第3話 残された力

「駄目。もう一歩も歩けないわ」


 遥か先に見える会場に、母上様が音を上げる。


「ええっ? 行きたいって言ったの、母さんだろ」

「それにしたって、シャトルバスくらい出てると思ったのよ。こんなに遠いなんて」


 知らないよ。

 掘り出し物市とかまったく興味ないイベントなのに、荷物持ちとして引っ張り出されただけだもん。

 提示された報酬につられて来た。

 そんな僕に、"歩けない"と訴えられても。


(じゃあ帰ろ、くらいしか提案できない)


「あっ、あれ!」


 そう言って、突然母さんが指さしたのは。


(タクシー?)


 ちょうど人が降りるとこ。この近くのお店に送ってきたんだな。


「待って、乗ります。乗せて!!」


 一歩も歩けなかったはずの母さんが、タクシー目がけて走り出した。

 

 ……むちゃくちゃ体力残ってんじゃん!!

 


       ― おわり ― 

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