禁書庫侵入(前編)
一方、彼女から離れて更に図書館からも出た少女───ミズリは自らに内蔵された通信システムを開く。
「こちらミズリ、対象から離れました。監視がついている様子もありません」
『分かった。今呼ぶ』
通信の相手である夜空がそう言った瞬間、彼女の身体が掻き消える。
そしてその瞬間の姿のまま、図書館直上550キロメートルの位置に待機していた宇宙戦艦ミズーリの艦橋に出現した。
これも俺のスキルの権能の1つである。"備品のみを出現させる事も可能"、その備品の中にはミズリも含まれており、それを応用すればこの様な芸当も可能になるのだった。
「あいつらの索敵は高さ方向の位置は分からないんだな。まあこの文明レベルならそれで充分……いや、ダンジョンとかもあるしやっぱり不便なのでは? まあいいか」
「ハルメスへ向かいますか?」
「ああ。向かうはハルメス王城───禁書庫だ」
もしもそこに蘇生魔法の方法が無いのならば───
「───その時は、魔王にでも頼る事にしよう」
どのみち異世界なのだ。魔物だろうが人間だろうが俺目線からは同じなのだから。
そう決断し、俺は素早く行動に移す。
即座に戦艦を操作し位置を王都上空へと移す。その裏でエリスフィーズが驚愕しているなどとは露知らず、僅か数秒で王都上空へと辿り着く。
「よし、じゃあ早速降りるか」
「休憩を取らなくてもよろしいのですか?」
「今なら邪魔な奴等がまとめてマシュロレーンに居るからな。すぐに戻ってくるだろうが……端から待ち構えてるのと少しでも居ないのでは雲泥の差だ。そうだ、もう1つついでにやっておこう。ミズリ、俺が合図したら主砲をダイラント山頂に撃ってくれ。その混乱を突いて王城に侵入する」
「了解しました」
「よし、じゃあ作戦開始だ!!」
そう言うと、すぐに格納庫へ行きコスモパンサーに乗り込み、出撃する。ミズリは下部主砲を王都東部にある山───ダイラント山へ指向する。主砲身が艦に垂直に立ち、その砲口を直下の惑星へと向ける。完全に軌道爆撃の様相を呈していた。
炎を纏わせて流星に偽装しつつ大気圏突入を果たす。その最中に俺はミズリへと発射の合図を送った。そういえばこれが初発射だな、と思い出し、それが軌道爆撃だとはあまり締まらないな、とも思った。まあどうでもいいか。
瞬間、向けられた下部主砲口から爆音と共に青白い光線が放たれる。三連装砲から放たれた三本のそれは一瞬で彼を追い越し、やがて捻じれて一本の太い光線に収束、発射から一瞬もかからずにダイラント山の頂に命中した。
「な、なんだ!?」
「今青い何かが通った様な」
「だ、ダイラント山が!!」
その光線は山を垂直に穿ち、同時に大爆発を起こす。山は粉砕され、天を衝くかの如きキノコ雲が現れる。
まるでこの世の終焉を告げるかの如き惨状に王都中の皆が呆然と絶望する中、俺は悠々と箒に乗り換えて王城へと侵入した。
「威力ヤバ……」
とはいっても、俺自身その威力に驚いていた。
俺の想定では精々山の頂上を削る程度だと思っていたのだが、しかし実際には山は根元から粉砕され、山のあった場所は紅く染まった溶岩の湖と化していた。
確かあの周辺には集落などは無く、また不毛の地である為に誰もあまり近付かない場所である筈なので死者などは居ないだろう───というか、だから狙った───が、それでも若干の罪悪感は残る。
まあ、予め知っていた俺ですらこれなのだ。元から居た何も知らない住民などは唖然として動けないだろうから好都合だ、そう考えて足を進める。
……最初、王城に直接ぶち込んでやろうとも考えたのだが変更して正解だった。危うく禁書庫と街ごと消し飛ばす所だった。
禁書庫らしきものはすぐに見つかった。
単純に地下へ地下へと進んでいっただけだ。道中兵士の姿も見たが皆慌てた表情で轟音が聞こえた方向へと向かっていた。おいおい、ザルな警備意識だなあ、笑いつつその見つけた扉を見る。
「正に禁書庫!って感じの扉だな」
赤く塗装された高さ5メートルはあろうかという鋼鉄の扉。扉本体にある鍵はもとより、その前にも鎖が掛けられ厳重に封印されている。
俺は取り敢えず取り出していたゲリエドラグーンを構え、錠へ向かって放つ。
「駄目だこりゃ。もっと火力が要るな」
しかし、錠はビクともしない。それなりにレベルの高く防御力が高い田中の皮膚は豆腐に針を刺すかの如く貫けたというのに。
まあ正直、これで破られてもそれはそれで興ざめというものだ。彼は備品の兵器の欄を調べ、お目当ての物を見つける。
「出てこい『コスモバズーカⅣ』!」
俺が念じると、光の粒子が集まってバズーカの様な物に変化する。
コスモバズーカⅣ、正式名称六一年式対戦車無反動砲。名前的には本来ならば分厚い装甲を持つであろう戦車に向けられるであろうその砲口を俺は扉に向ける。
使い方は現代のそれとほぼ同じ。肩に担ぎ、引き金を引く。爆音と共にミサイルが放たれ扉に命中、厳重な防備───物理的には分厚い鋼鉄の扉、魔法的には五重に張られた魔力障壁───ではあったがそれの前には無力であり、爆発が晴れたそこには粉々に砕かれた破片がそこらに散らばっているだけだった。
「ふう、気持ちいいな」
『マスター。階段を下りてくる十数体の反応を感知しました』
「やべ、忘れてた。ミズリ、来てくれ」
流石にこれ程の音を立てれば気付く者も出てくる様で、幾人もの兵士が慌てて音の下へと駆け下りてくる。
俺は慌ててミズリを出現させ、続けて鉄製の箱を幾つか出現させて陣地を作る。
そして出て来た彼女に幾つかの武器を渡して話す。
「悪いが暫く時間を稼いでくれ。目ぼしい物をなるだけ早く回収する」
「いえ、ごゆっくりどうぞ。幾らでも抑えてみせましょう」
「凄い自信だな」
「宇宙戦艦ミズーリは魔法如きに破られる程ヤワには作られていませんので」
「頼もしい事言ってくれるじゃないの。じゃあ任せた!」
俺は背中を彼女に任せ、無残に破壊された扉の中へ飛び込む。
内部は鬱蒼とした雰囲気が漂っていた。壁に付着したヒカリゴケが仄かに緑色の光を放ってはいるがやはり暗く、暗視スコープを出さなければタイトルの1つも見えやしない。
人生初の暗視スコープは普通のサングラスと大して変わらない見た目で、それでいてまるで昼の様に自然に視界を明るくしてくれる。もう普通の暗視スコープでは満足出来ないだろう。
さて、肝心の蔵書だが結構な量がある。こんな物を全部読んでいたら日が暮れてしまうのでタイトルで関係ありそうな物だけをピックアップして戦艦に持ち帰り、読む事にする。
外では怒声や悲鳴、銃声が聴こえてくる。今必死にミズリが奴等を抑えてくれているのだろう。早く作業を終えなければ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この作品が面白いと思った方は、非常に励みになるのでフォロー星ハート感想レビューよろしくお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます