第2話 運命的な出会いが僕にも欲しいぃぃぃぃ。

――我は、死んだのか。


 "第六天魔王"織田信長は、暗闇の中に倒れていた。


――何があったんだ。


 直前の記憶は薄らと残っている。

 ただ、その記憶が正しいのであれば、織田信長は火の中で死んだはずだ。


 だが、意識がある。

 手にゴツゴツしたものが当たっている感覚がある。

 つまり。


「我は生きているのか。」


 言葉も話すことが出来た。

 問題なく生きているということだ。


「ここは、どこなんだ。」


 重たい体を引きずり起こしながら、信長は呟いた。


「安土か? それとも、別の場所か?」


 様々な可能性を考えるが、信長の足りない脳では答えを導き出すことが出来なかった。


 それもそのはずだ。

 信長の視界に入ってくるのは全てが暗闇。

 ヒントどころか、自分がどのような場所にいるのかすら理解できない。


「これも、光秀の仕業なのか。」


 徐々に、先程まで自分が何をしていたのかを思い出していく信長。


「我は、光秀に勝てないと判断して火の中に飛び込んだはずだ。」


 なんで、火の中に飛び込んだんだ?

 まぁ、どうせ死ぬなら、カッコよく死にたいじゃん。

 と、自問自答をしながら時間を潰す信長。

 だが、その暗闇の時間に終わりはなかった。


 ただ、1つだけ分かったことがある。

 それは、信長以外にと誰かがこの空間にいるということだ。

 そして、その誰かが信長の手の上に乗っている。

 プニプニしている誰かが。まるで、その感触は女性の胸のようにも感じる。


――濃姫は元気だろうか。


 謎の感触を確かめながら、そのようなことを考えていた時だった。

 信長の手を何かが思いっきり噛み始めた。

 正体は、そのプニプニの誰か。


「イタタタタタタタタタタタタタタ!!」


 信長はとっさに手を振り、プニプニを払い落とした。

 だが、そんな信長をプニプニは追いかけた。


「ギヤヤヤアアアアァァァァァァァァ!! 助けてくれェェェェェェェェェ!! 誰かァァァァァァァァァァァァァ!!」


 信長の情けない声が、その場に響く。

 生前は数多の武将から恐れられていたはずの織田信長が。


 "第六天魔王"織田信長。

 彼のこの2つ名は、他の武将が勝手につけたもので合って、信長がつけたものではない。

 というのも、信長自身とても弱い。

 そのように自信を持って言える。じしんだけにね。

 戦いの稽古をしてこなかった信長は、戦うことが出来ないのだ。

 

