第2話
そんなこんなでわたくしとシュヴァリエ様は、早速街に勇者の聞きこみ調査に行った。(とは言っても、勇者ってどんな人なんだろう?やっぱり強くて、カッコいいのかしら……)
わたくしが胸を高鳴らせていると、シュヴァリエ様が声をかけてくる。
「ローザ?どうしたんですか?」
わたくしは慌てて答えると、なんでもないと言いながら歩き出した。
そんなわたくしの手をシュヴァリエ様は優しく握ってくれる。
(えへへ……なんだかデートみたい)
そんなことを考えていたせいか、自然と笑みがこぼれてしまっていたらしい……
そんな私に彼が言った。
「ローザは本当に可愛らしいですね」
「もう!からかわないでくださいまし!........それにしても、勇者を探すにしてもかなり時間がかかりそうですわね」
わたくしが頬を膨らませながら言うと、彼は微笑みながら答えた。
「そうですね……でもきっと見つかりますよ。」
「ええ!必ず見つけましょう」
そんなやり取りをしながら歩いていると、やがて街の中心部へとたどり着いたようだ。
(わぁ……!人がいっぱいいるわ!)
わたくしが目を輝かせていると、シュヴァリエ様は優しく微笑んで言った。
「ローザはこういうところに来たことが無いのですね」
「はい……実はあまり無いのです」
(今までずっとお城の中で過ごしてきたから)
シュヴァリエ様は「そうですか」と言うと、手を繫いだまま歩き始める。
わたくしはウキウキしながら彼について行ったのだが……数分後には人混みに酔いそうになっていた。
そんな私を見て彼が声をかけてくれる。
「ローザ、大丈夫ですか?」
「ええ……少し疲れただけですわ」
わたくしが苦笑いを浮かべると、シュヴァリエ様が言った。
「ではどこかで休憩しましょうか」
(やったぁ!)と内心ガッツポーズをしながら頷くと、わたくしたちは近くのカフェへと入った。
席に座ってしばらく休んでいると、シュヴァリエ様が口を開く。
「ローザは何か食べたい物や飲みたいものはありますか?」
そう聞かれ、わたくしはメニュー表を見ながら答えた。
「えっと……このケーキが食べたいです!」
わたくしが指差したのは、生クリームたっぷりのイチゴのショートケーキだった。
(わぁ……!美味しそう!)
わたくしが目を輝かせていると、シュヴァリエ様が店員さんを呼んで注文してくれる。
(やったわ!)と心の中でガッツポーズをしながら待っていると、彼が口を開いた。
「ローザは甘いものが好きなんですね」
「はい!大好きですわ!」
わたくしが元気よく答えると、シュヴァリエ様が微笑みながら言った。
「それならば今度、一緒に街へ出かけましょうか」
(えっ!?それって……デートのお誘いでは!?)
そんなことを考えているうちに注文したものが来たようだ。
目の前に置かれたケーキを見て、わたくしは思わず目を輝かせる。
(わぁ……!美味しそう!早く食べたいわ!)
わたくしは早速フォークを手に取ると、一口サイズに切り取って口に運んだ。
「はむ……」
口に入れた瞬間、濃厚な生クリームと甘いイチゴの風味が広がり、幸せな気分になる。
「美味しい……!」
わたくしが大きく頷いていると、シュヴァリエ様がこちらを見ていることに気づく。
「ローザは本当に可愛いですね」と彼が言ったので、わたくしは照れてしまった。
その後、わたくし達は食事を終え……カフェを出ると再び勇者の情報を集め始めるのだった。
(それにしても……本当に勇者なんて見つかるのかしら?)
