戦国の異世界乱舞~本能寺で死んだはずの織田信長が、異世界に召喚されたので学園生活を満喫します(?)~

りょあくん

『異世界生活の始まり』篇

第1話 本能寺の変って結局誰が黒幕なんですか。

 1人の男が馬の上にまたがる。

 その男は、ただ1点を真っ直ぐ見つめていた。

 そして、刀を抜き、空へ突き上げた。


「敵は……。」


 男の放つ声は、男の後ろに待機している兵士たち全てに響き渡る。

 当然、兵士たちはその男の方に意識を向けることとなる。


「敵は、本能寺にあり!!」


 男は、そう叫ぶ。

 すると、男の後ろにいた兵士たちが、一斉に走り出し、男の横を通り過ぎて行った。


「「ウォォォォォォォォ!!」」


 男も、その兵士たちの後ろを着いて行った。




――――――――――




 1582年、本能寺にて。

 ”第六天魔王”と呼ばれ、恐れられている織田信長は、ぐっすり寝ていた。

 ただ、その眠りを邪魔するかのような騒音が、信長の耳に入った。

 同時に、信長の寝ている部屋のふすまを誰かが勢いよく開けた。


「何事だ。」


 信長は低い声でそう言った。

 その声はとても恐ろしく、信長の目の前に立つ兵を震え上がらせた。

 しかし、単純に信長の寝起きが悪いだけであることは、誰も知らない。


「――ッ。明智光秀、謀反!!」


「……!?」


 半分寝ている状態だった信長も、その報告には驚く。

 それと同時に、眠気が吹き飛んだ。

 それもそのはず。このままでは殺されてしまうからだ。


 信長は枕元の刀を手に取ると、部屋から飛び出し、本能寺の入口に当たる部分へと向かった。

 すでに本能寺には火が放たれている。

 そして、入口は突破されており、本能寺にいた数少ない兵士がなんとか戦っているが、この本能寺が落とされるのも時間の問題だ。

 すでに戦いは、どれほど時間を稼ぎ、主君である信長を逃がすことができるかという戦いになっていた。


 そんな時、家臣の1人である森蘭丸が、信長へある提案をした。


「ここはもう持ちません。どうか、信長様だけでも逃げてください。私たちは、ここで信長様が逃げる時間を作ります。」


「だが……」


「ここであなたが死んでしまえば、これまでの苦労が全て流されてしまう。だからこそ、必ず生き延びてください。あなたなら、天下を取れる。……天下を取るにふさわしい人物です。」


「……。そうか、分かった。」


 信長はそう言うと、覚悟を決めて本能寺の裏口へと向かう。

 しかし、その裏口に1人の人影があることに気づいた。


「あなたなら、ここに来るのではないかと思っていました。"第六天魔王"織田信長。」


「……明智……光秀。何故、こんなことを。」


「私は、元々あなたの仲間ではなかった。あなたが、幕府を滅ぼした時から、私はあなたが嫌いだった。いや、元からあなたを殺すタイミングを伺っていたのかもしれない。そのタイミングが今なだけで、あなたはいつどんな時でも、私に殺される可能性があった。

 そして遂に、あなたはここで死ぬ。私によって殺される。」


 光秀の言葉を聞いた信長は不気味な笑いをする。


「何が、おかしい。」


「この我に、抗うか。」


「抗う、だと?」


「では、聞こう。お主は、我に勝てると思うのか?」


「余裕です。あなたより私の方が既に強い。力量ではなく、頭脳で。」


「そうか、そうか、実に傲慢だ。だが、実に面白い。」


 信長はそう言うと1歩ずつ、光秀へ近づく。

 当然、光秀は刀を信長へ向けるが、それでも信長は止まらない。


 そして、たった一瞬、瞬きをする瞬間。

 信長は光秀の視界から消えると、光秀の背後から光秀を押し倒す。


「まだまだ遅いな。」


「クッ……!!」


 だが、それが信長を油断させてしまった。

 押し倒した光秀を取り押さえている信長へ、1本の矢が襲いかかる。

 本能寺が完全に突破されてしまったのだ。

 本能寺にいた信長の家臣......いや、仲間たちが殺されたのだ。


 信長は、仲間と過ごした日々を思い出す。


「……。」


「言っはずだ。力量ではなく頭脳で、私はあなたよりも強い。さて、あなたの仲間たちはすでに殺られてしまったようだ。あなたも仲間たちと同じように、ここで消えていくとでもしましょうか?」


 本能寺につけられた火は、本能寺全体を包むほどの火に成長している。

 燃えていく本能寺の壁や柱が倒れていったりもする。

 その火の中に2人はいる。


 暑さのせいで、額から汗が垂れていくのを信長は見た。

 その汗が、地面にまで垂れ、その垂れた汗がすぐに火に飲み込まれたのを確認すると、信長は光秀を解放した。


「我を殺し、何を望む?」


「あなたとは違う、平和な世を作る。」


「そうか。ならば、抗うが良い。」


 信長はそう言うと、裏口とは反対の方向へ歩き出した。


「待て! 信長!!」


「我は、この世が憎かった。何をするのでも力が必要だったからだ。だが、お主と出会い何かが変わった気がしたのだ。まるで、新たな道が切り開かれたかのように感じた。」


「……ッ!?」


「もし、来世が存在するなら、我は今まで出会ってきた者たちや、これから出会うはずだった者たちと、何も争うことなく平和に暮らせる世であってほしいと思う。しかし、我は罪を犯しすぎた。恐らく、我は永遠の地獄に捕らわれるのだろうな。」


「……信長、様。」


「さらばだ、光秀よ。先に、地獄で待っている。」


 信長はただ1人、火の中へと消えていった。

 その最期は、"第六天魔王"と呼ばれるに相応しい最期だった。

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