遠野対策機関

トモフジテツ🏴‍☠️

第一章 プロローグ

第一話 草木も眠る丑三つ時


 最初は夢かと思った。

 車の後部座席で目を覚ます。


「ここは!?」


 運転席に男の人、助手席には多分、女?

 両隣にも誰かいるけど暗くてよく見えない。

 全員が俺を無視。


 兄ちゃんが買ってたのに似てるな、ワゴン車種?

 今日も乗せてくれたっけ。

 いや、そんなことより!


「無視しないでください!」

 

 家で寝てたのに何でこんな車に!?

 知らない人達と!


 暗さに目が慣れてきた。

 月明かりもある。

 つまり、今はまだ夜。


 右の席には女子高生? 女子中学生? 制服を着た人。

 左側にはスーツ姿、会社員?

 どうしよう……会社員女と目が合った!


「金谷君どうしたの? さっきからもぞもぞして」

「いや、その」


「急に敬語使いだして、ふざけてるの?」

「ええ……」


 金谷かなや謙一けんいち、それは確かに俺の名前。

 左の人は俺の知り合い? 記憶にない。初対面じゃないの!?


「謙一せんぱーい!まーた葵さんに八つ当たりしてるんですかー?」


 右側から声が聞こえた。

 整理するとスーツの女性はアオイさん、制服姿の人は俺の後輩?

 俺に、金髪の後輩なんかいない!


 その時、両手の異変に気付いた。


 手錠。


「何ですかこれ! 俺、誘拐されてるんですか!?」


 無視。


「答えてください! あなた達、誰なんですか?」


 金髪女が、まじまじと俺を見つめる。


「ちょ、先輩喋り方。どしたんですか?いきなり。そういうプレイ始まっちゃいました?」

「谷丸ちゃんほっといたら? どうせ金谷君の気まぐれでしょ」


「悪ふざけにしても今日、一段ときっしょいですね〜」

「ですってよ、金谷君」

 

 運転席と助手席の男女は無言。

 両隣の人の方がまだ話せるかもしれない、性格はキツそうだけど。


 手首から伝わるヒヤリとした感触や車の揺れが、これは夢じゃなく現実だと伝えている気がした。

 

 胸ポケットから音と振動を感じる。


「なんだ、一応やる気はあったのね」

「先輩アラームうるさーい!切ってくださいよー」

「でも俺、手錠されてて!」


「谷丸ちゃん、外したげたら?」

「はーい。謙一先輩、もう逃げちゃダメですよ?」

「知らないよ、逃げるだとかどうとか」


 スヌーズ状態、設定時間は深夜一時。

 取り出したスマートフォンは確かに自分の……じゃない、何だこれ!?


「あの、アオイ……さん? 設定いじりました? これ」

「触るわけないでしょ。キモいから名前で呼ばないで」


「ならあの、タニマルさん? 俺のスマホカバー知りません?」

「やー、知らない知らない!そのナヨナヨしたキャラほんっっときしょいです!いつまで続けるんですか?」


 使い慣れたスマホ、今の年月日を見ても兄ちゃんと出かけた翌日の午前二時で間違いない。


「日付変わってたんだ。というか画面……」

 

 壁紙もアプリ配置も全部が普段と違う、プロフィールは?

 氏名が金谷謙一、合ってるのはそれだけ。

 電話番号もアドレスも何から何まで見覚えがない。

 寝てる間に誘拐されて持ち物をいじられた!?


「あ……指」


 スマホを触って、気付く。起きてから変なことだらけだ。

 手も指も、大きい。目線も高い。

 背丈? 手? 妙に思った俺はとっさに端末のカメラを起動してインカメに切り替え。

 自分の顔を映し出す。


「せんぱーい?今日きしょさ極まってますね、そんなにナルシストでしたっけ?」


 画面に表示された髪型には見覚えがある。

 俺じゃない、音楽室で何度も見た肖像。

 ベートーベンみたいなヘアスタイル。

 目は俺と違って二重まぶた、アゴには中途半端な無精髭。

 首元には暗い色の……チョーカー?


「爆弾、触ってもそれ取れないからね」

「首のこれ爆弾なんです!?」

「あー私なんとなく分かってきた!謙一先輩!記憶喪失ごっこってやつですね!」


 外すことはできないと話すアオイさん。

 変な誤解をしたままのタニマルさん。

 二人の首にもチョーカーが巻かれている。


 謎の車、自分のものではない顔、とどめに爆弾!?


 どんな状況だよ、これ!?


「俺……いや、俺達、デスゲームか何かに連れてかれるところですか?」

「デスゲーム? そんな生ぬるいものじゃない」

「楽だったんですけどね?ルール決まってる系ならー」


 二人の言い放つ言葉の意味がわからないまま、走る車に揺られ続ける。

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