そんな疑問を抱きながら歩いていると、突然シュヴァリエ様があるお店の前で立ち止まった。
「ローザ、このお店は……」
彼が指差したのは、可愛らしい洋服屋さんだった。
わたくしは目を輝かせながら言った。
「わぁ……!でも、勇者探しをしなければいけませんわ」
わたくしがそう言うと、シュヴァリエ様は考えた後にこちらを見て微笑んだ。
「まあまあ、そう焦ることはないよ。 ローザに可愛らしいドレスをプレゼントさせてほしい」
(シュヴァリエ様とお買い物……なんだかデートみたい!)と心の中で喜びながら店内に入ると、そこには様々な種類の洋服が並んでいた。
わたくしはウキウキしながら服を選んでいく。
「これなんかどうかしら?」
わたくしが選んだのは、フリルのついた可愛らしいドレスだった。
シュヴァリエ様は微笑みながら、「お似合いだよ」と言ってくれたので、わたくしは嬉しくなって彼に抱きつくと頬に口づけをした。
(なんだか幸せだわ)
わたくしがそんなことを考えている間にも彼は会計を済ませると、わたくしにドレスを手渡してくれた。
「はい、どうぞ」
わたくしは早速試着室へ入ると、早速着替えてみることにした。
(うわぁ……可愛い!)
鏡の前でくるりと回ってみたりしていた後に出ると、シュヴァリエ様が待ってくれていた。「おまたせしましたわ!」と慌てて駆け寄ると、彼は微笑みながら言った。
「よく似合っているよ」
わたくしは嬉しくなって微笑み返すと、彼に抱きついたのだった……。
それからわたくし達は色々なお店を見て回ったりしていたのだが、一向に勇者の話を聞くことはできなかった。
(はぁ……今日も聞けなかったわ)
わたくしが少し落ち込んでいると、シュヴァリエ様が口を開く。
「ローザ、疲れたでしょう?宿でもとって休みましょう。」わたくしは彼の提案に賛成すると、宿を探し始めた。
(でも……勇者の手がかりが掴めなかったわね)
わたくしが落ち込んでいると、シュヴァリエ様が優しく頭を撫でてくれた。
「大丈夫ですよ、きっと見つかりますよ」
「ええ!必ず見つけましょう」
わたくしは笑顔で頷くと、彼と一緒に宿を探すのだった。
そして翌日……わたくし達は再び聞き込み調査を始めたのだが……結局何も得ることができなかった。
(うーん……やっぱり難しいですわね)と考えながら街を歩いていると突然声をかけられた。
「もし、そこのお嬢さん……もしかして勇者様を探しておられるのか?」
わたくし達が驚いて振り返ると、そこには大きな杖を持った老人が立っている。
「はい!そうですわ!」わたくしが答えると、老人はニコリと微笑んだ。
「ほう……やはりそうですか」
彼はそう言うとわたくし達についてくるように言った。
(一体どこへ行くのかしら?)と疑問を抱きながら歩いていると、街を出てすぐのところで立ち止まる。
そして彼は地面に魔法陣を書き始めたのでわたくしは驚いたが、シュヴァリエ様は落ち着いた様子でそれを見ている。
「さあ、お入りなさい」
魔法陣を書き終えると、老人がそう言うので、わたくしは恐る恐る中に入ることにした。
すると次の瞬間……気づいた時には既に別の場所へと移動していたのだ!
(えぇ!?どうして?)と驚いていると、シュヴァリエ様が説明してくれる。
「この方は大魔導師様ですよ」
彼の言葉にわたくしは更に驚いたが……同時に納得したのだった。
(なるほど……だからあんなに落ち着いていたのね)
わたくしがそんなことを考えている間にも大魔導師様は喋り始める。
「勇者様を探しておられるのなら、私のところへいらしてください……もちろん勇者様が現れたら、あなたの元へご連絡致します」と言ってくれた。
わたくしたちはお礼を言うと、その場を後にしたのだった……。
それから数日間、わたくしは大魔導師様の元を訪れては勇者についての情報を聞いて回っていたのだが、結果は得られなかった。
(一体どうすれば良いのかしら……?)とわたくしが悩んでいると、シュヴァリエ様が声をかけてくれる。
「ギルドに向かってみましょうか?勇者と言えば、ギルドにいるイメージですが」
「そうですわね!行きましょう!」
わたくし達は早速ギルドへ向かうことにした。
街の中心部にあるその建物は、とても大きな建物で、屈強な冒険者達がたくさん出入りしている。
(うわぁ……すごい人だわ)と圧倒されていると、シュヴァリエ様が手を差し出してくれた。
「ローザ、はぐれないように手を繋いでおきましょう」と言ってくれたので、わたくしは嬉しくなって彼の手をしっかりと握ったのだった……。
(わぁ……!ここが冒険者ギルドなのね!)
