第7話 欲望に身を任せると自分自身を破壊するんだぞ。

 結衣は魔術結社スカリーンの本部に帰ってきた。


「ただいま、信長。私、合格し......」


 しかし、本部に信長の姿はなかった。


「あれ? 信長は?」


「まだ、戻られていませんよ。」


「そっか。」


 結衣は少し信長を心配したが、きっと大丈夫だろうと思っていた。

 しかし、信長は次の日になっても帰ってこなかった。

 スカリーンの人たちは何やら慌てている様子。

 本格的な信長探しが始まっていた。


「私も手伝おうか?」


「その必要はありません。」


 結衣はその返答に頬を膨らませムッとする。


「いや、私も探す!」


 そう言って、結衣はスカリーン本部を飛び出した。




――――――――――




 魔術結社スカリーン本部のすぐ近くにある村、トスギ村。

 そのトスギ村では最近、女性の下着が盗まれるという事件が発生していた。

 しかも、進行形で履いている下着を、だ。


「相当な変態がいるのだな。」


 そんなトスギ村に、"尾張の大うつけ"織田信長は訪れていた。


「なので最近は、女性が外に出るということが少なくなってしまったのですよ。」


「それは大変な話だな。なんとか解決できればよいのだが。」


 信長は村の人にトスギ村を案内してもらっていた。


「というわけで、この村はこんな感じになっております。」


「みな、楽しそうに暮らしておるのだな。」


「はい。その下着の盗難事件さえなければなんですけどね。」


 我、そういう厄介事に関わるの嫌だし、さっさとこの村からでるとするか。

 と、心の中で思っていた信長は案内をしてくれた村の人に別れを告げ、村の出口へと向かった。


「これでこの辺りの村は全部巡れたな。文化は違えど、どの世界でも村人や町人と交流をすることは楽しいということが分かっただけで、我は十分だろう。」


 そう言いながら信長は村を出ようとした。

 その時だった。


「キャァァァ!!」


 女の悲鳴が信長の耳に入った。

 しかし、口を塞がれているさしく、信長以外の人は今の悲鳴に気づいている様子がない。


「はぁ。やれやれ。我、自らが確認してみるとしよう。」


 信長は悲鳴のした方へと向かった。

 悲鳴のした場所は村の端。

 人通りが全くなく、薄暗い場所だった。

 

