第40話 英雄の末裔に恩を売る俺。いずれ100倍にして返してね!

「さぁ、犬の真似をするんだ」


俺はリムルに笑いかけた。


「くっ……負けは認めても、プライドだけは捨てない!」


「約束を反故にするのがお前のプライドか?」


俺とリムルのやり取りを取り巻いている人々が固唾を飲んで見ている。


「カイトさん……もうその辺りで……」

「カイト、その辺にしておきなさい。お姉さん、悪ふざけする子は嫌いよ」


邪悪な顔の俺を、心配そうな顔で見つめるアオイとエミリア。


「リムル、非情になれ」


フィーナだけは俺の全てを応援する。


いいやつだ。


「ううう……僕は……」


リムルが泣きそうな顔になる。


周囲の空気がピリつく。


誰もイケメンのリムルが犬の様に這いつくばる姿は見たくないのだ。


ふん。

容姿がいい奴はこれだから得だぜ。

知らねーあいだに皆が味方になってやがる。

先にふっかけて来たのはリムルだろーに。

俺はそれに応じただけさ。

これじゃ、まるで俺が悪者だぜ。


「……くっ、わ、わかっ……」


よし、この辺でやめといてやろう。


「おい。リムル。これは貸しにしておいてやるよ」


「え?」


「犬の真似はしなくていい」


周囲の空気が緩まった。


アオイとエミリアの顔がほころぶ。

冷酷だった俺が温かい笑顔で、リムルに手を差し伸べている姿を見て、二人ともホッとしている。

冷酷と温和のギャップ。

リムルを許す俺は、周囲に寛大な人間だという印象を与えることになる。


「な、なんで?」


「いつか、言うことをきいてもらう。その日まで取っておく」


こうして俺はリムルに恩を売った形になった。


「あ、ありがとう」


酷いことをしている俺に恩を感じるリムル。


復讐はまだまだこれからも続く。

今は、いいひと。と思わせておくことも大事だ。


「カイト。まだまだね」


一人、フィーナだけが不機嫌だった。



その日は、適当な宿屋に泊まることにした。

もちろん、女性陣とは部屋を別にした。


だが、


ギイイ……


扉の開く音。


ぽわぽわの頭をした影が俺のベッドまで伸びている。


「カイトさん、一緒に寝てください」


「え?」


その影はアオイだった。


「いや、その……」


「カイトさんのことを想ってたら眠れなくなっちゃって……」


テヘペロしつつ、右の拳骨を自分のぽわぽわ頭にコツンするアオイ。


やべ、超かわいい。


まさかの、逆夜這いとは……

現実世界じゃ考えられんことだ。


「まぁ、アオイったら、カイトに夜這いだなんて、ふしだらな娘ね」


アオイの背後に立つは、エミリア。

月明りに光る紫色の髪がなまめかしい。


「エミリアだって、カイトさんを襲おうとしに来たんでしょ!このエロ雌!」


「ま、こんな美しいレディをつかまえて、エロ雌なんて失礼ね」


アオイもなかなか口が悪いな。

てか、エミリアに対してだけか?


ボカ!


「いったーい!」

「あら、なにすんのよ!」


頭にたんこぶ作ってしゃがみ込むアオイとエミリア。


その背後に立つはフィーナ。

手に棍棒を持っている。


「うるさい、さっさとクソして寝ろ!」


そして、夜は更けていく……


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