中に入ると大勢の人達がいるのが見える。その中には屈強な冒険者の姿もあった。
「なんだかドキドキしますわ」とわたくしが言うと、シュヴァリエ様は微笑みながら言った。
「大丈夫ですよ……さあ、行きましょうか」
シュヴァリエ様に連れられて受付に向かうと、そこには可愛らしい女性が座っている。
わたくしは彼女に話しかけた。
「こんにちは!勇者について聞きたいのですけど……」と言うと彼女はニコリと微笑むと言った。
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
彼女に案内されて個室に入ると、彼女は席に着くように促す。
(なるほど……ギルドでの聞き込みは個室で行うのね)と思いながら席に着くと、彼女が口を開いた。
「それで……勇者について何を聞きたいのですか?」と聞かれたので、わたくしは答えた。
「実は……わたくし達、探し人を訪ねているんです」と言うと彼女は少し驚いた様子だったが、すぐに納得したように頷いた後、続けて言った。「なるほど……そういうことでしたか……」
(あれ?何かおかしいのかしら?)と疑問に思っていると、彼女は更に続ける。
「実は最近、この街で行方不明者が増えているんです」
(行方不明者……?)
わたくしが首を傾げていると、シュヴァリエ様が口を開いた。
「そのことなんですが……実は我々は勇者を探しているのですが、なかなか情報が集まらないのです」
受付嬢さんは頷いてから言った。
「そういうことでしたか……でしたらこちらにどうぞ」
彼女が案内してくれたのは資料室と呼ばれる場所だった。中に入ると所狭しと並べられた書物が目に入る。彼女はその中の一冊を手に取るとわたくしに渡してくれる。
「これはこの街の行方不明者についてまとめた資料です。どうぞお読みください」
「ありがとうございます!」とお礼を言って受け取ると早速目を通した……すると、気になる項目を見つけたので彼女に尋ねることにした。
「この『勇者様が現れたら連絡をする』というのはどういう意味なのでしょうか……?もしかして……勇者はこの街にいないということかしら?「」と質問したのだが、彼女は首を縦に振った。
「恐らくはそういうことだと思います、最近勇者様のお姿を見ませんので.........」
わたくしはガックリとしたけれど……気を取り直して次の質問に移った。
「では……勇者について何か知っていることはございますか?」と言うと彼女は少し考えた後で答える。
「実はこの街のギルドマスターが勇者様かもしれないという噂を聞いたことがあります」
(えっ!?それって本当かしら?)と驚いていると、受付嬢さんは更に続けた。
「ただその真偽は不明です」
わたくしは彼女の言葉に納得して頷くと、最後の質問をすることにした。
「なるほど……貴重な情報をありがとうございます!探してみます!」
とお礼を言ってから、シュヴァリエ様とギルドを後にした。
(さて……これからどうしようかしら?)
わたくしが悩んでいると、シュヴァリエ様が提案してくれた。「そろそろ日が落ちる頃だから、一旦宿に戻ろう」
わたくしは素直に頷いて、私たちは宿に戻ろうとしていた。
なんだか宿の前が騒がしいなと思い、わたくし達が近づいてみるとそこには一人の少女が佇んでいた。
その姿はまるでお人形さんのように可愛らしくて、透き通るような白い肌にサラサラとした銀色の髪。
青い瞳はまるで宝石のように輝いているように見えた。
わたくしとシュヴァリエ様は一瞬目を奪われてしまったけれど……すぐに我に返って話しかけることにした。
「あのー……どうかされましたか?」とわたくしが言うと、少女は微笑んで答える。「実は道に迷ってしまって……この街の冒険者ギルドを探しているのですが……」
わたくし達は顔を見合わせると、シュヴァリエ様が口を開いた。
「それならちょうどよかった!私達も先程冒険者ギルドに行ってきので、ぜひ道案内しますよ」と彼が言うと、少女は嬉しそうに微笑むと言った。
「本当ですか?ありがとうございます、では案内していただけますか?」と少女が言うのでわたくし達は頷いた後、一緒に向かうことにした。
