宇宙戦艦お披露目会

 高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない、みたいな言葉があるが、そもそもここには魔法そのものが存在するのだ。科学て蘇生が無理でも魔法ならば何とかなるかもしれない。いや、きっと何とかなる。その為にはまだ色々とやらなければいけない事がある。まずはこのスキルの本領であろう宇宙戦艦を出してみよう。

 しかし、こんな所で出現させてはあまりにも目立ってしまう。正直な所、このスキルはこの世界の奴らにはまだ隠しておきたいのだ。


「ミズリ、どうするべきだと思う?」


 俺は隣に直立不動でいるミズリに尋ねる。彼女は先程の様子からして俺の思考を読んでいる様なので細かい説明は不要だろう。


「大気圏外での出現を提案します」

「大気圏外……宇宙か。そこまで行く手段は?」

「コスモパンサーの使用を提案します」


 コスモパンサー。先程のスキル欄に書いてあった戦闘機だ。俺は少し胸を昂らせつつその名を呟き、直後目の前にそれは現れる。

 それは全長15m、全幅8m程の戦闘機だ。現代で使われている戦闘機とは違い、航空力学など考えていなさそうな突起やら何やらがある、しかし見てすぐに航空機だとは分かる、そんな形状だ。俺は今からこれに乗るらしく、出現させた瞬間に使い方が頭に流れ込んでくる。


「空間汎用戦闘機コスモパンサー。全長15.8m、全幅7.9m、兵装は76mm陽電子機関砲1門、20mm陽電子機関砲4門、空対空/艦/地ミサイル6発、単独での大気圏離脱及び突入、シールド展開が可能です。また、乗る際は宇宙服を着用して下さい」

「説明ありがとう」


 言われるがままに宇宙服を取り出す。まさか異世界で宇宙服を着る事になるとは思わなかった。それも現代のそれとは比べ物にならない程高性能かつコンパクトな物をだ。それ程分厚くもなく、飛び出ている物といえば背中のスラスターくらい。とても動きやすくこれまでの宇宙飛行士さんに申し訳ない気持ちになってくる。

 取り敢えずスラスターは外し、コスモパンサーのキャノピーを開きコックピットに座る。色々と複雑な計器があるが問題はない。ミズリを後部座席に座らせ、操縦桿を握る。エンジンを起動させ、機体が小さく揺れる。スラスターを吹かせ、勢いよく離陸した。


「……おお」


 満天の星空を飛行する。俺は今、空を飛んでいる。これまで飛行機には何度か乗った事はあるが、自分で操縦するのは初めてだった。

 パネルに表示される高度がみるみるうちに上がっていく。本来大気圏を脱出するのは難しい筈だがこれはいとも簡単に抜けられるらしく、機体は何の抵抗も無く上昇し、やがて大陸の形が分かる程度の位置にまでやってきた。この星の大陸は至って普通の形をしているのだが、特筆すべきは惑星の周囲を囲む土星の様な紫色の環である。空に見えていた帯の様な物はこれだったのだ。


「この辺りで良いか?」

「はい。問題ありません」


 ミズリのお墨付きを得て、俺は満を持して宇宙戦艦を出す。いつものように光の粒子が集まり、いつもよりも遥かに大きな形を形成していく。それは視界を全て覆い隠す程にまで大きくなり、やがて詳細な形が作られていく。全体的な艦影が、主砲が、艦橋が、ノズルが形成され、そうして光が収まりその完全な姿を見る事が出来る様になった。

 外観は、どこか水上艦の面影を残しつつも3次元戦闘に対応させた、という様なデザインだ。

 艦上部中央にある司令塔、艦橋の窓の形状からもここが今俺がいる場所だろう。それの後部には煙突の様な物、そして2つのアンテナがある。艦橋付近や艦体下部には対空機銃がハリネズミの様に設置されている。

 また、上甲板には前部に二基、後部に一基、下部甲板には前部後部に一基ずつ三連装砲が設置されている。また、後部エンジンノズル付近には側面に一基ずつ連装砲がある。これらが主砲と副砲だろう。そして、艦首にはバルバスバウ状の突起物、そしてその上部の張り出した部分の間には巨大な一門の砲口が見える。俺の勘が告げているがあれは多分決戦兵器だ。


