第28話 ある気付き

「アティナ!」

「クルス!」


 クルスはアティナの手を取り、立ち上がらせた。


「さっきは突き飛ばしてゴメン」

「……うん。後でたっぷりお仕置きだから」

「え?」

「うそ、うそ。さ、行こう!」


(まったく、アティナにはからかわれてばかりだ……)


 ニコリと笑うアティナ。

 クルスは緊張で硬くなった心が少し柔らかくなった。

 胸の傷に気を取られているゴーレムを尻目に、港町マドニア目指す。


「アティナ、大変なことに巻き込んじゃってゴメンね」

「平気だよ。それに村の外ってどんなとこか見て見たかったから……クルスと一緒だし楽しいよ」


(楽しい、か……)


 ゲームではアティナを村の外に連れ出せない。

 この異世界で彼女は初めて村の外に出れた。

 クルスにとっては嬉しい感想だった。


 それにしても、出現するモンスターの強さは気になる。

 クルスが一人で狩りをしていた頃は、Aクラスのモンスター何て現れなかった。


(もしかして……)


 だが、そうとしか思えなかった。


「ゴオオン……」


 ゴーレムが一瞬こっちを振り向いた。

 目鼻が無いのにまるで笑ってるかの様に見えるから不思議だ。


(何がおかしい?)


「クルス、前!」


 アティナの声がクルスの耳朶を打つと同時に、彼女の細い指がクルスの袖を掴む。

 後方に引っ張られる。


「おわわっ!」


ゴボッ、ゴボボッ、ゴボボボボッ!


 目の前の大地が盛り上がる。

 土の塊を巻き上げながら、ゴーレムがもう一体現れる。


(仲間を呼びやがったのか)


 先程の、ゴーレムの不気味な笑顔がクルスの脳裏を過った。


「クルス、右!」


 アティナの声で右を向いた。

 すでに大地からゴーレムの頭が生えていた。


ゴボッ、ゴボボッ、ゴボボボボッ!


 左側からも音がする。

 確認するまでも無い。

 港町マドニアへの進路が断たれた。


「ちょくしょう! 何でお前らまで僕の行きたい道を塞ぐんだよ!」


 クルスはゴーレム達に八つ当たりした。


「危ないっ!」


 アティナがクルスの腕を引っ張った。


ドスンッ!


 まるで巨大なハンマーが振り下ろされたかの様な音と衝撃。

 それまでクルスがいた場所には大穴が空いていた。

 3体のゴーレムが、同時に拳を振り下ろした結果だった。


 それから、クルスとアティナは逃げ惑った。


 上空から見れば、二人が同じ場所をグルグル回ったり、北に走ったかと思えば、南に走ったり--

 まさに、迷走という言葉が当てはまる様な行動をしていた。


 そして、いつしかクルスとアティナを追うゴーレムは計10体にまで増えていた。


「はぁっ、はぁっ」

「はっ、はっ……」


 暗い森の中をクルスはアティナの手を取り走り続けていた。


(アティナが苦しそうだ。背負ってあげたいけど、止まったらゴーレムの餌食になってしまう)


 それだけ二人とゴーレムの距離の差は縮まっていた。


 前衛のゴーレムが邪魔な木をなぎ倒す。

 開いた道を、後衛のゴーレムが突き進む。

 遮る物が多い森の中、前衛と後衛が連携し合いながら、難なく巨体を移動させていた。


「あっ!」


 アティナの叫び声が森に響く。

 クルスと彼女の繋いだ手と手がほどける。


「アティナ!」


 振り返るとアティナが視界から消えていた。


「クルス!」


 恐らく石につまずいたのだろう。

 地に伏したアティナ。

 すぐに顔を上げクルスに助けを求める。


 --だが、もう遅い。


 彼女の背後にはゴーレムの群れが、その岩の様な拳を一斉に振り下ろそうとしていた。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る