 では、どのようして"第六天魔王"と恐れられるようになったのか。

 それは、織田家を継いだ信長は、どのように生き残るかを考えた時に、優秀な家臣に全てを任せるということにした。

 昔から、『うつけ』と馬鹿にされていた信長だったが、織田家の誰よりも人脈には優れていた。

 織田家という肩書きを忘れ、町民と触れ合うこともあった。

 自然と、信長の周りには人が集まってきていた。


 そんな信長が優秀な家臣を集めることは、簡単なことだった。

 結果、色んな戦場に行っても、自分が何かをする前に終わってしまっていた。


 強くなりたい、と何度思ったか。

 過去に戻れるなら、稽古をするのだぞ、と言いたい。

 自分の家臣が手柄を立てる度にそう思った。

 果たして、今の織田家に自分は必要なのだろうか。

 いくさを重ねるたびに、そのようなことを考えてしまっていた。


 そして、得体の知れない何かに襲われている今も、同じような事を思った。

 もっと自分に、才能があれば。

 せめて、努力をしていれば。


 我は、どこで間違えてしまったのだろう。

 と考えてみたが、得体の知れない何かの動きが止まることは無い。


「もう無理!!」


 走り回る信長の体力も限界を迎え始める。


「アアアアアアアアアアアア!! ホントに、誰か、助けてくれよォオオオオオオオォォオォオォォオォオォォ!!」


 得体の知れない何かは、信長の首に噛み付こうとしていた。

 何かが信長の首へ飛びかかる。


「ダァァアァァァァァァァァァァ!!」


 信長はその場で目を閉じ、頭を抱え、しゃがみ込んだ。

 そんな信長の頭上を、1つの水の球が通り過ぎて行った。


「危なかったね。大丈夫だった?」


 そして、信長の背後から1人の女性の声が聞こえる。

 信長は、その声のほうを向いた。

 すると、突然目の前が明るくなった。 

 光が照らされたのだった。


 しかし、松明のような物を持っている訳では無い。

 手の上、いや指の上にその光はある。

 まるでホタルのように小さい光だが、信長が見たことのないような明るさだった。


「……ッ!?」


 突然の明るさに目が慣れず、しばらく視界がぼやけるが、自分の目の前に誰かが立っていることだけは確認できた。


「どうして、こんな所にいるんだい?」


 信長を助けたのだと思われる女性は、信長に優しく話しかけた。


「いや、それも我には分からない。それよりも、我を襲ってきたあの得体の知れない怪物は、お主が倒したのか?」


「あー、まぁそうだけど。」


「ならば、お主は我の命の恩人というわけだな!! 感謝しよう!!」


「そ、そっか。ありがとね。」


 信長の視界もだんだんと明かりに慣れてきた。

 それにより、目の前の人がどんな人なのかを確認することが出来た。


「それにしても女子おなごか。」


「え?」


「我も女子おなごに助けられてしまうようになったのかと思っていただけだ。本来、戦場いくさば女子おなごはいなかったからな。」


「ねぇ、あなたの名前聞いてもいい?」


「我の名か?」


 この世に我の名を知らぬ奴がいるとは。

 と、信長は心の中で呟く。


「我の名は、織田信長だ。」


「織田信長って……。なるほどねぇ。信長も召喚されてしまったというわけか。」


 確かに最近、召喚をするとかしないとかそんな噂があったなと、女は呟く。

 それを聞いた信長は、今の状況がおかしいということに気づいた。

 そしてこの場所が地獄なのだと、瞬時に結論付けた。


「では、我も問おう。お主の名は?」


「田中結衣だよ。結衣って呼んでいいからね。」


「了解した。」


 信長は視界を確保したため、改めて当たりを見渡す。


「洞窟の中って事か。」


「そうだね。たまたまこの洞窟に用があって来てたんだ。信長、運が良かったね。私が来なかったら、スライムに殺されてたんじゃない?」


 聞きなじみのない言葉に戸惑いを感じつつも、地獄にしかいない生き物なのだろうと思い、スルーした。

 わからないことは、後で聞けばいいの精神だ。

 ということで、信長は今のところ最も気になっていることを聞いてみた。


「あー、その事なんだが。お主、先程召喚とかなんとか言っていたな? その事について、もう少し詳しく知りたいのだが、よいか?」


「オッケー。まず、この世界は信長のいた世界とは別の世界、つまり『異世界』という場所なんだよね。」


「イセカイ?」


「そう、だから私たちは『魔法』という不思議な力を操ることができる。そして、『モンスター』と呼ばれる人じゃないモノもいる。」


「お、おぉ。頑張って理解しているつもりだ。」


 こう言っているが、何も理解していない。


「そんで信長は、この異世界に必要な存在として召喚された。まぁ、恐らくだけど。」


「そ、そうなのか……。」


 この我が必要とせれているのか?

 と、信長は頭を悩ませた。


「元の世界に帰りたいの?」


「いや、元の世界の我は既に死んでいるはずだ。だから、少しでも生きられるのであれば、この世界で生きていこうと思う。」


「ふーん、いい心がけだね。」


「結衣も召喚されたのか?」


「まっ、そんな感じかな。でも、私は魔法が雑魚だから捨てられちゃった。【水球ウォーターボール】しか使えない奴なんていらねえッ! って感じでね。」


「そうなのか。」


 それを聞いた信長は少し恐怖した。

 自分も魔法を使えなければ捨てられてしまうのではないかと。


「やはり、ここは地獄のようだな。」


「地獄? よくわかんないや。まぁ、話はここまで。私はやることがあるから。」


「そ、そうか。気をつけるのだぞ。」


「それはこっちのセリフ。このまま真っ直ぐ行くと洞窟の出口だから頑張ってね。」


 信長と結衣は別れた。

 別れ際、信長は光の球を結衣から1つ貰った。

 これで、暗闇に怯える心配はない。

 そして、ようやく陽の光を浴びることができる。

 信長は、ウキウキ気分でその場から歩き出した。

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