(それにしても……なんて綺麗な人なのかしら)とわたくしは心の中で思ったのだった……。
それからしばらく歩いていると、その少女が口を開いた。
「最近ここでは行方不明者が現れているとか........私のお兄様も、今は行方がわからないのです」
と悲しそうな表情を浮かべて話す少女に、シュヴァリエ様が優しく言った。
「それは……心配ですね。何か手掛かりはあるのですか?」
少女は首を横に振ると悲しげに答える。
「今のところは何も……でも諦めずに探し続けます」と彼女が言うと、シュヴァリエ様は微笑みながら言った。
「きっと見つかりますよ」
そんな会話をしながら歩いているうちに冒険者ギルドに到着したので中に入ると、受付の女性が出迎えてくれたので事情を説明した後、彼女の部屋まで案内してもらった。
私たちは少女に手を振り、再び宿に戻ることにした。
「あんなにも幼いのに、1人でお兄さんを探そうとしているなんて、すごく強い子だね。」
シュヴァリエ様がそう言うと、わたくしも同意して頷いた。
「そうですね……わたくし達も、できる限り協力してあげたいですね」とわたくしが言うと、シュヴァリエ様も笑顔で頷いてくれた。
それからしばらく経ったある日のこと、いつものようにギルドに向かおうとしたのだが……今日はなんだか街の様子がおかしかったのだ。
街を歩いていると、人々が慌ただしく走り回っていたり、大声で叫んでいたりする光景が目についた。
(何かあったのかしら?)と思いながら歩いていると、突然声をかけられたので振り向くとそこには見覚えのある顔があった。
「あら!ローザちゃん、お久しぶりね! 」
「わ!エマおばさま!!どうしてここに?」
エマおばさまは、わたくしが幼少期の頃にお城でお世話になったメイド長だったのだ。久しぶりに会ったので嬉しくなり、わたくしは思わず駆け寄って抱きついた。
「ふふっ……ローザちゃんったら、まだまだ甘えん坊さんね」とエマおばさまは微笑みながら言う。
そしてわたくしがなぜこの街にいるかを説明すると、彼女はわたくしの頭を撫でながら言った。
「そういうことだったのね。今、街では色々と大変なのよ。行方不明者の話で持ち切りで」「そうなんですの?そのお話はお聞きしましたが、一体どういうことなのですか?」
わたくしが尋ねると、エマおばさまは真剣な表情で答えてくれた。
「実はね……最近、不可解にたくさんの人がこの街からいなくなっているのよ」
「それは大変ですわね……」
わたくしは驚きつつも心配になり、不安そうな表情を浮かべていると彼女は優しく微笑んでくれる。
「安心してちょうだい。私達がなんとかするから」と言ってくれたので少し安心したのだが……それでもまだ不安が残っていた。
(一体どうして…?)と疑問に思っていたが、その日はエマおばさまと別れて宿に戻ることにした。宿に戻ると、シュヴァリエ様と一緒に食事をすることにして、その日は早めに休むことにした。
翌日、わたくしは街の様子を見に行ってみることにしたのだが……昨日よりも更に人通りが少なくなっていた。
(やっぱり何かあったのかしら?)と思いながら歩いていると、急に背後から声をかけられたので振り返るとそこには見慣れた顔があった。「ローザちゃん!おはよう!」
「エマおばさま!昨日ぶりです!おはようございます」
わたくしが挨拶を返すと彼女は微笑んでくれる。
それからしばらく彼女と会話をした後で別れることになったのだが……途中で彼女がこんなことを言い出した。
「そういえば、この近くでまた行方不明者が出たらしいのよ…ローザちゃんもどうか気をつけてね」と心配そうな表情を浮かべながら言うので、わたくしも少し不安になってしまった。
わたくしたちは再び街の中を歩き始めたのだが……やはり人が少ない気がする。
(やっぱり変よね……)と考えながら歩いているうちに、大通りに出ていたようだった。
「ふむ......やっぱり、街の様子がおかしいです。先にこの問題を解決しないといけない気がしますね。」
シュヴァリエ様も同じことを考えていたようだ。
「ええ……わたくしもそう思います」
わたくしは頷きながら答えた。そして、二人で協力して調査を始めようとした時……
叫び声が聞こえてきたのだった。
「助けてください!」
