銀行強盗と鼻詰まり
銀行でお金を下ろしたかっただけなのに。
ATМで順番待ちをしているところに、目出し棒を被った四人組の銀行強盗がやって来た。
一人は銀行員を監視。
一人は窓口の銀行員を脅して大きなバッグに現金を詰めるように指示。
一人は遮光カーテンを閉めて回って、入り口を封鎖させ、外を監視。
一人は、客を全員一ヵ所に集めて、妙な動きをしないように監視。
私も集められてしまった客の一人だ。
周りは私と同じ主婦ばかりで、あとは彼女たちが一緒に連れてきた小さな子供や、おじいさん。
その子供の中に、眼鏡をかけて、蝶ネクタイをした、青ジャケット白シャツ灰色短パンの男の子が混じっていた。
こんな状況なのに、「あれ、ここって米〇町だっけ?」と思ったと同時に、「そりゃあ強盗くらい起きるわ」と妙に納得して落ち着いた。
客を監視する強盗が、子供を人質にして、その母親に粘着テープを渡し、腕を縛って、目と口を塞ぐように指示した。
母親は指示通りにするしかなく、「ごめんなさい……」と涙しながら客を拘束していく。
私の番になり、後ろ手に縛られた。
私は、目と手は許すけど、口だけは勘弁してもらえないかと彼女に訴えた。それか、せめて緩めにしてくれと。
「おい! なにコソコソ話してやがる!」
男が怒気を含んだ声で叫ぶ。そして近寄ってくる。
「今何か話してただろ? 妙なことをしないように、お前は俺が縛っておく」
私が何か言う前に、口にガムテープを貼られた。
目で剥がすように懇願したが、無視して目にも貼られた。
「んー! んー!」
「うるせえ! じっとしてろ! お前がしていいのは息だけだ!」
その息ができねえんだよ! 鼻が詰まってて、ほとんど鼻呼吸できねえんだよ!
ふん、ふん、と何とか詰まった鼻に隙間ができるように頑張ってみたけれど、針の穴が楊枝で開けた穴になった程度の効果で、次第に眩暈がしてきた。
ついに限界が来た私は、いつの間にか気絶していた。
気が付いたら、病院で寝かされていた。
私の意識が戻ったことに気づいた看護師が、医師を呼んで事情を語ってくれた。
あの後、銀行強盗は全員捕まって、人質も全員解放されたけれど、私一人意識不明だったため、大急ぎで病院に運ばれたらしい。
酸欠で危なかったと。
――危機一髪。もう少しで死ぬとこだった。
余談だけど、強盗現場には空気が抜けて萎んだサッカーボールが落ちていて、強盗の一人は麻酔をしたみたいにぐっすり寝ていたという。
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