第16話 仲間にするのって、ゲームの時と比べると大変だ

「大丈夫?」


「……」


「あの……」


ゲームだとすんなり仲間になる場面だ。

だが、ゲームが現実になっているこの世界だと、言葉を掛けてあげて仲間にしないといけないみたいだ。


断られたらどうしよう。


ストーリーの展開上、それは無いはずなのだが……


女の子に声を掛けて、友達になってもらうのって、勇気いるなあ。


「おい」


フィーナの低い声が洞窟内に響く。


「え?」


「じっと見るな。恥ずかしい……」


彼女の服は破けていて、白い肌が所々露わになっていた。

俺はいつの間にかその肌に目が釘付けになっていた。


「あ、ごめん。ボルタに襲われて破けたんだね」


「……」


「これ、使っていいよ。俺の着古しだけど」


俺は自分の着ていた布の服を手渡した。

フィーナはそれを受け取ると、奥の曲がり角まで移動し、俺の見えないところで着替え始めた。

彼女は自身の衣装の下に布の服を身につけ戻って来た。


ゲームでは、武器や防具に耐久度という概念は無い。

だが、ここでは攻撃を受けた防具は、破損したり、破けたりする。

武器も繰り返し攻撃に使えば、刃こぼれもする。

それでもステータス上、攻撃力や防御力は落ちることは無い。

武器防具の見た目の損傷も時間が経てば、勝手に修復していく様だ。

俺の金の剣も、戦いの度に欠けるが、時間が経てば勝手に元通りだ。

それと同じで、見る見るうちに、フィーナの衣装も修復されて行った。


「後で返す」


「ああ」


俺の布の服。

もう不要になった。

ちょっと寂しい。

だが、後でフィーナの脱ぎたてが手に入ると思うと、俺はちょっと嬉しかった。


「ところで、なんでボルタの名前を知っていた?」


「え、あ……」


フィーナが俺のことをじっと見ている。


「それは、き、君がボルタの名前を叫んでたから……」


嘘だ。

だが、怪しまれるのは嫌なので嘘を付く。


「そうだったか?」


フィーナは首を傾げている。


俺は平静を装う。


この世界での登場人物の名前を全て覚えている俺は、発言に気を付けなければならないと思った。

さっきは、初対面のフィーナの名前まで、口走りそうになった。

あくまでゲームと違って、生身の人間と接しているのだ。

ゲームでは無かった、こうしたやり取りには、ほんと、気を付けないと……

人間関係がぎくしゃくしたまま旅をするのはキツイ。


「あ、ありがとう。私はフィーナ」


フィーナは笑顔では無かったが、自己紹介をしてくれた。


「俺の名は、カイト」


「カイト。じゃ、私はここで」


「え?」


やば。

サラリと去ろうとするな。


「ちょっと、俺と一緒に旅しないか!?」


「ん……」


「さっきみたいに協力すれば、旅もスムーズに行くと思うんだ!」


「……」


「な、頼むよ」


「分かった」


フィーナが仲間になった!


ミナミの声が俺の脳内響く。

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