その声で我に返り、振り向くとそこには男性が立っていた。
きっとこの街の人だろう。
「どうかしましたか?何があったんですか?」とわたくしが尋ねると、その方は怯えた表情を浮かべながら話し始めた。
「突然、知らない人にどこかに連れていかれそうになったんです……なんとか逃げてここまで来ましたが……」という街の人の話を聞いたわたくしは、思わず言葉を失ってしまったが、シュヴァリエ様が代わりに助けてくれた。
「もし良かったら、思い出せる範囲でその人の詳しい特徴を教えてください」
彼は、ぽつりぽつりと震えながら話してくれた。
そしてシュヴァリエ様はすぐに駆け出すと、わたくしもその後を追いかけるように走ったのだが……途中で見失ってしまったようだ。
(一体どこに行ったのかしら?)と不安になりながら探していると、シュヴァリエ様が見知らぬ男性を連れて歩いてきた。
「さあ、真実を教えてもらいますよ。」
シュヴァリエ様曰く、その男性は先程の街の人を連れていこうとした張本人らしい。
「とりあえず、ギルドへと連れて行きましょうか」
とシュヴァリエ様が提案すると、わたくしは同意して一緒に向かうことにした。
ギルドに着くと受付の女性が出迎えてくれたので事情を説明した後、シュヴァリエ様が男性を連れて奥の部屋へと入っていった。
しばらくすると男性が戻ってきたので話を聞くことになった。
「あなたは一体何者なんですか?どうしてあの方を狙ったんですか?」わたくしが尋ねると彼は静かに答えた。「それは……」
彼の話によると、彼はある組織の一員でこの街に潜入しているスパイだったらしい。そして今回は、街の人達を連れて行き、その人達から勇者の情報を聞き出す計画だったらしいのだ。
「許せませんわ……」
わたくしは怒りに震えながら言った。隣にいるシュヴァリエ様も真剣な眼差しで聞いている。
「それで……あなたはこれからどうするつもりですか?」わたくしが尋ねると彼は俯いてしまったが、やがて決心したように話し始めた。
「もうこの街にはいられない……僕は自首することにするよ」と彼は言うと、深く頭を下げる。「本当にすまなかった……」
その後、シュヴァリエ様と一緒に男性を騎士団へと連れて行くことにした。「これで解決ですね」とシュヴァリエ様が笑顔を見せたが、わたくしの心は複雑だった。
(本当にこれで良かったのかしら?)
彼が自首したおかげで街の人々が救われたことは間違いないけれど……
「シュヴァリエ様……わたくしは、責務を果たへたのでしょうか?」と尋ねると彼は少し考え込んだ後で言った。「それは私にもわかりませんが……それでも誰かが助かったのは事実ですし、結果としてよかったと思いますよ。引き続き勇者探しを再開しましょう」と言ってくれた。
「そうですね……」
わたくしはシュヴァリエ様に励まされ、改めて決意を固めるのだった……。それから数日後、街では行方不明者が出ることはなくなったが……まだまだ問題は山積みのようだ。
シュヴァリエ様と共に街の様子を見に行くことにしたのだが、やっと活気が戻ってきたような気がする。「どうやらこの街も、まだまだ頑張れそうですね」とシュヴァリエ様が安心したように言うのでわたくしも笑顔になった。
そして今日もいつものようにギルドに向かうと、受付の女性が出迎えてくれた。「あら、ローザ様!おかえりなさい!」
「ただいま戻りました!」と挨拶を交わした後、早速報告を始めたのだが……先日の話をすると彼女は真剣な表情で聞いてくれた。そして話が終わると彼女は微笑みながら言った。
「それは良かったですね!でも……油断は禁物ですよ」という忠告にわたくしは頷いた。「そうですね……肝に命じておきます」
それからしばらく彼女と会話をした後で別れることになったのだが……別れ際に彼女がこんなことを言い出したので、わたくしたちは思わず立ち止まった。
「そういえば、西の方に勇者様が現れたとかお聞きしましたが」と心配そうに言う彼女に対して、わたくしもシュヴァリエ様も笑顔で応えたのだった……。
その日の晩のことである。わたくしはいつも通り宿屋のベッドで眠っていたのだが、夜中にふと目が覚めたのだ。
