第4話 楽しい青春を謳歌したい今日この頃。

 信長たちは、洞窟から少し離れた場所にある豪華な建物に案内された。

 信長は西洋風のその建物に強く興味を示した。


「ここは?」


「我々、魔術結社スカリーンの本部でございます。」


 信長はそれを聞くと、隣で歩いていた結衣に問いかけた。


「ま、魔術結社ってなんだ?」


「魔術結社ってのは、魔法を科学的に誰でも使えるようにしようとする研究をしている団体って表向きには言われてる。でも、本当は魔法による怪しい研究をしているところだよ。正直、私はここ嫌い。そもそも、私を勝手に召喚して、勝手に捨てたのも魔術結社だしね。」


「ま、マジですか!?!?!?」


「大マジ。」


 信長は少し不安になりながら、その魔術結社スカリーンの本部の中に入った。

 中に入るとすぐに結衣が止められてしまう。


「待て。その女子おなごは我の連れだ。一緒に入れてやってくれないか?」


「そうでございましたか。これは失礼を。」


 結衣はあまり歓迎されていないみたいだな、と信長は魔術結社の者たちの反応を見つつ立ち回り方を考えた。

 そしてしばらく歩いていると、信長たちは豪華な椅子などが並んでいる会議室のような場所へ案内された。


「すごい建物だ。我のいた世界にはなかった。」


 と、呟く信長。

 ここで舐められてしまえば、大変なことになると思った信長は、真面目な表情と真面目な声のトーンで魔術結社の者たちと向き合った。


「ほう。すでにここが異世界ということを理解しているのですね。」


 魔術結社の者の1人がそのように言った。


「完全に理解できているわけではない。だが、ある程度の基礎はこの女子おなごから教えてもらった。」


「では、話が早い。私たちはあなたに協力して欲しいことがあり、呼び出しまたした。」


「ほう、協力して欲しいこと。」


 我に何が出来るのだ? と、思いながら聞いていた。

 

「私たちの研究ではこの先、数年から数十年後の間に大きな災害が起こるという未来を導き出しています。ですので、あなたにはその大災害を止めていただきたい。」


「断ると言ったら?」


 その問いにスカリーンの人は何も迷わず答えた。


「あなたの住んでいた世界と、この世界は仕組みからことわりまで、何もかもが違う。もし、このまま協力してもらえると言うのであれば、我々はあなたを全力でサポートする。しかし、それが出来ないのであれば、あなたは右も左も分からないこの地獄に1人だけ放り出されることになる。それでも、いいんですか?」


