になると、結衣とイリスに向けて思いっきり叫んだ。


「なに?」


 正直、信長の行動が恥ずかしいので静かにしてほしいと思いながらも、構ってあげないともっと面倒臭いことになると思った結衣は、いやいや信長に返事をしてあげた。


「我は今日。料理というスキルをみにつけた。」


「料理ィ?」


 唐突な料理の話題にイリスが反応を示した。


「どうしたのだイリス。お主も料理に興味でもあるのか?」


「私、料理得意なんだよねェ。」


「そうなのか。では放課後。ともに料理をしてみるか?」


「そうしましょうかァ。」


 謎に気合いが入ってる2人の様子を見て、結衣は呆れてしまった。


 そして放課後になった。

 結衣は料理に興味がないため行く予定はなかったが、イリスに無理やり着いて行かされた。


 ターボン学園には生徒用の調理室がある。

 イメージとしては家庭科室のようなものに近い。

 そんな調理室に3人は入った。

 それと同時に、信長とイリスの料理対決の火蓋が切って降ろされた。


「悪いなイリスよ。」

 

 と、信長は言う。

 次の瞬間、なぜか信長は麦わら帽子を被っていた。


「料理王に我はなる!」


「早く初めて!」


 信長の悪ふざけモードを断ち切るかのように、結衣は冷たい表情で呟いた。


「いいだろう。」


 なぜか自信満々な信長。

 そして、どこかお昼の時間に流れていそうな音楽が調理室に響いた。


『織田信長の3分クッキング♪』


 今回用意するのは、コチラ!

  ・ひき肉デス!

  ・玉ねぎ

  ・パン粉

  ・牛乳

  ・卵

  ・食塩

  ・胡椒


 まずは玉ねぎをみじん切りにしてフライパンで炒める。

 ひき肉デス! に必要な材料を入れて、形を整えよう。

 あとは、適当に焼くだけ。

 こうして『信長流簡単ハンバーグ』は完成したのだった。


「おあがりよ!」


 と信長は叫ぶと、ドンッ! とハンバーグの乗った皿を2人の目の前に置いた。


「ヘェ、なかなかやるじゃないィ。でも私は負けないわよォ。」


 イリスはそう言うと、またもや調理室に聞き馴染みのある曲が流れた。

 

『イリスの3分クッキング♪』

 

 今回用意するのはコチラ!

  ・水

  ・ケチャップ

  ・ウスターソース

  ・醤油

  ・砂糖

  ・バター


 鍋に材料を全て入れて混ぜるわよォ。

 そして最後に秘密の粉を混ぜたら、『イリス特製ハンバーグソース』の出来上がりだわァ。


「この店に価値がないかどうかはァ、この皿1枚でわかるさァ。」


 こうして結衣の目の前に2つの料理が完成した。

 信長がハンバーグを作り、イリスがそのハンバーグのソースを作るという結果になったが。


 どちらの料理がうまいのかを争うために始めた対決だが、いつの間にか2人で協力し、1つの料理を作るという結果になってしまった。


 だからこそ、この料理対決に勝敗はない。

 なのであれば最後にハンバーグで大切なモノを作るべきだ。

 もちろん、それを作るのは信長でもイリスでもない。


「では結衣。お主にはハンバーグに添えるポテトを作ってほしい。」


 と、信長は結衣に伝えた。

 だが、結衣は顔を横に振る。


「無理無理! 私、作り方知らないよ!」


「私が教えるからさァ。作ってよォ。」


 やや強引に、結衣はポテトを作り出した。


――1時間後。


「で、できたよ。」


 結衣はできあがったポテトを2人に見せた。

 だが、


「あァ、えっとォ、これェ、はァ。」


「な、なによ。」


「そのォ、なんというかァ、おいしそーなぽてとだねェ。」


「メッチャ棒読みなんですけど。」


「安心してェ、私はいつも棒読みみたいな感じだからァ。」


 結衣の作ったポテト。

 それはイリスにレシピを教えてもらい、その通りに作ったはずのポテト。

 冷凍食品だったため、比較的簡単に作れるはずのポテト。

 だが信長たちの前にあるのは、おはぎのように焦げてしまったポテト。

 とても不味そうだ。


 イリスはなんとか誤魔化そうと思ったが、信長は何も考えず、自分の思ったことをありのままに話した。


「……お主、料理できないんだな。」


「なっ……!?」


 結衣の体がビクッと揺れた。


「あっ、いや料理が出来ないことを悪いと言っているわけではない。ただ、我の生きていた世界では料理を作るのは女子おなごが多かったから少し驚いただけだ。」


 結衣は信長の言葉を黙って聞いている。


「ただ、冷静に考えてみたらそうだよな。全ての人が料理ができると決めつけてはいけない。料理のできる男子おのこは普通にいたが、逆に料理のできない女子おなごを見たのは初めてだったから驚いたぞ。ただ、時代は変わったんだよな。今は、男子おのこ女子おなごが協力して料理をする時代。我は大事なことに気がつけた。ありがとな、結衣。」


 と、信長はフォローしてそうで、微妙にフォローしきれていない発言をした。

 当然、料理ができないことを気にしていた結衣は怒りだす。


「のーぶーなーがー!!」


 結衣は無意識のうちに魔力を放出していた。

 そして【蓄積チャージ】の詠唱を誰にも聞こえないほどの声で行う。

 いや、もはや言っていなかったかもしれない。


 結衣の体のまわりに、大きさも威力も小さい【雷球サンダーボール】が作られていった。


「許さない!」


「なんでぇおぇぇぁぇげぇぇねぇぇとげぇぇぇ!!」


 その時、調理室に落雷のような音が響いたらしい。

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