(あれ?まだ夜更けだったかな?)と疑問に思いながら窓の外を見ると、月の光が優しく部屋を照らしていた。
それからしばらくベッドの上でごろごろしていると、ふと人の気配を感じた。(シュヴァリエ様かな?)と思い、起き上がってみるとそこには誰もいなかった。(おかしいなぁ……)と不思議に思っていると、突然扉が開いたので驚いてしまった。「だ、誰なの!?」
わたくしは思わず叫んだのだが、部屋に入ってきた人物を見て安心した。
「驚かせてしまいましたか?」
シュヴァリエ様がお水を持ってきてくれたようだった。「シュヴァリエ様でしたか……びっくりしましたわ」とわたくしはほっと胸を撫で下ろしながら言った。「すみません、ローザがしんどそうにしていたので」
シュヴァリエ様は申し訳なさそうに謝りながらコップを渡してくれたので、それを受け取って一口飲む。冷たい水が喉を通り抜けていく感覚が心地よかった。
そして改めてお礼を言うと、彼は微笑みながら言った。「いえいえ、気にしないでください。それよりも体調は大丈夫ですか?」と心配そうな表情を浮かべている彼に対してわたくしは笑顔で答えた。
「はい!もうすっかり元気になりましたわ!」
わたくしがそう言うと、シュヴァリエ様も安心したようだった。その後は二人で雑談を楽しんだ後、明日に備えて寝ることにした。
翌朝、わたくしが起きるともうシュヴァリエ様は起きていたようで既に朝食の準備を始めていた。「おはようございます!ローザ」と笑顔で挨拶してくれたのでわたくしも元気よく返すことができた。
「今日は西の方に向かってみますか?ギルドの方が言っていましたし」
とシュヴァリエ様が提案してくれたので、わたくしは迷わずについていくことにした。
街の人々に挨拶をしながら歩いていると、やがて西門に到着した。門番さんにギルドから受け取った通行証を見せると快く通してくれた。しばらく進むと城壁が見えてきたのだが……どうやら壊れているようだ。
「これは酷いですね……」わたくしが呟くと、シュヴァリエ様も頷いている様子だった。そして二人でさらに進んでいくと、徐々に視界が開けてきた。「やっと着きましたね」そう言いつつ彼を見ると、真剣な表情を浮かべていた。「ここに勇者がいるんでしょうか?」わたくしが尋ねると彼は静かに頷いてから言った。
「わかりませんが、とにかく行ってみるしかないですね」
そう言って歩き出した彼の後を追いかけて行くと、そこには信じられない光景が広がっていた。巨大なクレーターのような穴が空いていたのだ。その中心には、魔物が倒れたように散乱していた。「あれは一体……?」とわたくしが呟くと、シュヴァリエ様は答えた。「恐らくですが、戦闘があったようです」
「一体誰がこんなことを……」わたくしが疑問を口にすると、彼は静かに言った。「これは……勇者の仕業かもしれません」
「まさか……」信じられないという気持ちもあったが、彼の言葉を聞いて納得してしまった。確かに勇者ならば、このようなことも可能なのかもしれない。
その後もしばらく周囲を探してみたのだが、魔物以外には何も見つからなかったため諦めて街に戻ることにした。帰り道でもシュヴァリエ様は何かを考え込んでいる様子だったので心配になったが、彼に声をかけることができなかった。
(どうしたのかな?)と疑問に思いながら歩いていると、シュヴァリエ様が急に立ち止まった。
「どうかしましたか?シュヴァリエ様」と尋ねると、彼はゆっくりと口を開いた。「いえ……何でもありません」と言いながらも彼の様子は明らかにおかしかったので、わたくしがさらに追及しようとした時である。
突然地面が揺れ始め、足元から何かが這い出てくる感覚に襲われる。「なんだ!?」わたくしが驚いた声を上げると、シュヴァリエ様も目を見開いた。「まずい!」と言いながら彼が剣を抜く。
次の瞬間、地面から現れた巨大な怪物が姿を現したのだ。全身が岩で覆われていて、頭部には鋭い角が生えている。恐らくは魔物なのだろうが……今まで見たこともないような姿だった。
わたくしは恐怖で震え上がることしかできなかったのだが、シュヴァリエ様は冷静だった。
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