第10話 親愛なる隣人、織田信長だ。

 信長たちがターボン学園に入学してから、初めての授業が始まった。

 ターボン学園に入学した1年が最初に習うのは異世界の基本知識。

 魔法とは何かや異世界の歴史について、大まかな外形を習うこととなっている。


「つまり君たちが魔法を使用するには、その分の魔力というものが必要なのだ。」


 先生は一生懸命教える。

 だが、その先生の話を聞いている人はいるのだろうか?

 そもそも、ターボン学園に入学したほとんどの人が異世界での基本的システムを熟知している。

 いや、熟知していなければ高い競争率を勝ち抜くことは出来ない。


 魔法を使うのに魔力が必要なのは誰でも知っていた。

 そのため授業はつまらない。

 だから信長は授業初日にして、出席をしていない。


「え、もしかしてだけど、信長っていきなりサボり?」


「そうかもそれないねェ。」


 と、結衣とイリスは先生に聞こえないほどの小声で話した。


――キーンコーンカーンコーン


 授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。

 そして、そのチャイムと同時に教室の窓を何者かが突然開けた。


「結衣! イリス! 我は素晴らしいものを身につけたぞ!!」


 その正体は信長だった。


「なに、信長。」


 教室にいる全ての人へ聞こえるように自分の名前が呼ばれたことに、少し憤りと恥ずかしさを感じながらも結衣はそう言った。


「だから、我は素晴らしいものを身につけたのだ!」


「うん、分かったから取りあえず見せてみなよ。その『素晴らしいもの』を。」


「……我は、もうそれを使ったぞ?」


「………………は?」


 結衣は信長が何を言っているのか理解できなかった。


「だって、ここは建物の5階。そんな高い場所に我がどうやって登ったと思っているのだ?」


「え、もしかしてだけど、この壁を登ったわけ!?」


「そうでもしなければ、我は窓から入れないだろ?」


 確かにそれは当たり前だ。

 では、信長は具体的にどうやって?


「我は、先日……。ス〇イダーマンという映画を見てきたんだ。」


「……ッ!?」


「その映画を見て、我も糸を使ってアクロバティックに移動したいと思っていたのだ。そこで、我は手首から蜘蛛の糸を吐き出すことのできる装置をつくりあげた。そして我は今日。その装置を完全に制御することが可能となった!!」


「信長……。それ以上は……。」


「さぁ! 結衣も一緒にス〇イダーマンになるとしよう!!」


「だから、信長。……それ以上は、私たちには到底叶うことのできない、怖い大人たちが私たちを潰しに来てしまう可能性が……!?」


「なんだ、アイ〇ンマンの方が良かったか? 手からブシャーってビームを出したかったのか? それとも、ものすごく体を小さくする装置のほうがよいか?」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! この話は、終わり!!」


 放課後、結衣は信長と一緒に寮の近くまで帰っていた。

 その間も信長は糸を扱う練習をしている。

 そのため糸を吐き出す装置から、信長が目を離すことはなかった。


「これでも、だいぶうまくなったのだぞ! 最初は、転んでばっかだったからな!!」


「……。」


「今は壁を登ることが精一杯だけど、いつか大きく移動ができるようにしたいのだ! A〇EXのパス〇ァインダーみたいにな! いや、進〇の巨人の立体〇動装置でもよいかもしれない。」


「……、信長。」


「なんだ?」


 信長は結衣に名前を呼ばれたため、糸を吐き出す装置から目を離し、結衣の方を見た。

 結衣はその一瞬を逃さなかった。


 結衣は信長に聞こえないほどの大きさで、【蓄積チャージ】の詠唱を行っていた。

 そして、手元に【火球ファイヤーボール】を作り出していた。


「【発射ショット】」


 結衣の手から放たれた【火球ファイヤーボール】は信長の手首へ向かっていく。

 そして糸を吐き出す装置に激突すると、その装置は小さな爆発を起こした。


「……え、」


「はい、これで終わり。」


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 我の画期的な装置がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「だって、色々と危ないからね。」


 結衣はこの作品を守ることに成功した。

 だが、しばらく(1日くらい)信長はショックを隠しきれなかったと言われている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る