第25話 モンスター生成法則

ブンッ!


 クルスは鉄の剣に付着した血を払った。


 足元には右肩から袈裟切りにされたモンスターの死体が転がっていた。

 鉄の鎧に鉄の兜……騎士の真似事の様な格好をしたゴブリン。

 その名はゴブリンウォリアー。


「Cクラスがなんで、ここに……?」


 レベル25のクルスでも手こずった。

 Cクラスのモンスターは、パルテノ村周辺ではまず現れない。

 クルスが知る限り、ゲームでもこの異世界でも。


(この異世界はゲームとは、違うのか……)


 そもそも、ゲームではアティナを村から連れ出すことは出来なかった。

 それが今、出来てしまっている。


(運命が変わると、モンスターの生成ポップ法則も変わるということか……)


 ドラゴネスファンタジアのモンスターは生成ポップという過程を経て、プレイヤーの前に現れる。

 何が生成ポップされるかは--


”プレイヤーの位置座標”


 によって決まる。

 つまり、ゲームのはじまりの地であるパルテノ村周辺は、E、Fクラス……まれにDクラスといった弱小から中級のモンスターが現れることが多い。

 反対に、魔王の居城では、Sクラスといった強力なモンスターが現れる。


 この異世界でもゲームでの生成ポップ法則が当てはまっていた。


 だが、その法則がズレ始めていた。


「いてっ!」


 右腕に激痛が走った。

 先程の戦いでクルスは負傷していた。


「クルス、動かないで!」

「あっ……」


 血が噴き出す傷口に、アティナの柔らかな手が添えられる。


「スリング!」


 詠唱と共に、彼女の手から優しい光があふれだした。

 傷がみるみる塞がり、HPが回復して行く。


「よし。完璧!」


 治癒した部分を撫でながら、アティナは笑顔でクルスを見つめた。


「ありがとう! アティナ」

「守ってくれたんだもん。どういたしましてだよ」


 アティナは得意げに、トンと自分の胸を拳で叩いて見せた。


(アティナに傷がつかなくて良かった……)


 ゴブリンウォリアーに手こずったのは、アティナを守りながら戦ったせいもある。

 正直言うと、彼女は戦力にならない。

 戦闘経験が無いので、後衛で回復役を任せることも出来ない。

 それならば、常に側にいて守りながら戦うしかない。


「アティナ、MPの残量には気を付けてね」

「MP?」


 クルスはアティナのステータスを確認した。


「治癒魔法を使うための力だよ。あと3回くらいしか使えない。自分のためにとっておいてね」

「へぇ、クルスってそんなことが分かるんだ」


 この世界でステータスを確認出来るのは、クルスと七英雄の末裔だけだろう。

 ゲームの通りなら……


「大丈夫。クルスのためにとっておくよ」

「アティナ……」


 彼女の気遣いは嬉しかったが、クルスの気持ちは暗い。


(これ以上、クラスの高いモンスターが現れたら厳しいぞ)


 Cクラスが複数体現れても厳しい。


 まるでクルスとアティナが逃亡することを妨げるかの様だ。


「急ごう。アティナ。港町マドニアを目指そう」


 森を抜け、見晴らしのいい街道を歩く。

 これなら、モンスターの位置も分かる。


つづく

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