「馬鹿にするな。右と左くらい我でもわかる。」


 信長、この人が言いたいのはそういうことじゃないと思うよ、と結衣は小声で信長に伝えた。

 それに対して信長も、分かっておるわ! と返事した。

 改めて、信長は咳ばらいをすると、魔術結社に向き合った。


「随分と、上から目線なのだな。では聞こう。我は具体的に何をすればいい?」


「まずは、ターボン学園に行き、この世界の基本を学んでもらいたい。」


 信長としては悩む必要すらなかった。

 だって、協力しないと結衣みたいに捨てられちゃうかもしれないだもん。


「そうか、ならその話に乗っかろう。だが、ある程度は我の好きなようにさせてもらうぞ。」


「それは結構です。しっかりと学園で学びさえしてもらえれば大丈夫です。」


「わかった。それともう1つ条件がある。」


「なんですか?」


「この女子おなご、結衣も共に学園へ行く。無理なら、我は行かない。」


 突然の言葉に魔術結社の者たちと結衣が驚く。


「ちょ、ちょっと。信長!」


「まあ、待て。」


 信長としても1人で異世界を生き抜く自信はない。

 それがたとえ学園内での生活になったとしても。

 だとしたら、少しでも知り合いが多い方がよい。


 魔術結社の者たちは信長に聞こえないような声で話し合った。

 協議の結果、出した答えは……


「いいでしょう。しかし、推薦での入学は出来ませんので、試験を受けていただく必要があります。」


 信長は結衣にそれでも良いか聞く。


「そもそも、私はターボン学園に行くと言っていないんですけど。」


「そ、そうか。それなら......。」


 結衣の返事を聞いた信長は別の案を考えようとした。

 しかし。


「ただ、一緒に行ってもいいよ。」


「ホントか!!」


 結衣は、魔術結社の者たちに向けて言う。


「その入学試験、受けさせてもらうわ。だから試験の手続きをお願い。」


「かしこまりました。」




――――――――――




 信長と結衣は一旦別れた。

 信長はこの周辺の町や村を見るために。結衣は試験の準備をするために。

 試験は3日後。それまでに準備を整える必要がある。


 なので結衣はとある場所へ訪れていた。

 その場所は怪しいオーラを発している、山のふもとの少し大きめの穴だ。

 その穴の奥に古い木の扉がある。

 結衣はその木の扉を開け、中に入る。


「あら、久しぶりじゃな。」


 中にいたのはデカい帽子を深く被り、薄汚れたマントを巻いている婆さん。


「久しぶりです、アーシさん。」


 アーシと呼ばれるその婆さんは、かなり古い魔法書と呼ばれる本を読んでいた。

 アーシとは、この世界に15人しか存在しないとされている極限まで魔法を極めた『終極魔法』を扱うことができる魔法使いの1人だ。

 現在はこの場所で、世界中の魔法書を集め、複製し、保存をするという作業を行っている。


「それで極点に何か用かい?」


 『終極魔法』を扱うことができる魔法使いは『極点』と呼ばれている。

 アーシ自身も『極点』と呼ばれることを誇りに思っているので、自分のことを『極点』と呼んでいる。


「3日後にターボン学園の試験を受けることになったんです。それで、その試験に合格するために私に何が必要か知りたいんです。」


「何を言っておる。お前はそのままで十分じゃよ。なんせ、【火球ファイヤーボール】から【影球シャドウボール】までといった全ての属性の初級魔法を使えるじゃないか。だから、お前はそのままで十分じゃ。」


「な、なんでそんなこと言うんですか!?」


「いや、割とマジで。」


「ホントに?」


「うむ。まぁ、不安というのであれば……」


 アーシはそう言うと、魔法で椅子を生成して自分の目の前に置いた。


「ほれ、ここに座るとよい。」


「は、はい。」


 結衣とアーシは向かい合った。


「お前に、私の魔力を分けてやろう。」


「え? いいんですか!?」


「あぁ、よいぞ。だって、私には無限の魔力があるからな。」


 そう言うと、アーシは結衣の肩に触れた。

 ただそれだけだった。


「はい、これで終わりじゃ。」


「ホントに分けました?」


「分けましたとも。って、おい! 私の魔力を持っていきすぎじゃ!!」


「私、何もしてないんですけど。」


 魔力とは魔法を使用するために必要なエネルギー。

 一般人にはこの魔力がない。

 そのため、全ての人が魔法を使えるわけではない。


「さて。これでお前の合格は確実だな。安心するといい。」


「ま、まぁ。アーシさんが言うならそうなのかもしれないけど。」


「しかし、これまた突然だな。何があったんじゃ?」


「いや、新しい仕事みたいなものです。」


「なるほど。まぁ、消えていった青春を今からでも取り戻してくるといい。」


「はい!」


 結衣は高校生くらいの年齢で、信長と同様に召喚され、この世界にやってきた。

 本来楽しむはずだった青春は、結衣にはなかった。

 だからこそ、この試験に合格して自分の望む青春を楽しもうと思っていた。


「それではアーシさん。また会いましょう。」


「ほう、いつかどこかでな。」


 アーシは出ていく結衣の後ろ姿を見送った。


「私も、もう一度青春をしたいものだな。」


 その頃、信長は......。


「おぉ、我の顔。なんか若くなってないか!?」


 信長は自室に設置されていた鏡に顔を写していた。

 どうやら異世界に召喚される際に、年齢が若返ったらしい。

 今の信長の年齢は20歳くらいだろう。

 そんな自身の姿を見た信長は、舞い上がっていたそう。

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