第5話 試験の当日に寝坊しそうになるの、もしかして僕だけですか。

「おい、結衣。起きるのだ。」


「まだぁ、寝てたい〜。」


「それはできんぞ。今日は試験の日じゃなかったのか?」


「......あ。」


 ぐっすり寝ていた結衣は信長に起こされた。


「なんでそういうの早く言ってくれなかったの!!」


「我は1時間前から言っておったぞ。」


「ちょ、早く起こしてよ!!」


「だから、起こしておったぞ。」


 信長の言葉を半分無視しながら、結衣は慌てて準備を始める。


「忘れ物しないようにな。」


「受験票さえあればなんとかなるから!! それよりも試験開始まであと何分?」


「30分だ。」


「マジ!?」


「大マジ。元気ピンピンだよ。」


 信長は最近知った某呪い系漫画のセリフを呟いてみたが、結衣に睨まれたのですぐに謝った。


 信長達のいるスカリーン本部から、ターボン学園までは6時間ほどかかる。

 魔法を使えば大丈夫だと思っていた結衣は本当にギリギリまで寝ていた。

 結衣は適当に寝癖を直すと急いで外へ出た。


「じゃ信長、行ってくるね!」


「頑張るのだぞ。」


「りょーかい!!」


 そう言うと結衣は詠唱をする。


「【蓄積チャージ】」


 すると足元に風の球が作られた。


「【発射ショット】!!」


 結衣がそう言うと、足元の風の球が勢いよく強風を作り出す。

 その強風に乗って結衣は一気に飛んで行った。

 本来6時間かかる道を、20分ほどで到着する。


「やべ、髪の毛崩れちゃったかも。」


「き、君は何者だ!!」


 ターボン学園の正門では2人の騎士が受験票を確認していたが、唐突に莫大な強風とともに1人の少女が下りてきたため、敵襲なのではないかと身構えた。


「あ、私は受験生だよ。はい、これ受験票。」


「た、確かにそのようだな。よし、通っていいぞ。」


「はーい。」


 結衣は、無事に間に合った。


「それにしても人多いな。」


 ターボン学園には全世界から多くの受験生が訪れる。

 世界的にも人気な学園ということがわかる。

 多分、倍率もすごいことになっていると思う。


「確か試験の内容って実技試験と筆記試験だったよね。ただ実技試験の方が配点が高いんだっけ?」


 結衣はそう呟きながら、試験会場と書かれている場所へ向かった。


「これより本試験の説明を行う。」


 試験の説明が始まった。

 受験生は全員同じ部屋に集められ、ターボン学園の先生による説明を受ける。


「本試験は実技試験と筆記試験の2つを行う。実技試験では魔力総量の測定と魔法威力の測定をする。筆記試験では、基礎知識を確認させてもらう。」


 その他、注意事項などの確認を行い、ついに試験会場への案内が開始された。


「はぁ。」


 結衣は深呼吸をした。

 すると、


「あら君ィ。緊張してるのォ?」


「え、えっと......」


 結衣は突然、女の人に話しかけられた。

 すごくお金持ちそうなオーラがある。しかも巨乳。

 女の子の胸の大きさマスターの結衣から見ると、この女の人の推定カップ数はF。

 ちなみに結衣はAAカップである。

 異世界に来る前は、ブラ選びに苦戦していた。

 つまり、普通に羨ましい。


「あらァ、突然声をかけてしまってゴメンなさいねェ。私の名前はイリス。よろしくねェ。」


「わ、私は田中結衣っていいます。」


「そうなのォ、よろしくね結衣ィ。」


「あ、はい。」


 そのまま結衣とイリスは試験会場へ向かった。


「ところでさァ、結衣はなんでここを受けるのォ?」


「まぁ、色々とあってね。」


「へェ、ワケありって感じィ? まぁ、そういうの嫌いじゃないよォ。」


「そんなイリスはなんで?」


「うーん、運命の人がここにいるって感じがしたからかなァ。」


「運命の......人。」


「まァ、お互い頑張りましょって感じでェ。」


「あっ、はい!」


 イリスはそう言うと人混みの中へ消えていった。


「不思議な人だったな。あと、少し胸を分けてほしい。」


 結衣はそう呟いた。

 試験会場へ到着すると既に試験は開始していた。


 まず最初の試験は魔力総量と魔法威力の測定。

 魔力測定用の人形に、自分の得意な魔法を使い、全力でぶつける。

 そのため、会場のあちらこちらで爆発音が発生している。


 結衣もそんな試験の列に並んだ。

 すると丁度、先程会ったのイリスが試験を受けようとしているのが見えた。


「あの人形って壊してしまってもいいのォ?」


「はい、壊せたらですが。」


「分かったわァ。」


 イリスは返事をすると、魔力を一気に放出させた。

 すると、その放出させた全ての魔力が電撃へと変化する。


「いっくよォ〜!」


 そして、その電撃が一気に人形へと向かう。

 四方八方からの電撃によって攻撃された人形は大爆発を起こした。

 それと同時に、人形が腰から折れてしまった。


「う、そ、でしょ。本当に壊したの?」


「まぁねェ。」


 学園の先生が慌てているのを感じとれた。

 他の受験生の様子を見る感じ、あの人形を壊すというのは、とてもすごいことらしい。

 結衣はそんなイリスを羨ましがった。あと、その胸よこせと思った。

 やがて、結衣の番になる。


「では、いきます!! 【放出リリース】」


 結衣は一気に魔力を放出させる。しかも、自然な流れで魔力を放出させるのではなく、しっかりと詠唱を行った魔力の放出だ。

 これにより、結衣から放出される魔力は、通常の倍以上の量になった。

 そして結衣は右手を鉄砲の形にし、人差し指を人形へ向けた。


「【蓄積チャージ】!」


 詠唱をすると人差し指に魔力が溜まりその魔力が【水球ウォーターボール】へとなる。

 そして、その【水球ウォーターボール】の密度を濃くする。


 更に、もう1つ。

 【水球ウォーターボール】の後ろに【火球ファイヤーボール】を作る。【水球ウォーターボール】よりも少し大きめの【火球ファイヤーボール】を。

 莫大な量の魔力の放出により、結衣の周辺には大きな衝撃波が巻き起こる。


「【発射ショット】!!」


 結衣のその詠唱と共に【火球ファイヤーボール】が爆発。

 その爆発の勢いに乗り【水球ウォーターボール】が人形へと大きく打ち出される。

 そして【水球ウォーターボール】も発射され、速度が上乗せされた。


「更にダメ押しの【蓄積チャージ】!!」


 この詠唱では、【風球ウィンドボール】が作り出される。


「【発射ショット】!!」


 その【風球ウィンドボール】は【水球ウォーターボール】を巻き込み、更に速度を上げ、打ち出される。


――轟ッ!!

 という音が会場全体に響き渡った。


「なっ......」


 学園の先生たちは、またもや慌てることとなる。

 結衣の放ったボールたちは人形の腹部を大きく貫いていた。

 すると学園の先生の1人が結衣の所へ走ってくる。


「た、田中結衣さん。別室への移動をお願いします。」


「は、はい。」


 あれ? マズイことしたかな?

 と、思いつつ結衣は先生の後ろをついて行った。

 気分は俺TUEE系の主人公になった気分だった。

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