第27話 モンスターの行動パターン

(あのゴーレム、アティナばっかり狙いやがって……)


 クルスは短剣を袋から取り出し、ゴーレムの足首辺りに向かって投げつけた。


「グォゴ!?」


 振り返るゴーレム。

 目鼻が無いのに、不審そうな表情をしているのが何故か分かる。

 虫にでも刺されたくらいのダメージだろう。

 だが、ダメージを与えることが目的じゃない。


「やーい! か弱い女の子ばっかり狙いやがってー! デカいくせして情けないやつー!」


 クルスは舌を出し、ゴーレムを指差す。

 そして、恥ずかしげもなく尻を突き出し、ゴーレムに向かってその尻を叩き始めた。


(こんな恥ずかしいこと、しらふじゃ出来ないよ)


 クルスはスキル『挑発・初級』を発動させていた。

 彼の性格とは無関係に、汚い言葉が口を突く。


「グゥオゴオオオオオッ!」


 ゴーレムは全身を真っ赤にし、両腕を振り上げた。

 クルスに向かって突っ込んで来る。


(やった! 挑発成功!)


 モンスターは、闇雲に攻撃を仕掛けて来る訳ではない。

 モンスターなりに考えがある。

 一例としては……


"モンスターは、パーティメンバーを選んで攻撃する。"


 選ぶ基準は様々だが、クルスが知る限りでは、ざっくり以下の順番で攻撃対象を決めている。


1.挑発してくるメンバー

2.治癒魔法や補助魔法を使うメンバー

3.HPが一番低いメンバー


 モンスターの戦闘アルゴリズムとでも言うべきか。


(あくまでゲームで得た知識だから、この異世界でどこまで適用されてるかは分からないけれど……)


 パーティ戦が初めてのクルスなりに、観察し考えた。

 やはり、ゴーレムはアルゴリズム通りの動きをした。


 その証拠に、真っ先にアティナを狙って来た。

 だから、彼女を安全な場所に突き飛ばした。

 案の定、ゴーレムはアティナに向かって行った。

 アティナは治癒魔法が使える。

 だから、ゴーレムにとって順番2が当てはまり、アティナを優先的に攻撃して来たのだ。


「やーい! ノロマ! 遅いぞー!」


 そこで、挑発を続けるクルス。


 ゴーレムは順番1が当てはまり、攻撃の矛先をクルスに向けて来た。


(アティナ……僕をあんまり見ないでくれ)


 アティナの視線が気になる。

 挑発スキル発動中は、別人格の様に振る舞うことになる。

 アティナを守るためとはいえ、本当は大人しい性格のクルス。

 スキルで動いているとはいえ、今の自分を見られるのは嫌で仕方がない。


「おらおらぁ! 我を失ったか! ゴーレム!」

「グオッ、ゴオッ、ゴオオオオッ!」


 挑発されて苛立つゴーレム。

 土煙を上げ、猪突猛進にクルスに向かって来る。


(頭に血が昇ってるから、無防備なもんだ)


 クルスは剣を上段に構えた。


「はっ!」


 スキル『波動切』が発動される。


 振り下ろした剣から、三日月形の波動がゴーレムに向かって飛ぶ。


「ゴオッ、ゴオオッ!」


 ゴーレムが後方にのけぞる。

 その土の胸板に、三日月形の傷が付く。


「もういっちょ!」


 地を滑る様に進む三日月。

 波動が、先程付けた胸板の傷に重なる。

 ゴーレムの胸板に×マークが出来た。


(あんまりやるとMPが足りなくなる。この辺にしとこう……)


 『波動切』は『再発動時間リアクティブタイム』が少ないので、ほぼ連続で繰り出すことが出来る。

 与えるダメージはそれ程じゃないが、こうやって連発することで足止めにも使える。


 レベルの差があっても戦い方を工夫すれば、道が拓ける。

 それがドラゴネスファンタジアの面白いところではある。

 

「アティナ!」


 クルスはアティナの方に向かって走り出した。


つづく

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