「黙れ! 黙らないと貴様の下着を盗んだ後に貴様を殺すぞ。」

「ッッッッ!!」


 20歳くらいの女の子が複数人の男に取り押さえられていた。

 いつもなら1発で下着を盗めていたのだが、たまたま勘のいい人だったらしく、叫ばれそうになったため、取り押さえていた。


「嫌だ、嫌だ! 嫌だ!!」


「黙れ! 本当に殺すぞ!!」


 女の子にナイフを向ける男。

 そのナイフに女の子が恐怖している間に、他の男が女の子の下着を盗んでしまう。


「さぁ、これで終わりだ。」


 ナイフが勢いよく振り下ろされそうになった。

 だが、そのナイフを持つ男の腕を何者かが掴んだ。


「お主が噂の変態か。」


 腕を掴んだのは信長だった。


「なんだ貴様! 生憎、俺たちは男に興味がないんでな。」


「我も、変態に興味なぞないぞ。」


「テメェ、殺されたいのか。」


「え、我、殺されるのか!?」


「あぁ、その通りだ。俺たちの邪魔したからな。」


 男がそう言うと、信長はとっさに腕を放した。

 そして全力で頭を下げた。


「それは、申し訳なかった! 殺されたくはないから、我は見なかったことにして、さっさとここからいなくなろう! では、どうぞごゆっくり!!」


 と、信長は言うと一目散にその場から逃げた。


「なんだ、アイツ。まぁ、いいや、さっさと続きを......」


 男が女の子の方を向いた時。

 女の子は既にその場にいなかった。


「アイツゥゥゥ! お前ら、すぐに追いかけるぞ!!」




―――――――――




 信長は女の子の手を掴み、村の牧畜エリアを走っていた。


「ハァ、ハァ、」


「おい、大丈夫か? 女子おなごよ。」


「ちょっと、疲れちゃったかも。」


「そうか。」


 すでに辺りは暗くなり始めていた。

 信長は近くに馬小屋あることを確認すると、その馬小屋に女の子を案内した。


女子おなごよ、馬小屋は平気か?」


「大丈夫だと思う。」


「では、今晩はここで寝ることにしよう。それで明日誰かに助けを呼ぶ。それでいいか?」


「うん」


 馬小屋に入ると、女の子はすぐに信長を枕にし寝てしまった。

 そして1日ほどが経過し、女の子との馬小屋生活2日目を始めようとしていた時だった。

 馬小屋の扉を誰かが叩いた。

 その誰かとは先程の変態集団。

 女の子がその音で眠りから冷めることはなかった。

 恐らく、恐怖などから相当疲れてしまったのだろう。

 仕方なく、信長だけが変態集団の前に現れた。


「おい、テメェ、あの女をどうした。」


「お主たちがなぜあの女子おなごを標的にし、狙うのかは分からないが、あの女子おなごなら既に自分の家に帰っていったぞ。」


「そうか、ならまずはテメェから殺す。」


「え、なんでだよ!!」


「まず1つはあの女を逃がしたから。そして、テメェが他人に言いふらす可能性があるからだ!!」


 変態集団のリーダーのような男はナイフを振り下ろす。

 信長はそのナイフを寸前で避けた。


「危ないだろ! 我を殺す気か!!」


「あぁ、殺す気だ!」


「そんな危ないことをするな!!」


 信長は変態集団に追われながら、逃げ回った。


「誰か、誰か助けてくれよォォォォォォ!!」


 夜遅くに、牧畜エリアにいる人はいない。

 そのため、助けを呼んだところで誰かがやって来ることはなかった。


 信長は村から抜け出し、村の近くの森へと駆け込んだ。

 そして、木の影に隠れその場をやり過ごそうとした。

 しかし、


「ブルフォォォォ」


 人間ではない何かの声が信長へ向けられた。

 信長は恐る恐るその方向を向く。

 そこには、1匹の狼がいた。


「あっ、あっ、あっ、」


 狼に睨まれる信長。


「でゅりゅわなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 変な叫び声を出す信長。

 その声に気がついた変態集団も信長の位置を見つけ出し、追いかけてきた。


「変態って、男も狙うものなのか!?」


「そんなわけないだろ!! 俺達も好き好んでテメェを追いかけてねぇよ!!」


「なら、そこの狼でも追いかけておけよ!!」


 などと、叫び会いながら森の中をひたすら走る信長。

 信長の体力は限界を迎えようとしていた。


「だまぁぁぁぁ! もう、終わりだァァァァ!!」

 

 信長は今までに出したことのない高音を森へ響かせた。

 次の瞬間、狼の牙と変態集団の男のナイフが同時に信長を攻撃しようとしている影が信長の視線に入った。


 あ、我。死ぬ。

 そう思った時。

 その影は、何故か不自然にその場で地面へ落ちていった。


「ハァ、間に合って良かった。」


「ゆ、結衣!!」


「信長が死んだら、私が学園に行く意味ないでしょ。だから勝手に死なないでよね。」


「お主は本当に、命の恩人だ!」


 結衣は残りの変態集団へ向けて人差し指を向ける。


「【蓄積チャージ】」


 そして指先に【水球ウォーターボール】を3つ作る。


「【発射ショット】!」


 作られた3つの【水球ウォーターボール】は変態集団たちの頬をかすめて通り過ぎた。

 目に見えない速さで。


「「……。」」


 変態集団たちはお互いに目を合わせる。

 そして、一気にその場から逃げ出した。

 だが変態集団たちの逃げた先には、信長の叫び声に気が付き外へとやって来た村の人々がいた。


「アイツら、噂の変態集団か!? 今すぐに捕まえろ!!」


 これにて一件落着となった。


「本当に、結衣。助かったぞ。」


「信長。」


「なんだ? 命の恩人。」


「試験受かったよ! これで一緒に学園に行けるね!!」


「おぉ! そうなのか!! それは、良かった!!」


「じゃぁ、信長。これからよろしくね。」


「こちらこそ、よろしく頼むぞ! 結衣!!」


 "尾張の大うつけ"織田信長。

 "全属性の初級魔法ボールを操る者"田中結衣。

 この2人のゼロから始まる異世界生活が始まろうとしていた。

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