いい機会だから心確かめておきましょうか

「いい機会だから心確かめておきましょうか」

 そんなことを言う黒板を背にした水鏡冬華。目の前には水野陽夏みずのようか。他は誰もいない教室。夕日が窓から差し込む。

「…………あの、水鏡さん」

 水野陽夏が外を眺めハトが豆鉄砲食らったような目で停止している。

 外ではミハエルと桜雪さゆが自由形100mででクロールしてゆく光景が窓から見える。

(見たくもないけど。そーゆー意味の自由?)

 心の中で呆れ果ててそう言葉を投げ捨てる。

「あのー……外気にかかるのはわたしもかな~り共感するけど今はこっちに集中して」

 陽夏にそういうことを言っておきながら、水鏡もまた外を見る。

(なにあれ?)

 グラウンドを見るとミハエルと桜雪さゆが槍投げを審判役と選手役を交代でしている。

 ミハエルもさゆも体中に槍投げの競技用の槍をぶっ差しながら楽しそうにはしゃいでいる。

 そしてミハエルとさゆは刺さっている槍を全部抜いてから”槍を投げてその槍に乗って宇宙進出”を狙い始めた!

(もうまともに考えると、頭病あたまやめてきそう。

 逆に考えると世界がそれくらい崩壊してるって事ね)

「はぁ。場所変えましょうか。近くのレストラン」

 自分も外が気になるからの提案だった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 学校近くのレストラン。

「危ないわねえ」

 そう水鏡はうっとおしくぼやいた。

 なぜならミハエルと桜雪さゆの槍投げの槍がレストランを突さしていたからである。槍を避けて席に座る。

 客が全員スケルトン(しかも女子校生っぽいしゃべり)なのは気になったがミハエルと桜雪さゆのせいなのは間違いなさそうだから放っておく。

 スケルトンが

「い~やん、スカート短すぎにしちゃったかな見えちゃう~」

 とか言ってたのは心の中でツッコミ入れておいたけど。

(わたしと違い、アンタの場合見えそうなのは骨だけよ。安心しなさい)

 で、ようやく話し始める。その話の前に、冬華は和風定食、陽夏はイタリアンランチを頼んだ。

「いい機会だから心確かめておきましょうか」

「あ、そこから始めるんですね」

「いやあ、だって教室だとあの阿呆2人に雰囲気のまれちゃったでしょう?」

 そういって、店員に酒を注文する。

 そうすると、店員はびっくりして酒は出せないと告げる。

(あぁ、学生設定か)

 そして

「ごめんなさい、戻っていいわ」

 と一言言い下がらせる。

「あなたうちの国が一夫多妻制だからってミハエルさんを狙ってる?」

 陽夏は、ついに来たか。と身構えた。

(一夫多妻制ならそりゃあ他の嫁とも仲良くしておかなければならない)

 と、陽夏は思った。

「わ、わたしは20歳です。だから」

「だから?」

「だ、だから世間一般では早まっちゃいけないとかそういう意見でそうなのはわかっています」

「世間一般て今の”牢屋化、15シティ化"した地球の常識に照らし合わせてるの?

 それ無駄と思うんだけど、牢屋化した世界の一般常識って。あなた腐った日本に戻るの?」

「いえ。日本に戻ってもわたし、わたしっはっ居場所ないですし……」

「親は? ムーンショットする際にわたしは

 『ムーンショットして、親を捨てちゃうのか、見捨てていくのか』

 とか思わなかったの?