「……すっげ」

「着艦シークエンスに移行します。艦底後部に移動して下さい」


 ぽかんと口を開ける事しか出来ない俺を置き去りに、彼女のその言葉と共に第5主砲───艦底後部にある───の少し艦尾寄りの位置が下に開く。言われるがままにそこへ機体を移動させ、最後は自動制御で艦内格納庫に着艦する。今乗っているこの機体と同じ物が多く格納されている巨大なロータリー式の格納庫、その一枠に自動で収納され、ようやく俺はキャノピーを開く。

 そこは重力制御がなされておらず、俺と彼女はふわふわと浮きながら格納庫から出る。一気に重力がかかり一瞬バランスを崩す。金属の色がそのままに薄暗い印象を受けた格納庫とはうって変わり、塗装された明るい印象の部屋がそこにはあった。ロッカーなどがある事からどうやらここは更衣室らしい。そこで宇宙服を脱ぎつつ俺は彼女の話を聞いていた。


「まずはどちらに行かれますか?」

「うぇ……あ、じゃあ艦橋に」

「かしこまりました。ではご案内致します」


 彼女が歩き出す。部屋を出て自動歩道になっている廊下を移動し、エレベーターに乗り、大きな艦ながらすぐに目的地へと辿り着く事が出来た。

 そこは、10m四方の正方形の一辺に半円を付けた様な形の空間だった。半円の弧の部分にはくの字に曲がった枠に区切られたこれまたくの字に曲がった窓の様な物がぐるりと取り付けられており、正方形の他の三辺には窓らしき物は無い。

 反射の無い金属の様な床の上には実に未来的な座席が半円に沿うように3つ、正方形の左右の壁に向かう様に4つ、空間の中心部に1つ、そして後方の小高くなった部分に1つ設置してあり、それぞれに操縦桿らしき物やレーダー、無数のモニターなどが装備されている。斜めになった天井には巨大なモニターが置かれ、そこは正にSFの宇宙船の艦橋だった。

 その中にある、恐らく艦長席であろう小高い席に座る。モニター、レーダー、計器、操縦ハンドル。様々な物が複雑に設置されているそこは、どうやら艦のあらゆる操作を行えるらしい。


 それはともかく、何も考えずにここに来てしまったがこれからどうしようか。当面の目標は「魔法による達也の蘇生」である訳だが、魔法の訓練を全く出来なかった俺にそんな高度だと思われる魔法の知識は無い。ともすれば、この世界にて探し回るしかない。だが、ステータスを見る限り俺本体は全く強化されていない。なのでこのスキルの機能をフル活用しなければならないのだ。取り敢えず俺はミズリに聞く事にした。

 

「ミズリ、この艦にはどんな機能があるんだ?」

「ご説明致します」


 そう言うと、眼前に半透明の戦艦の3Dモデルといくつかの文字が浮き出てくる。その文字列は先程も見たこの艦の諸元であった。


全長:340m

全幅:52m

全高:96m

最高速:298,000km/s

兵装:

 3200mmタキオンレールカノン 1門

 460mm三連装陽電子砲塔 5基

 155mm連装陽電子砲塔 2基

 艦首魚雷発射管 6門

 艦尾魚雷発射管 6門

 側部ミサイル発射管 24門

 十二連装ホーミングレーザー発射機 1基

 105mm連装パルスレーザー砲塔 12基

 40mm四連装パルスレーザー砲塔 18基

 12.7mm連装パルスレーザー砲塔 24基

搭載機:

 空間汎用戦闘機コスモパンサー 32機

 空間汎用輸送機コスモエーゼル 2機

その他:シールド展開可能。ロケットアンカー2基装備。各種備品


「まずは各種兵装の説明から致します」


 彼女は続ける。

 まず、タキオンレールカノン。これは先程見た艦首の砲であり、予想通り決戦兵器らしい。その威力は収束モードでは地球クラスの惑星でも破壊出来る程であり、対艦隊用の拡散モードでは数百隻の艦隊を一撃で葬り去る事が出来る様だ。次に主砲の460mm三連装陽電子砲。こちらも2つのモードがあり、貫通モードではその名の通り貫通力に優れた攻撃を、速射モードでは貫通力はやや落ちるが毎秒1発で攻撃をばら撒く事が出来、そして副砲の155mm連装陽電子砲は速射モードのみだが毎秒3発という機関砲並みの速度で発射出来る。

 魚雷やミサイルは特に説明は必要無いだろう。その次にホーミングレーザーだが、こちらは艦橋後部にある煙突上部から発射される追尾式のレーザーだ。下の各種パルスレーザーと同じく対空用であり、弾数を気にする事なく対空戦闘に勤しめる。

