第3話 魔法って使えたら便利そうなのになァ。
そろそろこの洞窟ともサヨナラだ、と信長は心の中で呟く。
新たな土地、新たな環境、それは自分自身を更に強く成長させるための、そして新たな自分を作るための絶好の機会だ。
つまり、新たなスタートとして気持ちを切り替え、今までの自分を捨てることで、よりよい自分を形成することが出来る。
しかし、その過程で1つだけ大事なことがある。
それはスタートダッシュだ。
どんなに気持ちが強くても、どんなにやる気があっても、スタートダッシュを失敗してしまえば、頑張ろうだなんて到底思えない。
だからこそ何事もスタートダッシュが肝心なのだ。
そんな信長のスタートダッシュはどうなのかというと、得体の知らないものに襲われ、そして女の子に救ってもらった。
1人の武士として、とても恥をかくようなスタートダッシュとなった。
当然、そんなスタートダッシュを迎えた信長が、このまま何事もなく洞窟を抜けられるわけがなかった。
「何かが目の前にいるな。」
気配を感じた信長は結衣に貰った光の球をそっと目の前へ向ける。
すると、赤黒い目をこちらに向け、今にも襲いかかってきそうな雰囲気の、信長よりも数倍大きい蜘蛛が目の前にいた。
あまりにも恐ろしい見た目をしていたため、信長は一瞬意識を失いかけた。
だが、それよりも命の危機を知らせる本能が、勢いよく信長を叩き起した。
「逃げなくてはな。」
信長は冷静を装いながらそう言うと、回れ右。
そして、一目散に逃げた。
「なんだよアレェェェェェェェェェ!!」
信長の弱々しい声が洞窟の中に再び響いた。
「なんなの!? 異世界ってあんな化け物がいっぱいいるの!? だったらもう帰りたい!! 帰りたいよォォォォォォォォ!!」
逃げ出した信長を巨大な蜘蛛は追いかけてくる。
「キモイ!! キモすぎ!! 無理無理、無理だから!! 我、死ぬゥゥゥゥゥゥゥ!」
そうだ、先程まで一緒にいた
だから、探すんだ! 結衣を!
そんな信長のすぐ背後に、蜘蛛の足のうちの1本が迫った。
信長は寸前で避けたが、一気に顔色が悪くなる。
「だァァァァァァァァァァァァァァ!! やっぱ無理ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
信長の目からは大量の涙が溢れる。
――――――――――
『お前は何故、刀を抜かない。』
信長の父親である織田信秀の言葉を思い出した。
織田家の中で唯一、信長が弱いことを知っていた。
だからこそ信長は父親が嫌いだった。
しかし、それと同時に本当の自分を理解し、受け入れていくれているのは父親だけだと理解していたので、信長は父親が好きだった。
『お前は、刀を抜けないんじゃない。抜く勇気がないだけだ。人を殺すのが怖いか。なら、人を殺さなくてもいい世をお前が作ればいいじゃないか。お前には、頼もしい仲間がいるんだから。もっと、頭を使うんだ。お前は、頭がいいからな。』
――――――――――
信長は、逃げることをやめた。
そして、刀の柄を握る。
稽古などしてこなかった。
だが、ずっと親父の背中は見てきた。
今なら親父のようになれる。
「これが我の力だ。」
信長は勢いよく地面を蹴り出す。
そして蜘蛛に一気に近づく。
蜘蛛も同時に足で信長を攻撃する。
信長はその足と足の間を通り、そして蜘蛛の体の下をくぐり抜けた。
「ふぅ。よし、このまま逃げるぞ。」
うむうむ、我は決して戦う決心をした訳じゃないからな!
信長は半分開き直ったような状態で、洞窟の出口へ向かって走り出した。
蜘蛛もそんな信長を追いかけるが、その距離はかなり開いた。
勝った!
と、信長は勝ちを確信。
だったが、信長のすぐ背後に何かが迫ってきているのを感じた。
それは、蜘蛛の吐き出した糸だった。
信長はその糸を避けることができず、糸に引っかかり身動きが出来なくなってしまう。
「だァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
今度こそ終わり。
信長はそう思った。
蜘蛛がだんだんと近づいてくる。
そして、蜘蛛の気色の悪い顔が少しずつ信長に近づく。
「誰か、誰か、」
蜘蛛は口を開く。
「誰か、助けてくれエエエェェェェェエエエエァァァァァァァァァァァァッ!!」
その瞬間、蜘蛛の口のすぐ前。信長のすぐ目の前。
そこに1つの火の球が通り過ぎる。
その火の球は、洞窟の壁に衝突し、凄まじい爆発を起こした。
「え?」
信長は火の球が飛んできた方を向いた。
「そんなに叫んで疲れないの?」
「お、お主は!!」
「ま、おかげで信長がピンチってことが分かったし、今回の狙いのモンスターも見つけれたし。」
そこに立っていたのは、結衣だった。
「結衣! お主なら助けに来てくれると思っていたぞ!!」
「うん。あとは任せて。」
結衣は、信長の身動きを封じている糸を火の球で焼く。
「信長、ちゃんと私の後ろにいてよ。」
「わ、わかったぞ!」
結衣は、右手の拳を握りその状態から親指と人差し指を開き、鉄砲のような形にした。
そのまま、人差し指をモンスターへと向ける。
「【
結衣がそのように詠唱すると、徐々に人差し指の先に赤い球が出来上がっていく。
そして、その球が野球ボールほどの大きさにまで成長した時、結衣はもう一度詠唱をした。
「【
すると、赤い球が人差し指から放たれる。
放たれた球は、蜘蛛の顔を貫通し、そのまま死んでいった。
「ふぅ。」
その一部始終を見ていた信長は見たことのない現象に驚き、そして感動していた。
「なぁぁぁぁぁ! 凄いな、それ。どうやっだんだ?」
「あぁ、これが魔法だよ。」
「おっ!! 我にもできるかな?」
「さぁ? 修行すればできるんじゃないかな?」
「じゃあ我、頑張る!!」
「おん、頑張りな。」
そんな会話をする2人に何者かが近づいた。
「どうやら『召喚』に成功したようですね。」
信長はその声の方を向いた。
声の主は、全身を白い服でまとめていて、とても怪しい雰囲気をしていた。
信長はその怪しい者たちを見て、真剣な表情で向き合った。
「お主たちが我をここに呼んだのか?」
「はい、そうでございます。」
「いったい、何故?」
「その件については、一度ここを出てからにしましょう。」
信長たちは洞窟から出た。
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