 あ、料理来たわね。和風わたしですーイタリアン向こうね」

(イタリアンて久々に言ったわね……地球なんて牢屋化する前に狗法くほう星渡りで脱出して火明星ほあかりぼしまできたからな……八百万やおよろず神々かみがみが実際におわすここに)

「あ、どうもイタリアンわたしですー」

 それぞれ店員にお礼を言う。

「食べながらでいいわよ。食べるときにちょい重い話題だろうけど」

「はい……」

 イタリアンに口をつけつつ陽夏が喋る。

「わたしは。その親の問題に直面する資格を失っています」

「もっと直接的に言って。それじゃあわかんない」

「親は転生する3か月前に交通事故で2人とも死にました。

 美形で他にも才能持ってる人って他で運ないんだよ~って知り合いの言葉がずっと頭の中で響いてました。

 それから3か月わたしは精神的にゾンビみたいだなってずっと思ってる状態で街を歩いてる気分でした」

「なるほど。ある意味わたしと同じわけだ」

「えっ? 水鏡さんの家族は……」

「生まれた時期、幕末」

 自分を指さし、冬華。

「無事だったとしても寿命ね」

「えっ、本当なんですか幕末て」

「あんたルシファーのムーンショット1回受けたくせに何よその反応。

 竜は結構下界を歩いてる。時には竜の子もその子には自覚なしにね。血液型-D-《バーディバー》は竜の血よ」

「バーディバー? 聞いたことない血液です。わたしAだし。

 で、水鏡さんも竜の子ども、と」

「いや、それは違うわ。いや血は血液型-D-《バーディバー》はそうだけどね。わたしも竜の血だから。

 ミハエルさんも血は血液型-D-《バーディバー》よ。だって彼地上に降りた際の竜神闇霎くらおかみの息子だもん。わたしが彼に近づいた理由がそれ。闇霎くらおかみの息子を闇霎くらおかみの巫女であるわたしが保護したかったってのが理由。

 で、わたし幕末の時代に巫女の村ごと戦火に呑まれた際に命を落としかけてね。人に化けて通りかかった竜神闇霎くらおかみ様に血を分けられて運良く拒絶反応がなかったのがわたし。

 わたしが半分竜神になった後、姉や両親はすでにこと切れていた。

 それからわたしも幕末の戦いに幕府側で戦ったわね。

 わたしの剣術は幕末に急成長したかな。

 だから新選組とか結構親しかったわよわたし。新選組と一緒に見回りもしたし、浅葱色の中に巫女装束の女が混ざってた感じね。特に永倉さんと一番話したかな。永倉さんとは幕末以降がメインだけど会話。明治43、西暦1910くらいかなぁ永倉さんと最後に話したの。

 あの桜雪さゆも一緒にいたけど神以上の存在は敵側に神がいない限り組みしちゃいけないって天火明命あめのほあかり様のルールがあったから積極的には参加してなかった。あの子に直接いっていったのだけね。燃やされて氷漬けにされて死んだのは」

「それ、全然わたしと同じじゃあないじゃないですか。きつい、女の身で……」

「いや、人生の大事な決断時に親に相談できなかったって意味では同じでしょ

 で。お話戻すわね」

「で、わたしと同じで人生の大事な決断の瞬間に親が死んでたと、でなんだっけ」

 もじもじしつつ、陽夏は。

「えっと、だから」

「良いわよ。落ち着いて喋ってね。待っててあげるから」

(和風定食に貪りつくチャンスだし)

 和風定食を食べながら水鏡。

「は、はい。それで、人生で初めて好きになった人が最初は敵対してた中にいたんです。というかあなた方のリーダー。わたしの部下として紛れ込んでましたけど」

「ミハエルね」

「は、はい。で、好きって事を自覚するともう止まらなくって」

「止まらないって……」

「そ、そ、それは…………妄想で1日2、3回くらいはそういう妄想してふわふわな気持ちを楽しんでならいますけど! ひぃぃ~!」

 ……冬華もいろいろ想像したのか、顔を赤くする。そしてくねくねしている彼女に注意する。

「…………べつに黙ってて良さそうな気持ちは黙ってて良いから!

 まあ、妄想にひたるくらいならねぇー……恋する女なら誰もがやってるし。

 はぁ……そんなことまで引き出そうなんて思ってないから!

 わたしだって女だし、心の奥底に大事にしておきたい気持ちあるのわかってるから!

 つまり、好きって気持ちどうにも抑えらえないくらいってわけね。

 はぁ、罪な男だわ。ミハエル」

「はぃぃぃーーー…………」

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