 艦載機については、コスモパンサーは先程使用した戦闘機、コスモエーゼルは中型の輸送機だ。ロケットアンカーはロケットが付いた操作可能な錨、各種備品は数が多いので使う時に説明しよう。


 次に説明、案内されたのは食堂である。この艦には高度な有機物循環装置が備わっており小麦や米、野菜や果物といった作物から魚介類や肉といった畜産物、果ては衣料品などまで生成する事が出来るのだ。


「うっま……」


 ここで俺は早めの朝食を食べる事にした。注文方法は設置されている自動販売機の様な機械のボタンを押すか声で伝えるだけであり、ピザトーストと頼むと僅か一分足らずで用意された。食パンにトマトソースやピーマン、ウインナーにチーズがのせられた一般的なピザトースト。しかし異世界に来てから虐めでマトモに食えず、そもそも料理のレベルも低かったのもあり口に入れた瞬間ぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 久しく口にしていなかった元の世界の味。ああ、早く達也にも食べさせてやりたいものだ。

 次は艦内工場。ここではコスモパンサーレベルまでの大きさの物ならば自動で大抵の物は製造出来る。無論材料は必要だが、何故かこの艦には鉄や銅、見た事も聞いた事も無い様なレアメタルまで大量に搭載されており、試しに「反重力装置を取り付けた箒」を注文した所数分でベルトコンベアで自分の元に流れてくる。

 メカメカしい箒の様な物。見た目は金属で出来た藁箒だが、藁の所謂"掃く部分"は塊になっており中には反重力装置や機関が搭載されている。操作は触れて念じるだけで良いらしく、乗って浮けと念じると典型的な魔女の真似事が出来た。感動である。

 その後も武器庫や全天球式演算室、大浴場など様々な場所を案内され、最後に案内されたのは機関室だ。

 巨大なベルト状のフライホイールが回る機関室。この艦に搭載されているのはメールリンス・エンジンと呼ばれる機関であり空間から無限にエネルギーを取り出す所謂永久機関であり、これのお陰でワープ航法による恒星間航行を実現しているのだ。俺に魔力が無いのにも関わらずスキルを使えているのもこれのお陰らしい。


 そうして艦の案内が終わり、俺はようやく達也の蘇生方法についての情報を集める準備をする。

 先程も言った通り俺には魔法の知識が無い。なのでまずは本などで情報を集める必要があり、それに適した場所についての知識は多少ならあるのだ。この世界は日本よりも本が貴重である為、必然的に図書館の数も少ない。加えて平民でも入れる場所というとかなり候補は限られる。


「ミズリ、地図は出せるか?」

「スキャンします。少々お待ち下さい……完了しました」


 今考えるとかなり無茶振りだったと思うのだが彼女はすぐにこなしてくれる。どうやらレーダーで地表の地形をスキャンした様で、半透明の惑星の3Dモデルが眼前に浮かんでくる。その一か所を指差し、拡大する。


「最初に行くのはここ、知の街マシュロレーンだ」


 俺達が召喚されたレファテイン王国の王都、そこから西に行った所にある小さな山脈を超えた先にある街、それがマシュロレーンだ。重要な3つの街道の交差点上に位置しており世界中から人が集まるこの街には当然その分の知識も集まっており、ここを統べる賢人と呼ばれる者が掲げる「優れた知は共有されてこそ更に輝く」という理念の元知識を収めた図書館を無料開放しているのだ。

 ここを知ったのは王都にて訓練をしていた時に教わったからであり、ここに来て初めて王国に感謝した。いや、そもそも王国が召喚なんてしなければこんな事をする必要など無かったのでやはり感謝は取り消す事にする。


「マシュロレーン。北緯25.298度、東経38.102度、現在時刻ハルメス時間11月7日午前3時34分です」

「それならまだ夜に紛れて着陸出来るな」


 大気圏再突入及び着陸の際に最も気にしているのは人の目なのだが、この場合はあまり気にしなくてもよさそうだった。

 そうと決まれば思い立ったが吉日、俺はすぐさまコスモパンサーに乗り込み夜明け前の星へと飛ぶ。本来であれば王都から山脈を数週間かけて迂回するか数日かけて突破しなければならない場所だが宇宙から行くのならば関係ない。僅か数分で付近の平野に着陸し、街へと歩みを進めるのだった。


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